映画『祝日』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『祝日』

『祝日』

(上映中~:J-MAXシアターとやま、TOHOシネマズファボーレ富山、TOHOシネマズ高岡、イオンシネマとなみ)

公式サイト:https://shukujitsu-movie.com/

 

父は自殺、母は新興宗教にはまって家を捨て・・・、

一人ぼっちになってしまった14歳の少女、奈良希穂は、

喪失感の中、今日が祝日だとも分からずに中学校に行きました。

休校日、誰もいない学校の屋上から飛び降りようとした瞬間、

そこに、「希穂とずっと一緒にいた天使」だと名乗る女性が現れ、

「死ぬのは明日にして、今日は思い出を作ろう」と提案し・・・。

 

富山県出身の伊林侑香監督の長編2作目です。

前作幻の蛍と同じ、今作も脚本は伊吹一さん。

射水市をメイン(?)に全編富山ロケで撮影されています。

地元撮影あるあるでいえば、よくそこからそこまで歩けるな・・・、

みたいなところはありますが、地元民にしか分からないことです。

あと、いきなり知人が無言の名演技(マジです!)で登場してました。

5/10~富山県先行上映中、5/17~全国公開の予定です。

 

希穂ちゃん、つらく厳しい環境になってしまいました。

喪失感の中、毎日、野菜ジュースとプリンしか食べてない。

誰もいない学校の屋上から見る海の景色は吸い込まれそう。

あぁ、もう飛び降りちゃおうかな。

でも、ちょっと怖くて・・・、だから躊躇しちゃって・・・。

「生きるのがつらいけど、死にたいわけでもない」という

夜明けのすべてでも出てきたフレーズの状況と感情です。

正直、近年、私もこの感情に共感することが多くなりました。

でも、野菜ジュースとプリンだけとはいえ、食べてるといえば食べてる。

 

希穂役、富山県在住の新人、中川聖菜さんが演じてまして、

序盤でボソボソ喋ってるのは状況がそうだから納得ですけど、

どこまで行ってもそんな感じなので、

この子はそういうタイプの俳優さんなのかなと思ったら、

最後は・・・、やっぱりそうだよね、お上手なんですよね。

さすがにオーディション勝ち抜いただけのことはあります。

 

天使(自称)役は岩井堂聖子さん。

この方は富山県出身ではありませんが、

『幻の蛍』や坂本欣弘監督の真白の恋にも出演されていたので、

富山の映画ファンにはおなじみの女優さんですね。

天使さんは途中で“馬場さん”と呼ばれることになります。

そのいきさつは私のツボを突いていました。

この人は本当に天使なのかな?も一つのポイントでしたが、

これに関しては、私は最初から信用して観ることにしました。

 

(以下、“適度”以上にネタバレしています。ご了承ください)

 

さて、思い出作りで“てくてく”しておりますと、

ちょっと変わった、ワケありの、でも、いい人たちに出会います。

飲食代を立て替えてくれた代わりに、お願いごとをする喫茶店の店員。

やたらと自分は「悪い子だから」を連呼する幼い少女。

引退したのに、マジシャンの格好をして公園にいる男性。

毎日仕込みはしているけど定休日状態の中華料理店の店主。

マジシャンは西村まさ彦さん、中華料理店主は芹澤興人さんです。

 

みんな、それぞれの事情があって、

希穂とは違うけど、喪失感の中で生きている人もいました。

しかし、やがて再生のきっかけは思わぬところから訪れて、

そのきっかけに希穂が関わることにもなります。

「喪失と再生の物語」と言ってしまえばありきたりですが、

これをファンタジーに、しかし、現実感も失わずに描いていて、

脚本と演出の上手さみたいなものを感じました。

 

だた、希穂にも再生の時は訪れたのですが、

その先はどうするのか・・・を描き切るのは無粋としても、

ヒントぐらいはあっても良かったのかな?とは思いました。

生きていれば良い、そこにいれば良いは、14歳には酷です。

実は彼女はまだ救われてないのでは?とも思うのです。

52ヘルツのクジラたちで感じたことと少し似ています。

想像はできるけど、もう少し安心したい自分がいました。

例えば、翌日からは“ましな”朝ごはん食べていた・・・とかね。

 

『祝日』、最初は「春分の日」かなと思いましたが、

いや、それだと学校に行ったら休校だったらに説得力がないか・・・。

希穂ちゃんがお腹にカイロを張っているし、

枯れ木も多いので「建国記念の日」・・・にしては温かい感じがする。

そしたら、途中で「もうすぐ10月」という台詞が出てきて、

あぁ「秋分の日」かぁ・・・と。

いや、そこは映画の中では明らかにしてなかったはずですし、

特に重要なことでもない(多分)のですが、ちょっと推理を楽しみました。