では、基本的な材料である4つの要素が、それぞれどのようなものなのか、前述の「震災時のデマ」を例に見ていこう。



問題提起


与えられたキーワード

 震災時のデマ


キーワードの意味

 震災時にどのような誤った噂が流れ、どのような問題が生じたか。


※問題に「東日本大震災」という限定がなければ、関東大震災や阪神淡路大震災におけるデマとその影響についても軽く触れたほうがよい。



問題の例


身近な例

 自分の周りでもどのようなデマが聞かれたか


問題になっているもの・問題があると思う部分

 人を騙そうという悪意がなくても、結果としてデマの流布に加担してしまう人々の軽率な言動


※最初から悪意のあるデマを流そうとする人間が悪いのはわかりきっているので、そこを非難しても掘り下げようがない。



問題の考察


問題の影響

 風評被害やパニック


問題の背景

 人々の情報リテラシーの低さ


※「情報リテラシー」のように一般になじみのない語を使うときは、それが何かも示しておく。



自分の提言


問題の改善の方向性

 情報リテラシーの向上


具体的な改善策

 無責任な流布を助長しないよう、情報の読み方・受け止め方や、論理的思考の訓練を学校教育や地域での社会教育に取り入れる。


※改善策として、「デマを流した人間への責任追及」のような、罰則強化の方向性で考えるのはやめよう。
その場合、明らかな悪意のあるもの(最初から風評被害を狙ったようなもの)ならば取り締まりも簡単だが、そのような悪意のない、愚かな善意(本当だと信じて人々に警戒を呼びかけようとするようなもの)は、どこまで責任を問えるのか判断が難しく、罰則を強化したからといって、デマの流布を防げる見込みはない。



(1)基本的な材料を集める

忙しい受験生にとって、小論文を書き上げる時間は取れなくても、この「材料集め」の練習なら短時間でもできるはず。
慣れが必要な作業でもあるので、数をこなすことも大事だよ。


材料集めの練習として手頃なのは、参考書やネット上の参考サイトなどに載っている、小論文入試に頻出の用語を集めた一覧から、キーワードを一つ選び、そこから材料を書き出していくというもの。


まずは、そのキーワードから、社会的に問題となっているものごとを思い浮かべ、以下のものを書き出してみよう。


問題提起 :「与えられたキーワード」+「キーワードの意味


問題の例 :「身近な例」+「問題になっているもの・問題があると思う部分


問題の考察:「問題の影響」+「問題の背景


自分の提言:「問題の改善の方向性」+「具体的な改善策


このうち、③と④については、すぐには思いつかないときにどうすればよいのか、このあと説明するので、とりあえずはこの4つの要素が必要だということを頭に入れ、①と②だけ自分で考えてみるようにしよう。

 

 

課題文や設問の読解の次に取り組む材料集めは、その受験生の思考力の高さがわかる重要な作業だ。


たとえ課題文の読解が正確であっても、そこからの考察が物足りなければ、「掘り下げ不足」とされてしまい、合格ラインには届かない。
しかし、「どういった内容を、どこまで掘り下げればよいのか」という基準がはっきりしているわけではないので、自分の答案のどこがどの程度掘り下げ不足なのか、なかなか自覚しにくいのが難しいところだ。
実際、問題によって変わってくるものなので、「絶対にこれを盛り込まなければいけない」とまではいえない。
ただ、これから紹介するような材料をいくつか盛り込んでおけば、評価を得やすいのは確かだ。



材料集めを大きく3つの段階に分けると、こんな感じになる。


まずは、課題文から読み取ったこと蓄えた知識をすばやく書き出しながら、基本的な材料を集める。

次に、問題意識の高さを示すために、問題の表面的な部分だけでなく、問題の背景などにも目を向けて分析していく。
そして、前向きな提言として、問題の改善の方向性とその具体策を挙げるようにする。



この章では、レベルの高い小論文にするために、それぞれの段階で、どのような材料を集めておけばよいのかを、以下のように細かく分けて説明していこう。


(1)基本的な材料を集める:

①問題提起 ②問題の例 ③問題の考察 ④自分の提言


(2)考察を深く掘り下げるための3つのアプローチ:

①問題の推移と地域差 ②問題の影響と効果 ③背景にある意識・価値観


(3)提言の基本理念を知る:

①任せないで、共有し、分かち合う ②一つのものさしにとらわれず、価値観を問い直す

③具体策に困ったら、「教育・地域社会・心のケア」


(4)提言を書くときの注意:

①白書を活用する ②提言を使い回す ③提言にふさわしくないパターンを知る

情報はなるべく最新のものを確認


小論文で取り上げられる社会問題は、情勢が刻々と変化しているものが多いので、情報が古いと役に立たないこともある。


国際関係や環境問題、情報化や教育問題、先端医療などに関しては、5年前の解答例が今ではもう通用しないこともあるほどだ。


日本国内で見ても、この5年の間に、政権交代が起こり、ゆとり教育は見直され、脳死が人の死とされ、震災による原発事故が起こるなど、従来想定していなかったさまざまな変化があった。



参考書の解答例を読むときには、そこに書かれている情報がいつの時点の話なのか確かめ、情勢の変化に合わせて今ならどう書くべきか考えるようにしよう。


ネット世論は真に受けない


ネット上で行われるアンケートや投票の結果は、一般社会の世論とは隔たりがあることが多い。

ニュースサイトによっては、閲覧者がコメントを残したり賛否を示したりする欄があるけれど、こうしたコメントや集計結果も、あくまでも「ネット世論」にすぎない。


インターネットは普及したものの、ニュースサイトやネット掲示板に積極的に書き込みをする人(ネチズン・ネット住民)というのは今でも、ある特定の考え方をする層に偏っているため、社会全体の傾向とは異なる結果を示すことが多く、小論文では世論として扱うことはできない。


特にネット上では、「中国、韓国、および親中・親韓とのレッテルを貼られた人々」、「テレビ局や新聞社など大マスコミ」、「嫌いな芸能人・有名人」、「犯罪加害者および犯罪被害者」などに対する攻撃的書き込みが過熱しやすい。

こうした話題では、ネット上で、ある意見が多数を占めているかのように見えても、それがそのまま世間の声だと勘違いしないように気をつけよう。


なお、新聞社などが行う電話調査や対面調査にも問題がないわけではない。

調査対象の選び方や質問・回答の設定のしかたによって、ある方向に誘導しているのではないかとの疑問が投げかけられることもある。

それでも、ネット世論よりはまだ世間の傾向に近い結果が出ることが多いので、小論文において世間の声として取り上げるなら、こうした新聞社や行政機関による調査結果が基本となる。

(2)情報収集の注意点


出所不明のネット情報に踊らされない


書籍や新聞ではなく、ネット掲示板の書き込みで得たような、信頼性の低いデータ都市伝説に基づく主張では、説得力は得られない。


もちろん書籍や新聞記事の中にも、信頼性を欠く記述はあり、情報の信頼性の問題はネット情報に限った話ではない。

だが、匿名性の高いネット書き込みは、間違っていてもその責を問われないために無責任になりがちで、誤った情報の転載も多いなど、玉石混交のため、嘘を嘘と見破れない人は手を出すべきでない。


ネット上の百科事典ウィキペディアも、書籍版の事典にはない項目や記述が多く、課題文に出てくるキーワードの意味など、ちょっとした調べものにはとても便利だが、さまざまな立場の人が匿名で書き込んでいるだけに、内容に偏りや誤りが見られることもある。
ウィキペディアの記事を鵜呑みにせず、その内容に少しでも疑問を感じたときには、情報元が明らかな出版物や、ある程度信頼できるネット情報と照らして確認するなど、できるだけほかの資料と併用して活用しよう。



いずれにせよ、小論文では、信頼性のないデータの使用は命取りになるので、匿名のネット情報の受け売りは禁物だ。

時事問題


新聞やテレビで取り上げられる時事問題について出題する学校もあり、社会的に大きな話題となったニュースは押さえておきたいところだ。
過去には、BSE(狂牛病)や新型インフルエンザなどの感染症のほか、大震災やアメリカの対テロ戦争など、社会に衝撃を与えた災害や事件がよく取り上げられてきた。


こうした時事問題では、日々のニュースをただ見ていたのでは、全体的な動きが捉えられないため、ある程度まとまった特集記事が役に立つ。



とはいえ、ほとんどの受験生にとって、小論文対策にかけられる時間はそう多くはない。
毎日、新聞をチェックして気になる記事をスクラップし、それを要約して自分の意見を書き添えておくなんて、ちょっと無理だ。
小論文一本で勝負するのでもなければ、その時間を他教科の勉強に回したほうがよっぽど合格につながるだろうし。
時事問題の対策は、入試前になってから、社会的影響の大きかった問題に絞って確認するほうが効率的だね。



もし、ふだんからニュースをチェックするのなら、新聞一紙をじっくり読むより、ネット上のニュースサイトの活用がおすすめだ。


新聞は新聞社によってカラー(社風)があり、同じ事件を取り上げていても、新聞社や記者によって、読者に与える印象がまったく違ってしまう。


たとえば、ある裁判の結果が出ても、その判決を支持する記事もあれば、判決を批判する記事もある。
こうした違いを知らずに、たまたま家でとっている一紙だけを読んでいたのでは、ものの見方も偏ってしまいかねない。
また、記者が無能なのか意図的なものなのか、事件をめぐる重要な情報を書き漏らしているために、読者に誤解を抱かせ、ミスリードするような記事も珍しくなく、ほかの新聞社の記事を読んで、「ああ、実はそういうことだったのか」と気づかされることも多い。


だから、新聞紙面にどんな見出しや写真があるかを見たら、あとは複数の新聞社の記事を読み比べることができるニュースサイトで関連記事を読み比べてみよう。


手元に資料として残しておきたい記事があったときでも、新聞をスクラップするより、ファイル保存やプリントアウトのほうが楽だからね。



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志望学部の専門分野


法学部なら法や政治、教育なら学校や子供、医歯薬なら医療と、それぞれの学部の専門分野から出題されることも多い。


その学部・学科を志望する以上、その分野に興味があるのは当然であり、その分野で議論されている問題についても、最低限の知識と自分なりの意見を持っているのが当たり前というわけだ。


自分の志望学部が決まったら、その分野でどのような社会問題が注目されているのかを確認し、新聞記事や評論に登場するキーワードを理解し、自分でも正しく使えるようにしておく必要がある。


ここ「小論文のキソ」では、全学部の専門分野を網羅することはできないけれど、参考書や問題集によっては、学部ごとの重要テーマやキーワードが整理されているので、そういったものも利用してみよう。


小論文が課されることの多い医歯薬・看護系を目指す受験生向けに、医療に関わる問題を集めた参考書もたくさん出ているよ。


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共通分野の一般教養


小論文では、必ずしもその学部・学科で扱われる分野について問われるとは限らない。


学問の基礎となる一般常識や一般教養と呼ばれる知識の有無を見るため、たとえその学部・学科の専門領域ではなくても、学生として関心を持っておくべき問題について問われることも多い。


まずは、現代社会の問題点の根底にあるとされる「近代化」の問題。

これは、近代化の功罪を考え、見直すべき点を考えるというもの。


さらに学部を問わずによく取り上げられているのが、「環境問題」、「国際化」、「情報化」、「少子高齢化」、「社会性」、「死生観」など。
これらはみな、これからの社会を担う誰もが考えるべき問題といえる。


当然、大学の講義でも触れることが多いので、入試のためだけでなく、自らの大学生活のためでもあるという意識で、暗記にも前向きに取り組もう。

 

 

こうした問題については、高校の公民分野(現代社会や政治経済)でも多少は習うが、それだけではまるで足りない。
この「小論文のキソ」でも、テーマ別の基礎知識を整理していくつもりだけれど、受験生向けにコンパクトにまとめられた用語集が手元にあると便利なので、いくつか紹介しておくよ。 


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(1)基礎知識の必要性


小論文は暗記科目ではない、と言われるけれど、暗記が一切必要ないというわけではない。
その場で考えなければいけないことも多いが、その思考を支えるのは、やはり知識だ。


特に、課題文の読解や出題意図の理解に欠かせないのが、社会問題に関する基礎知識だ。


小論文の出題内容は大学や学部によってさまざまだが、ある問題に対する自分の意見を求められることが多い。
その「ある問題」も、これから社会全体として考えていかなければならない社会問題に関わるものが中心だ。


こうした社会問題について語るためには、まずその問題に関する基本的な知識がなければ話にならない。


そして、自分の意見を述べるには、その問題をめぐって、これまでどのような議論があったのかを知った上で、自分の立場を明らかにする必要がある。


決して、大学で学ぶような専門的な知識が求められているわけでないので、知識の詰め込みに力を入れる必要はないが、どのような情報に基づいて自分の主張を展開するかは重要であり、根拠を明確にするためには、ある程度の暗記は不可欠だ。


多くの受験生が聞いたことがないようなマイナーな問題であれば、課題文の中で説明されているのが普通なので心配は要らない。

だが、入試問題作成に関わる大学関係者が、「うちの大学に入学を希望するのなら、これくらいは常識として知っておいてくれないと」と考えるような、ある程度よく知られた社会問題については、用語の定義やこれまでの経緯などをしっかり頭に入れておく必要がある。



特に対策が必要なのは、


①共通分野の一般教養


②志望学部の専門分野


③時事問題


の3つだ。