レオナルドは私たち常人の視点とは違って、常に新しくそして逆転の発想をもっていたようです。その典型が彼の文字かもしれません。
《鏡面文字》
一般には「左利き」だったからと言われていますが、高津道昭さんは「印刷原稿とする為」という説を出しておられます。おもしろい考えなので、少し紹介しておきましょう。
①解読防止説②左利き説、①に関しては、鏡に映せば読めるので「若干読みにくくしたという程度の「小さないじわる」で終わってしまうと述べている。②に関しては「果たしてレオナルドは本当に左利きであったのだろうか」と述べて、右利きの可能性を主張している。根拠としては、アランデル手稿の「左手を膝にあて右手を眼の上にかざし」という記述や、ヴァザーリ『美術家列伝』の「彼の体力はどんな凶暴をも制し、右手一つで扉鐘の鉄の懸輪や馬蹄鉄を鉛のようにやすやすとねじまげた」という過所から、右利き説を主張している。その他にも、自画像の描き方や、絵画などを状況証拠として上げている。当時の出版状況は、グーテンベルクの活字の開発から50年間で約四万点、一冊あたりの発行部数は三百~五百部であった。ダンテの『神曲』がトスカナ語で書かれて事を発端に、書物の大衆化が進んでいた。ラテン語の苦手なレオナルドは「当時のイタリア語による出版を意図していたのである」その後「版を起こせる人がいない」等のレオナルドの著作が出版されない理由を述べた後、製版者はある意味で原画の模倣を行うわけで、原画が優れていればいるほど忠実な複製が要求される。その不可能を可能にするため、レオナルドは自身の手稿の図を左右反対に描いた。そして、後世そのことが忘れ去られるのを防止するため、文字を逆向きに記しておいたのである。
画像:「螺旋」に関する手稿をまた発見、ここにも「鏡面文字」がびっしりと書き込まれています。