クレヨンしんちゃんの劇場版「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」クレしん劇場版ならず、アニメ史に残る名作として知られています。
未見の方にあらすじを説明すると、
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春日部に完成した20世紀博というアミューズメント施設。20世紀のあらゆる娯楽を取り揃え、大人たちを魅了していた。しかし、その実態は「イエスタデーワンスモア」という組織が大人たちを洗脳し、21世紀という未来を破壊する事だった。21世紀を守るために、野原一家は戦う・・。
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あの、野原しんのすけが東京タワーのような建物を必死で駆け上り、血だらけになりながら未来を守るシーンは映画史に残る名シーンです。必死で未来を守ろうとするしんのすけに対して、組織のトップであるケン、そして恋人であるチャコは、必死で足にしがみ付くしんのすけに対して、こう問いかけます。
どうして?
どうして、そんなにまでして守りたいの?
しんのすけはこう言います。
オラ、大人になりたいから。
大人になって、お姉さんみたいな綺麗なお姉さんといっぱいお付き合いしたいから。
あと、父ちゃんや母ちゃん、ひまわりやシロとずっといたいから。
それを見た20世紀博の住人は20世紀を捨て、21世紀を生きる覚悟をする。
つまり、未来にはミライがあるというのが本作の結末でありメッセージです。
僕がこの作品を初めて見たときは小学校の高学年くらいでしたが、しんのすけと同じ立ち位置でした「そうそう過去にこだわって何があるんだ?未来の方がいいじゃないか」当時、広末涼子がCMでiモードを高らかに宣伝し、宇多田ヒカルが時の人、浜崎あゆみが「松浦、愛すべき人がいて」と歌っていた時代です。誰もが未来はあるもので、未来には希望がありました。携帯が普及して、YahooBBの登場でネットが定額になり始めました。あれから20年近くが経った今、ふとあのシーンの事を思い出しました。あの、しんのすけが血だらけになったシーンです。
今、我々の手には5インチのiPhoneがあります。LINEで誰とでも交流できて、欲しいものはAmazonで何でも買える。雑誌は400円も払えば200冊近くが定額で読めます。
でも、我々が求めたものって、この5インチのスマホだったのでしょうか?
子供時代に抱いた希望の未来が5インチのスマホを凝視して1日を過ごすという事だったのでしょうか?当時、若者のコンテンツの中心は少年ジャンプでした。月曜日の朝、コンビニにダッシュで行って買う。世代によっては、ドラゴンボール、スラムダンク、ワンピース、こち亀。小学生なら月1回のコロコロコミックを待ちわびてました。
今のようにアニメは豊富ではありませんでしたが、学校が終わって放課後に友達と遊び終わるとテレ東の夕方6時枠のアニメを見るためにダッシュで帰宅してました。今のように1週間分なんて録画する機能はありません。ビデオも大抵は3倍録画で、どうしても残したい番組だけ標準録画。それでも2時間がMAXでした。フジテレビの27時間テレビなんて、6時間おきにビデオの入れ替えです。
今のちびっ子には信じられないでしょうが、金曜日のレンタルビデオ店は大混雑。半額セールの日なんて、開店前から長蛇の列です。
昔は不便でした。
でも、今から振り返るとあの時代には懐かしい匂いがありました。
野原ひろし的に言えば「懐かしくて頭がおかしくなる」匂いです。
レンタルビデオ店が閉店し、大抵の物はネット通販で買える。
1日の大半の時間をiPhoneを凝視して過ごす。
あれ、僕らが希望を抱いていた未来ってこれでしたっけ?
その意味で「クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲」を見返すと、野原しんのすけが命がけで守った未来という選択が正しかったのか考えさせられます。