「竜頭」の次はやっぱり時計の「バネ」について。「ゼンマイ」仕掛けの玩具を分解したりして「バネ」は子どもの頃より興味をかきたてるものであった。また「おじいさんの古時計」という歌がリバイバル・ヒットしたが、キリキリとゼンマイを巻くという行為は心ときめく瞬間でもあった。
《発条》
「ばね」屋さんの屋号(商号)によく何々発條とか何々発条と用いられています。「発條」を訓読みすると「ゼンマイ」となります。「ばね」の語源は「跳ねること」が訛って濁ったもの、というのが『大言海』や『日本国語大辞典』の解釈です。元禄時代に成立した『書言字考節用集』に見られる「鎖子(じょうえ)または鎖(はね)」という言葉をもとに、もう一つの説が出されています。鎖子は鎖帷子(くさりかたびら)、鎖は鎖襦袢(くさりじゅばん)のことで、どちらも武士が身につけた戦争用の下着で、釘線が網状に織り込まれ、多少の弾力性を備えていました。これが刀や槍を「はね」のけたので、ここから「ばね」の古語が生まれたというわけである。 「ばね」を表す漢字としては、鎖鬚(さしゅ)、発軌、弾機、発弾、発条、撥條などが当てられてきましたが、その由来は今となってはどれも定かではありません。しかし、寛政8年(1796)に細川頼直が著した『機巧図彙(からくりずい)』では、ばねのことを「弾金(はじきがね)」あるいは「はじき金」と記していますし、文政2年(1819)に鉄砲鍛冶の国友藤兵衛能当が書き残した稿本『気砲記』には「ハシキ金」、また井上流砲術の伝書には「弾金」とあります。したがって、部品として独立した呼称である「発軌」「弾金」を「弾機」に当て、また「はじきがね」を「跳ねる」とひっかけて、これが「ばね」へと訛ったのではないかという説が、現在では「ばね」の語源説として有力になっています。
《スプリング》
英語でspringは「春」ですが、「バネ」や「泉」の意味もあります。古英語springan、原義は「突然わき出る」。「春」は「芽が出る時」、ドイツ語springen(とび出る)(エンカルタ総合大百科事典英和辞典より)「バネ」、「春」、「泉」は語源が同じようです。「突然わき出る」ものとしての「泉」から、多くの芽や花が出る時期ということで「春」を意味するようになったのでしょう。同時に、「突然出る」ものとして「バネ」の意味になり、「バネ」になると、「弾む」「活気」「原動力」の意味になるのでしょう。
《歴史》
「バネ」の歴史を考えてみると、自然界にある弾力に富んだ木の枝などを利用して、小動物捕獲のための罠を使い始めたのではないでしょうか。そしてさらに、狩猟用に弓を発明してやがて武器としても使うようになったのでしょう。ゼンマイのルーツでは、わが国では江戸時代前半のカラクリ人形にたどり着きます。1551年に宣教師フランシスコ・ザビエルが時計を献上してから、西欧の時計が相次いで時代の権力者に貢がれました。そして1598年徳川家康に贈られた時計の修理を愛知郡の津田助左衛門が任じられたことから、ゼンマイが造られたといいます。当時はまだ金属を加工する技術がなく、クジラのヒゲを使ったものだったようです。そして、ゼンマイやバネ、歯車などを使ったカラクリ人形が数多く作られ、当時の人々の驚きを誘い興行的にも成功したのでした。このようにゼンマイは、古くから動力源として使用 されてきました。
《クリーン・エネルギー》
建設機械の大型クレーン、アームの上下運動の時に油圧のホースやセンサーのコードの巻き取りに大型のゼンマイが使われています。また、銀行や郵便局などの金融機関でもゼンマイが活躍しています。紙幣を数える機械の中のカウンターにゼンマイが内蔵され、過酷な条件下でもキチッとした仕事を果たしています。一方、公衆電話でテレホンカードを使用すると、使用度数を知らせる穴があきますが、そこでもゼンマイが使われているのです。このように、私たちの目につかない特殊な分野においてもゼンマイは数多く使われているのです。ゼンマイは言うまでもなく、たいへんクリーンなエネルギーです。今、問題になっているノイズに関する心配や動かしても火花が出ないなどの特徴を持った、クリーンで安全なエネルギーなのです。そうした特性を生かしてガス器具などに使用されているのです。またゼンマイの、環境に対して影響を与えない特性を生かして、南アフリカではラジオも造られています。これまでラジオは電池が動力だったために、どうしても使用済みの電池が捨てられていましたが、ゼンマイならばそうした心配がないからです。一方、ノイズの発生がないことから、宇宙船でもひげ剃りのシエ-バーに使用されました。地球のみならず宇宙でも使用可能なクリーンなエネルギーなのです。電池やモーターなどを使用せず、大きなエネルギーを持つゼンマイ。地球環境が叫ばれる中、さらに使用用途は広がりを見せています。