思えば、去年の夏の終わり。
一本の電話を受け取りました。
池袋のキャッシュディスペンサーで、
紙幣を下ろそうとしている時でした。
それは、今の担当さんからの、
「応募した小説が、最終審査に残っているよ」
というお知らせの電話でした。
おまえの作品が最終選考に残っているよ電話は
平日にしかかかってこないと思っていたのですが、
その日は土曜日でした。
てっきり、急ぎでコピーの仕事が入ったのだと思った私は
今日仕事を受けたら、週明け提出になるのかなと焦り、
今持っている仕事とのスケジュール調整を
頭の中で忙しく行いながら電話の内容を聞いていました。
どうも内容が頭に入ってこないなと思ったら、
そんな耳慣れない話だったわけです。
ようやく内容を理解した私は、
生まれて初めて動悸が止まらなくなって、
これまた生まれて初めて
「救心」を近所のドラッグストアで買いました。
症状がずれていたのか、体質に合わなかったのか、
ちーっとも動悸は治まらず、
なんだか夏がなつなつしていて、
その後何日か視界もちかちかしていたのを思い出します。
小説が仕事になるぞーーーーーーー。
それは、ものすごい喜びでもあり、恐怖でもありました。
でも不思議と、やっていけるという自分への信頼感だけは
心の底に横たわっていました。そして今でも横たわっています。
根拠はありません。
でもぶっちゃけ、こういう根拠のない自信がないと
やっていけない世界なのかなとも思います。
社会人生活で養われた、無駄にタフなメンタルが、
作家生活のはじまった今も私を支えてくれています。
みなさんに新作をお届けできるのはどうやら年明けになりそうですが、
私にしか書けないものを、お届けしていきたいなと思います。
ふと初心に返った、残暑の夜でした。