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”能力を過信し、二つの仕事を抱えて突っ走っていたら、ある日突然パニック障害を発症し、重症者のいる担当病棟への階段を昇れなくなった。行かなければならないのに足が前に出ない。おのれの情けなさに涙すら出ない。すると、このままでは発狂してしまうのではないか、との強烈な恐怖感が湧き、動機がし、壁をつたってなんとか医局の部屋まで戻った”
”うつ病の診断で心療内科に通っていたころは心身の疲労が強すぎて読み書きができなかった。とくに活字を追うのが苦痛で、新聞の見出しすら目にするのが嫌だった。(中略)そんな状態が三年も続いたのち、本は読めないままだったが原稿用紙一枚から二枚の文章がなんとか書けるようになり、リハビリのつもりで小説を再開した。
”歩いているうちに、歩くという行為は「わたし」は為しているのではなく、背を押す風や土の匂い、八ヶ岳の峰々に残る白い雪に誘われて、そういう自然の一部であるこの身が勝手に動いているだけのような気がしてくる。だから歩くのが苦にならない。”
”芥川賞の作品は寝て書いても完成させられるが、直木賞の小説はトラック数台分の資料を集めて読み込まないと書けない。これはむかしから言われている芥川賞と直木賞の違いを説明する話のなかではよくできたもので、芥川賞にはいわゆる私小説が多い、ということなのだろう”
”研修医のころ、思い喘息発作の高齢女性患者さんに初めてステロイド剤を点滴しているとき、心配でベッドサイドを離れられなかった。(中略)数年後、独り暮らしだったこの患者さんが息子さんに引き取られて都会に引っ越す際、あのときずっとついてきてくれていたことは忘れないよ、と言ってくれた。あれはただ、初めて用いる薬の作用、副作用がよくわからないので観察していただけなのですよ、との真実は照れ笑いの裏に隠しておいた”
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著者の小説も知らないけれど図書館で出会った縁です。タイトルに惹かれたのもあったけど、あまり猫のくだりは出てこなかったかな。医師と小説の両方で若い頃は休みなしで突っ走ってもモノともしなかった体力。しかし突然に病を発症してから健康の基本を見直す。食事、運動、睡眠など自分自身の日常を振り返ったりするもの。
同じ医療者だけに、亡くなっていく人を看取ることは、たとえ他人であっても、仕事であっても慣れない苦しさはよくわかります。病院でのエピソードには多々共感いたしました。それらの思いの溢れる事柄をふだんでは言えないので、小説に残したくなった気持ちもわかります。ちょっと文章のリズムが私には合わず、ワンセンテンスが長くて、まどろっこしく感じて、うん?と描写情景を頭に浮かべるのに時間がかかりました。なのでこの点数。
この本の中に、老いて才能を失ったら小説家はやめるべきだ、的なこと…を辛辣に述べている章があったのですが…私はそうは思わないです。愛する作家も人間だからこそ、輝かしい若い感性をもちいて表現する力があった時もあれば、それらが衰えていく苦悩が現れたものを愛でるのも作家ファンの醍醐味だと思うからです(一緒に年を重ねているような気分で嬉しい)
この本の中にも死や病を思い浮かべながら必死に生きる一人の人間がいました。それはそれでいいのではないか、と思うのですが、レビュー欄をのぞくと「著者も老いたな、、、次回はもっと活力のある作品を期待したい」みたいなことを書かれていました。なるほど…やっぱりファンはそう思うのか…と寂しい気持ちになりました。機会があれば、また小説を読んでみたいです。
檜原有輝 ひばらゆうき スケジュール
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