映画『福田村事件』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『福田村事件』

『福田村事件』

公式サイト:https://www.fukudamura1923.jp/

 

100年前、関東大震災直後の混乱の中で実際に起こった虐殺事件、

福田村事件をFAKEの森達也監督が映画化しました。

私は10月27日に鑑賞。今ごろ書いてどうすんねん!

なんですけど、「今年の10本」の候補にしたい衝撃作でした。

 

関東大震災で日本人が多くの朝鮮人や共産主義者を

虐殺したことは、歴史の教科書で学びました。

福田村事件で殺されたのは日本人ですが、

あれもこれもどれも酷い話です。

なんでこんな悲しい事件、出来事が起こるのか?

答えは簡単です。日本国民は衆愚の集まりだからです。

 

震災に紛れて朝鮮人やアカ(共産主義者)が暴動を起こしてる。

井戸に毒を入れた。などのデマが飛び交い、

その流言飛語は千葉県福田村にまで流れてきました。

言いふらしている人に「本当にその目で見たのか」と尋ねると、

「いや、みんなそう言ってる」と。

これ、今の社会でも変わってないように思います。

しかも、ネット社会でデマは拡散されやすくなり、

メディアリテラシーのない人ほど騒ぎ立てます。

 

もう一つ(だけじゃないけど・・・)、

これ、もし暴動を日本人が起こしていたのなら、

ここまで騒ぎになったのか?ということです。

本編の台詞にもありましたが、朝鮮人やったら殺していいんか!?

これまで朝鮮人を虐げてきた自覚がある日本人が、

逆襲を恐れたというのもあったのかもしれません。

 

怒りと悲しみと日本人としての恥を感じながら観ておりました。

在郷軍人会の腹立たしいことこの上なし。

しかも、最後は自分の非を“お上のせい”にするずるさ。

いや、政府も酷いんだけど、そうじゃないでしょと。

日本人の中にも良識や分別のある人はいるんだから。

本作の主人公、澤田智一は分別のある人でした。

でも、そういう人の方が間違った世の中で苦悩するんですよね。

 

あの村の中では良識人は少数派でした。

そうなると、間違っている者たちが多数派で“正義”となり、

ここで同調圧力の恐ろしさも感じることになります。

多数派はアホが権力者だったら最悪なことになるのに、

衆愚はそれに気がつかない。今の日本もそうでしょ。

最近やっと、一時的にせよまともになってきたようですが・・・。

 

事件で殺されたのは香川県の行商人一行でした。

これがエタの出でして、これもまた難しい問題をはらんでました。

彼らに中にも朝鮮人を下に見る者がいて、そこも悲しみの要素です。

自分たちも世間から蔑まれる苦しみと悲しみを分かっているはずなのに。

だだ、その男の態度を、瑛太さん演じる大将はいさめていました。

小学生のころ、同和教育のドラマを頻繁に観たなぁ・・・。

観る度に重たい気持ちなってましたが、今思うと無駄ではなかったです。

 

当時のメディアは新聞がメインでした。

本作に登場する恩田という女性記者は事実を伝えようとします。

ところが、上司が彼女のジャーナリズム精神を砕くんです。

事実より当局の発表をそのまま載せろって言うんです。

これも100年前も今も似たようなもんだと思いませんか。

しかも、案の定、「女のくせに」って言われちゃうんです。

恩田記者役は木竜麻生さん。鈴木家の嘘でも魅力的でした。

 

彼女の上司役がピエール瀧さんでした。

本作は重要な役で東出昌大さんも出演されてまして、

この辺りは森達也監督らしいというか、そんな配役ですね。

映画の根本は骨太で大事な世界を描いていますが、

そこに男女の愛憎なんかも絡む面白さもありました。