ソレは、青金剛石から誕生した。
青碧の双眸と銀糸の髪を持ち、
狐の耳と尻尾を生やした狐童子の姿をして。
狐童子は、盗みにより村を騒がせて後、
紅蓮の炎に包まれ、海に還った。
亡骸は何もなく、物言わぬ人形だけが其処に在った。
時を重ね、残されたヒトの想いは人形に魂を吹き込んだ。
物言わぬ人形は、狐童子となり、浮き世に蘇った。
二人が村を放れ、夏が去り、秋が訪れようとしていた。
新しい季節のイベントに村が賑わっていた頃、俺は青金剛石の呪いにかかり、不自由な思いをしていた。
名の知れた一人の忍に助けられて、漸く自由を再度手にいれることができた。
そして、ちょうどその直後に、一匹の妖怪が現れた。
俺は名残惜しくも金稼ぎの石を手放し、村の外れに建つあばら家へ帰った。
すると、突然背後で子供の声がした。
「ほぇ~此処がお前の家かぁ~?」
人の気配は全くない。
とっさに振り向けば、人の背に一匹の妖怪が背負われていた。
「なっ!?てめぇっ!いつから人の背に乗ってやがる!?」
重さは感じないが、姿を見た今ではその小さな手に掴まれている感触がある。
俺は背中に手を伸ばし、餓鬼を掴みあげようとした。
だが、ひょいっと身軽に跳ね上げ、逃げ回る。
「このやろぉ、てめぇ、人をおちょくるのも大概にしろよ。」
「ひゃ~あ、怖い怖い♪にっしっしっ。捕まえれるもんなら捕まえてみ~♪」
そう言って、すばしっこく逃げ回る餓鬼と、追い掛け、時に刀を振り回した俺のせいで、家の中は滅茶苦茶に破壊された。
この時ばかりは、蘭華が留守にしていたことに感謝をした。
俺と瑞麗は、失踪した蘭華と、それを追い掛けて行った弦月の代わりに、村の戸籍を塗り替えた。
飽くまで、蘭華が戻るまでの、一時的なつもりだった。
何で俺が、あいつの居ないこの村に残ったのか、
あいつが居なければ、此処にいる意味などないのに。
弦月にあいつを任せて。
瑞麗の存在が、俺を此処に留めた。
弦月の蘭華を慕う想いは、兄弟とか、そんなのを超えていたのは、誰の目にも明らかだった。
慕われていた当の本人を除いて。
蘭華は、他者の感情を読む心見の力を持っている。
本来なら、誰よりも弦月の感情に、真っ先に気付いていた筈だ。
しかし、過去の出来事から、あいつはその力を封じてしまっていた。
誰かに想われることを恐れ、脅えていた。
また、誰かを想い、傷付けることを極端に怖れていた。
蘭華に惚れる奴は、それだけで不幸だ。
あいつは、容易に人の手に負える様な玉じゃない。
そこらの女には抱えきれない物を持っている。
唯の人間の相手になるような奴じゃない。
それでも、俺は、弦月が蘭華を追う手助けをした。
ただ、あいつがこの村に戻る為だけに。