俺が妖怪村に来て、此処での生活にもなれた頃、突然、あいつが失踪した。
その頃の俺は、ちょうど俺と時期を同じくして村に現れた弦月の姉、瑞麗と付き合い始めた頃だった。


瑞麗は古風な喋り方をする医者だった。瑞麗

始めは単なる暇潰し。
俺の知らない村人、友人に囲まれて穏やかな生活を送る蘭華。
そんなのを見ていても、面白くない。


俺は、飽く迄遊びの付き合いを求めていたんだ。
それに、瑞麗は自分は落ちないと返した。
だから、試した。


だが、案外簡単に手の中に転がり込んで来た。
まあ、弱っているところに漬け込んだ俺の策略勝ちってやつか。


酒場で起こったひとつの事件を切っ掛けに、俺達は公認の仲ってやつになった。


蘭華が此処に骨を埋めるのなら、それに付き合ってやろうと思った。


蘭華(もり様作画)  しかし、その直後に、蘭華が失踪した。


西暦二千五年の夏、一言じゃ決していえない、人知を超えた力を借りて、俺は時空を超えた。

その先である、この村で、あいつを見つけた。

俺がこの場に現れた時、驚く蘭華の隣に、一人の少年がいた。
16~17歳くらいだろうか。
不安げな眼差しで俺と蘭華を見比べていた。


それが、弦月だった。


俺は、居候として奴の棲家を根城にした。
弦月が、俺が蘭華を連れて帰ることを恐れていたのは手に取るように解った。
一目見て気がついた。


弦月の蘭華を見る目。
俺らが共に居た頃の仲間と同じ眼差し。
他にも幾人かの友人を紹介された。
結局そうだ。
いつの時代でも、何処へ行こうが、あいつの周りには人が集まる。


(帰って来ねぇわけだ。)


「アニキ!」弦月 と弦月が呼ぶ。


―――アニキ。


誰かに似てると思えば、劉だ。
話す言葉も、背格好も違うが、あいつを慕う姿は全く一緒だ。
此処でも、ちゃっかり居場所を作っていやがる。


「おい、俺も此処に棲むぜ」神威


そういった時のあいつの顔。
驚いたような、そうなることを始めから解っていたとでも言うような、いつもの読めない微笑を返していた。

この村に来たのはこの世界でいう西暦二千五年の夏だった。
俺は一人の男を探していた。


共に過した時間はほんの数年。
それでも、当時の俺には他の誰よりも信頼のおける友、唯一人の相棒だった。
あいつは、俺の…俺達の前から忽然と姿を消し、行方をくらませた。
それも、奴のもつ人間放れした奇妙な力を使って。


俺達人間にできる事なんざたかがしれていた。
それでも、俺達は探し続けた。
そう簡単に『消えた』事を許容できる相手じゃなかったからだ。
あいつは、俺達にとって、なくてはならない存在だった。
巫女や星読み、陰陽師の力を借りて探した。
しかし、俺達の住む世界、その時間の何処にもあいつの姿はなかった。


一年、二年と月日が流れ、仲間達は次第に諦め、探す事を忘れたいった。
それでも、俺は探し続けた。


そして、あいつが姿を消してから、約三年が過ぎようとした頃、漸く見つけた。
あいつは、時空を越えていた。
俺達の生きる時代から数百年未来、そして、俺達にとっての異世界である、此処、妖怪村にあいつは生きていた。


月に輝く銀糸の髪。

星をちりばめた様な青灰色の斑な瞳。

奴の名は、緋勇 蘭華。