2023年の個人的No.1ヒットとなった『BLUE GIANT』(石塚真一著)。幼い頃に母親を亡くした宮本大が、世界一のジャズプレーヤーを目指して成長していく物語である。
友人に勧められて観た映画で感激し、漫画を全巻買い揃え、一気に2周読み切った。2023年は人と会うたびに「『BLUE GIANT』観ました?」ばっかり言っていたので、周りにはウザがられていたと思う(笑)。
さて、そんな『BLUE GIANT』だが、コミックでは日本編(1〜10巻)、ヨーロッパ編(「SUPREME」1〜11巻)、アメリカ編(「EXPLORER」1〜8巻)、ニューヨーク編(「MOMENTUM1巻」)が刊行されている(2024年3月現在)。
とにかく主人公の情熱が熱すぎるこの物語は、名言の宝庫でもある。今回は、僕が「ええなあ」と思った名言を独断と偏見でご紹介したい。ネタバレを含むので、まだ読んでいない方は、これから漫画喫茶に走って、全巻読み終えてから戻ってきてください(笑)。それでは始めます!
その日、その時、
その瞬間のメロディーをかます!!
毎日違う!!
ハゲしくて自由な音楽がジャズ!!
宮本大(『BLUE GIANT』1巻)
高校生の宮本大が、クラスメイトの女子に「ジャズの何たるか」を説明する場面。宮本大にとっての理想のジャズが表現されていると同時に、それは彼にとって理想の生き方そのものでもあるのかもしれない。確かにこんなふうに生きられたら最高かも。
へでもねえや。
宮本大(『BLUE GIANT』1巻)
サックスの練習を始めてから、初めて他人と一緒にステージに立った宮本大。しかしそこで大失敗し、ステージを降ろされる。ひとり公園で物想いにふけり、涙する……のかと思いきや。この名言である。何か失敗して落ち込んでいる人がいたら、このシーンだけでも読んでほしい。宮本大は物語が進むにつれてその強靭なメンタルに磨きがかかっていくが、その片鱗をいきなり見せつけた。
ジャズプレーヤーに、なる。
世界一のジャズプレーヤーになる。
世界一のジャズプレーヤーになる。
世界一のジャズプレーヤーになる。
世界一の、ジャズプレーヤーになる。
世界一のジャズプレーヤーになる。
世界一の、ジャズプレーヤーになる。
世界一の、ジャズプレーヤーになる。
世界一の、ジャズプレーヤーになる。
……オレは、世界一のジャズプレーヤーになる。
宮本大(『BLUE GIANT』2巻)
親友である玉田に、「何を根拠に音楽の世界で勝てると思うんだ」と聞かれ、「そういうのは、毎日自分で作るんだ」と答える宮本大。「どうやって?」と聞かれて、それを実践したのがこの言葉。まさに暗示、まさに呪文。これを聞いた玉田ら友人たちは思わず「……ヤベエ…オレ……お前なれる気がしてきた」「……オレも…」。宮本大の一途な思いが象徴的に表現されたシーン。
オレら…ゼッテー大丈夫だかんな。
宮本雅之(『BLUE GIANT』2巻)
母の葬儀中に泣く弟の宮本大に対して、まだ中学生である兄の雅之が、歯を食いしばりながらかけた言葉。雅之は大にサックスを買ってあげた恩人でもあり、作中にわたって大を支え続ける。会社員として働きながら大の夢をサポートする雅之にとって、大の夢は自分自身の夢でもあるのだろう。その溢れる家族愛と、内に秘めた強さに胸が熱くなる。
吹くの。毎日吹くの。
毎日毎日毎日毎日ずっとずっとずっと
ずーーーーーっと毎日吹くの。
きっと上手くなる。
先生応援してるから、ね。
黒木(高校の音楽教師)(『BLUE GIANT』3巻)
サックスを始めたばかりの宮本大に、「どうしたら上手くなるのかなあって……」と聞かれ、音楽の先生が答えた言葉。その後の大は、ただひたすら、この言葉を実践し続けているだけのようにも見える。でも実際、上手くなるにはこれ以外にはないのだろう。それはサックスに限らず。
兄ちゃんは仙台にいる。
オレはずーーーーーっと仙台(ここ)にいる。
宮本雅之(『BLUE GIANT』4巻)
またまた登場、お兄ちゃん。弟の大が東京に行くことを、まだ幼い妹の彩花に伝えた時の言葉。大は東京に行くけど、オレは何があってもここにいるから、心配するな。気持ちよく大を送り出してやってくれ……。そんな思いがこもっている。世界に飛び出していく大もカッコいいけど、家族を支えるために仙台(ここ)に居続ける兄貴もめちゃくちゃカッコいいし、胸が熱くなる。しかもまるで葛藤を見せることもなく、そういうことをさらっと言い、やってのける。おそらく兄貴の中では、人生の優先順位が明確なのだろう。一番は家族。それが揺るがないから、選択も揺るがない。こういう人を本当の意味で「大人」というのだと思う。
「やりたい」ってだけで…十分じゃねえの?
「楽しそう」ってだけが、入口なんじゃねえの?
「音楽をやりたい」って気持ちに、
お前、「ノー」って言うの?
宮本大(『BLUE GIANT』5巻)
ピアニストの沢辺雪祈は、バンドのメンバーに素人である玉田を入れることに反対する。それに対して、宮本大が反論した時の言葉。おそらく常識的には雪祈のほうが正論なのだが(笑)、大と玉田の情熱は実を結び、雪祈もやがて玉田を認めるようになる。「やりたい」「楽しそう」そう思ったら何でも気にせずやればいいのだ。
カケてるよ。
オレは、でっかいのにカケてっから。
宮本雅之(『BLUE GIANT』9巻)
ふたたび登場お兄ちゃん!こうやって書いてると、「オレ、お兄ちゃん好きなんやな〜」ということに気付かされる(笑)。大のお兄ちゃんである雅之が、会社の後輩とランチ中のシーン。後輩は、雅之の面倒見の良さ、堅実さ、真面目さを尊敬しつつも、ギャンブルさえ一切やらないことに少しあきれる。けれども雅之はそれに対して「やってるよ」とつぶやく。兄貴は馬や艇や自転車には賭けないが、弟の大に人生を通して賭け続けている。兄の雅之と弟の大は、まるで陰と陽、コインの裏表のような関係に見える。不可分にお互いを支え合っているのだ。
「ソーブルー」のステージに立った時、
オレは、「これが最後かもしれない」
そう思ってプレーしたんだ。
大、お前は?
これから何度も立つステージの、
その一回目だと思っただろ?
沢辺雪祈(『BLUE GIANT』10巻)
人間の潜在意識は、その人の人生に計り知れない影響を与えるものなのだろう。周りからどう見えていようと、その人にとって「あたりまえ」に思えることは、「あたりまえ」に実現する可能性が高い気がする。天才ピアニスト・沢辺雪祈が大怪我をして、大と玉田とのバンドの解散を切り出した時の言葉。誰よりも大を認め、その可能性を信じる雪祈の思いに涙。
音大じゃなくていい。
アメリカじゃなくて構わん。
勝負はそもそもそんなとこにはない…
「世界のプレーヤー」になる奴は、
どこから始めても「世界のプレーヤー」になる。
由井(大のサックスの師匠)(『BLUE GIANT』10巻)
アメリカ以外の海外に行きたいという宮本大に、師匠である由井が言った言葉。山頂はひとつでも、そこに至る道は無数にある、といったところだろうか。由井は早くから大の才能に気付き、サックスの基本を叩き込んだ。やはり何をするにも「師匠」の存在は大きい。由井に出会っていなかったら、大のここまでの活躍はあり得なかっただろう。
いいバンドの条件は?
って聞かれたら、オレはこう答えるね。
「結成初期に困難をくぐり抜けることだ」ってね。
今夜の君らは最悪だったけど、ラッキーだ。
お前ら全員くそラッキーだ!!
忘れるなよ!!
ガブリエル(『BLUE GIANT SUPREME』5巻)
ドイツで結成したバンドの初ライブが大失敗に終わり、絶望感が漂う楽屋。そこに姿を現したのが、後に彼らのマネージャー兼ツアードライバーとなるガブリエル。彼のこの言葉が、バンドに希望の光を当て、未来を暗示する。ちなみに、ガブリエルがここで例に出すのが、伝説的ロックバンド「U2」。何かを始めたとたん困難にぶち当たったなら、すぐにガブリエルの言葉を思い出そう。「今日は最悪だったけど、ラッキーだ。オレはくそラッキーだ!!」と。
お前の本番は、
いつでも今日じゃなくて明日なのか?
宮本大(『BLUE GIANT SUPREME』8巻)
大と同じテナー奏者でライバルの、アーネスト・ハーグリーブス。自分のキャリアを計算して、ステージを選ぶアーネストに対して、大は「毎日ステージに立つべきだ」と言い、この言葉を放つ。読みながら我が身を振り返り、ギクリとした人もいるかも。「その瞬間の“フル”」を出すことにこだわる大と、計算されたエンターテインメントを志向するアーネスト。やがて互いを認め合う二人の、意地と意地とがぶつかり合うシーン。
理由がないってことは、
アナタは本気ってこと。
そして、本当に音楽が好きってこと。
シェリル(『BLUE GIANT EXPLORER』2巻)
コーヒー店で働くシェリルに、「なんで、世界一になりたいの?」と聞かれ、「分からない」と困惑する大。それを聞いたシェリルが大に言った言葉。ともすれば、「理由がないということは、本気じゃないということ」と思ってしまいがちだが、シェリルに言わせれば、それは逆なのだ。確かに、理由があってやっていることは、その理由がなくなればやめてしまうだろう。損得、利害を超越した、魂レベルの動機。それが本当の「本気」というやつなのかもしれない。
私は、あんな風には思えなかったな。
私は途中で負けたと思った。
でも、彼は吹き続けたんだ。
きっと本人が負けたと
思わなかったら勝つんだね。
「オレなんて」、
そう思った瞬間に終わるんだ。
全てがね。
かつてジャズをあきらめたオジイさん(『BLUE GIANT EXPLORER』4巻)
夢を叶えられなかった自分を顧みるように語るオジイさんの言葉。「夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ」という言葉を思い起こさせる。夢はいつか終わるかもしれない。でも、夢はいつだって始まるのだと僕は思いたい。
オレのサックスは全力です。
「シリアスだ」ともよく言われます。
オレの中の全部を出します。
昨日も明日もない。
お客の心を動かすにはそれしかない。
計算なんかしない。
あんたは勝負の前に計算してる。
負けることが前提にあって、
小さく勝ちを重ねようとしてるんだ。
そんな奴がオレ達を値踏みするだ?
ふざけるな!!
宮本大(『BLUE GIANT EXPLORER』7巻)
ポーカーのゲーム中に、「ステージでは、どんなプレーをするんだい?」と聞かれた時に大が答えた言葉。同時に、ドラムで生きていくことから逃げているように見えるゾッドに向けたメッセージでもある。僕は人生には計算もある程度は必要だと思うけれど、サックスのプレイに、音に、それは絶対に出る。大はそのことを知っている。それが混じってしまったら、もう「大の音」ではなくなってしまうのだろう。そして、大に言わせれば、そんな計算を織り込んだ人生は、もう「自分の人生」ではないのだろう。
オレだったら絶望して音楽辞めてるよ。
偉大なことだよ。
アントニオ・ソト(『BLUE GIANT EXPLORER』9巻)
ピアニストの命ともいえる右手が交通事故で動かなくなり、それでも作曲を通して音楽を続ける沢辺雪祈。同じピアニストであるアントニオは、「ちょっとは動くのかい?右手。左手は?」と尋ね、その後にこの言葉をかける。いつも陽気なアントニオだが、彼自身も、普通ならピアノを続けることなど到底できない、過酷な環境の中から這い上がってきた。だからこそ、雪祈の「偉大さ」を誰よりも感じたのだろう。
………アレ? 今 気付いたけど…
練習って、タダじゃね?
練習って凄えな…!!
練習って…………尊いな!!
宮本大(『BLUE GIANT MOMENTUM』1巻)
サックス狂(?)である宮本大の、変態性が表れた言葉(笑)。ニューヨークの物価の高さに苦労する大たちのバンドだが、「練習は無料(タダ)」という事実を発見した大は、いっそう張り切って練習に励む。何をするにもお金がかかる資本主義の世の中で、「無料」の生きがいを見つけられたら、けっこう「無敵」なのかもしれない。「練習はタダ!」。練習嫌いなあなたにとって、処方箋になる言葉かも?(笑)。
NYには無数のジャズプレーヤーがいるが、
その誰もが“個性的”でありたいと思っている。
だが…ライチはライチでしかない。
それに自分で気づくのに何年もかかる。
何年もかかって気づかないプレーヤーもいる。
サム・ジョーダン(『BLUE GIANT MOMENTUM』1巻)
ジャズ界の大御所・サム・ジョーダンが、ニューヨークに来て間もない宮本大にかけた言葉。この言葉には、2つの意味が込められているような気がする。1つは、「どれだけ努力しようが、才能がなければ成功はできない」という現実の厳しさ。そしてもう1つは、「誰に憧れようとも、自分は自分にしかなれない。そのことに気づき、“自分のプレー”を追求した者だけが成功する」ということ。「ライチはライチでしかない」。それを肯定的に受け止めるか、否定的に受け止めるかで、生き方は大きく変わる気がする。
★番外編
「やる」を選ぶ
石塚真一(エウレカラジオ)
これは、著者である石塚真一さんがラジオ番組の中で、『BLUE GIANT』のテーマとして語っていた(ような気がする)言葉。人生にはいろんな選択がある。右か、左か。やるか、やらないか。その時に、「やる」を選ぶ。『BLUE GIANT』は、「やる」を選んだ人間の生き様を描いた作品とも言えるのだろう。
以上、僕の独断と偏見による『BLUE GIANT』名言集でした。まだまだ他にも、人生を変えるような名言が盛りだくさん。ぜひあなたも『BLUE GIANT』を読んで、自分の心に響く名言を見つけてみてください。