蘭華は仔猫の側にしゃがみ込んだ。
側にいるだけで、息も絶え絶えの仔猫のから、全身が引き裂かれる様な痛みが伝わってくる。
蘭華は黒い毛皮にそっと手を伸ばす。
「―――ゥッ!?」
仔猫に指が触れた瞬間、まるで感電したかのように蘭華の体がビクッ!と震えた。
全身をつき抜ける恐怖。
また痛めつけられる、という息が止まる程の脅迫感。
そのまま引きずられ、取り込まれそうになる剥き出しの感情の渦に、蘭華は涙を溢した。
「っ、ごめんね、ごめんね…痛かったね、…怖かったよね…ッ、ごめんね…っ」
しゃくりをあげながら、優しく、想いを込めて、傷付いた体を撫でる。
ボロボロと滂沱の涙を流しながら、蘭華はいつまでも謝り続ける。
そっと撫で続ける手の平の下で、次第に緊張が解けていくのを感じた。
「……ぁ」
不意に、土と涙に濡れた手を、ザラッとした感触が襲った。
小さな舌を見せて、仔猫が蘭華の手を舐めている。
それを見て、初めて蘭華の顔に笑みが浮かんだ。
もう、鳴く力も残っていない仔猫を、蘭華は優しく撫で続ける。
心細く、寂しくないように。
触れる大地が冷たくないように。
ひとりじゃない。
ここにいるから。
ずっと、傍にいるから。
流れる涙は止まらない。
青灰色の瞳から零れる水滴が大地を濡らす。
手に落ちた滴は黒い毛皮をも時として濡らした。
トクン、トクン、と小さく脈打つ鼓動。
トクン…、トクン……
次第に弱く、遅くなっていく。
トクン………
そして、小さな命が消えたのを、蘭華は手の下に感じた。