《青の三部作》
青の研究をはじめて、かれこれ10年となる。その連載をはじめるにあたってタイトルを「青の伝説」とした。そこで、同名の作品がある平岩弓枝さんの「青の三部作」から紹介をはじめることにする。
《青の伝説》1985年2月
スリランカの古都で、新婚の外交官夫婦を襲った魔の手。夫を奪われた三好浩子に替わって、国際刑事課刑事の兄は殺人者を追うが、ニューヨークと日本で、関係者の連続殺人事件が起こる。浩子に激しく求愛する青年学者との未来は・・・。滅びた者の謎と悲哀を秘めた、愛と献身の推理ロマン。この小説は、「青の回帰」、「青の背信」と続く“青の三部作”の第一部として刊行された。「青の伝説」は、スリランカのコロンボにある日本大使館に勤務する外交官の三好和彦と結婚した妻の浩子が、現地での新婚生活一ヶ月目に夫と旅行に出かけ、殺人事件に巻き込まれるという物語。謎の死を遂げた妹の夫の事件を、警察庁国際刑事課に所属する有沢彰一は、和彦を殺した犯人を探し出す執念の調査を開始するが、殺人事件の起きる舞台が、スリランカ、ニューヨーク、ロングアイランド、シシリーなど国際的なスケジュールで目まぐるしく変わっていく。“青の三部作”と言われているように、小説の特徴は青という色が大きな役割を果たしています。この「青の伝説」の“青”は、宝石のサファイアの青であり、深海の青であり、登場人物にとってかけがいのない永遠の夢、心のよりどころ、母の愛として描かれている。そして、それが犯人の犯罪動機に結びついていることが、作品の最後で明らかになる。
《青の回帰》1985年5月
トルコの広大な高原地帯の僻村で、駐在商社員・三田村五郎は、日本の大女優・石河永子を知り、激しく惹かれていく。永子は、この国に浸って動かない夫である高名な画家・権藤浩太郎に会いに来た。丁度、先妻との娘・小野笙子もまた父に会いに来て、運命は不思議な糸で人々を複雑に結んでいく。芸術家夫婦は、愛と憎しみに苦しむが、三田村と笙子の間に愛が芽生える。しかし、青いモスクの街イスタンブールで、奇しくも再会した四人に、運命は過酷な不意打ちを加える。飽食の文明国日本と、古代から変わらない素朴なトルコの大地に展開する、愛と死のロマン。青の三部作第2弾刊行。この小説は、1983年12月10日より59年9月10日までの約一年間にわたり、読売新聞朝刊に連載されたもの。この小説の中でも紹介されているイスタンブールにあるブルーモスクが、ここでは重要な意味を持っている。トルコでは、青の色の意味が「天国であり死である」と言われている。4人の男女が織り成す愛と死の世界は、人間の善と悪の部分が巧みに描かれている。欲、嫉妬、猜疑心、慈しみなどなど・・・誰もが持っている、素直な人間の感情として嫌みなく書かれ、最後は、4人ともそれぞれの破局を迎えるのだが、ストーリーの底にブルーモスクの持つ意味が、一貫して流れている。
《青の背信》1986年6月
杭州を旅行中の美術雑誌記者・宗誠一郎は、美貌の実業家黄夫人と知り合い、奇跡の名盌・木ノ葉天目を見せられる。美しい火の芸術に心を奪われ、帰国後その日本人陶工を探すが、一切は謎のまま次々と関係者の死が続く。夢の女と天才陶工の影を追う誠一郎が見た真実とは?激しい情熱と壮大な企み、青の三部作の完結編。東京の美術出版社の編集者・宗誠一郎と大学時代の友人・大島啓助の二人が、中国の西湖を旅行中に“木ノ葉天目”の茶碗を偶然目にしたことから、物語は展開していく。この茶碗の漆黒の中の青に魅せられた誠一郎は、帰国後、陶芸家米山について調べる過程で、一人の女性と知り合う。そして、名器といわれる“木ノ葉天目”にまつわる複雑な謎に直面するのであった。中国と日本を舞台にして、その謎の背後に秘められた邪悪な意図と野望が絡み合うなか、意外な結末を向かえる。
青の研究をしていなかったら、この三部作を読むことなどなかったに違いない。青いサファイア、ブルーモスク、そして木の葉天目茶碗の漆黒の中の青。いずれの作品にも美術と深い関係のある「青」いものが登場し、一気に読破してしまった。