近年稀に見る傑作ラブストーリー「大恋愛~僕を忘れる君と」 | IDEAのブログ

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今年、猛威をふるった新型コロナウイルス感染症は、社会活動・経済活動だけでなく人間社会のありとあらゆる部分に甚大な影響をもたらした。「人が集まることができない」という事が、これほどまでにネガティブファクターだったとは、多くの人の予想を超えていたのではないか。自宅で過ごす時間が多くなり、「おうち時間」をどう過ごすのか?が重要な生活テーマになった。

「自粛」という長いトンネルに入り、インターネット動画配信サービスやデリバリーサービスの利用が急激に伸び始めたが、その一つに国内ドラマの見逃し配信などが見られる「Paravi」というプラットフォームがある。

ParaviはTBSとテレビ東京が共同で運営している動画サイトだ。テレビドラマの見逃し・最新作を始め、過去の名作ドラマなどアーカイブ的なサービスも提供している。(テレビ朝日はTELASA、フジテレビはFOD(フジテレビオンデマンド)を独自に運営、Paraviでは、中京テレビや東海テレビなどドラマを制作している地方局のコンテンツもラインナップされている)このParaviで、週末2日間で162万回というTBSドラマ歴代最高の再生回数を記録した作品がある。2018年10月期に放送された「大恋愛~僕を忘れる君と」がそれである。

このドラマは放送終了からおよそ1年が経過した2020年正月に全話が一挙に再放送され熱心なファンを喜ばせたが、コロナ禍で撮影が思うに任せず、予定されていたコンテンツが放送できなくなった今年6月にも、未公開カットや主演二人のコメンタリー(副音声)などを含めた「特別編」が放送され(1~3話)、再び話題となったのだ。

本放送時も平均視聴率10.1%と二桁台を維持し、人気を博した同作品だが、放送終了後も数回にわたって再放送され、コロナ自粛期間においても、新垣結衣・星野源主演の「逃げるは恥だが役に立つ」と並んで、再編集・再放送のコンテンツに選ばれた。

この作品は、近年放送されたドラマの中でも、特徴的な要素をいくつも備えていた作品だった。何より地上波での本放送よりもネット配信によって視聴され盛り上がったという「デジタルミックスの成功例」でもあった。またそのキャスティングやストーリーも画期的で、SNSを利用したマーケティングでも当時の他作品の一歩先を行き、ある意味それまでのドラマの予定調和的な構成を突き崩したとも言えるだろう。

 

視聴率が取れない「ラブ・ストーリー」という定説

恋愛ものは視聴率が取れないというのは、業界の定説となりつつある。いわゆる「トレンディドラマ」の時代から、恋愛ものは若者向けドラマの定番だった。男女の恋愛模様そのものが、作品の骨格となることができた時代だった。象徴的なのは「月9」だろう。1987年より始まったこの放送枠は「恋愛ものドラマ」の象徴だった。集団恋愛から1対1の恋愛ものまで、歴代の作品はどれも高視聴率を稼ぎだし、作品で見られるファッション、料理、ヘアスタイル、主人公の住んでいる部屋のインテリアなど、あらゆるものが当時のF1層(20代女性)のライフスタイルの手本となり、それは社会現象と言っていいものだった。

しかし2002年以降、恋愛ドラマは急激に衰退する。ヒット作品を次々と生み出した月9枠は、平均視聴率が一桁に終わる作品が続出し、放送していたフジテレビの業績不振と相まって、同局凋落のシンボルのように見られるようになった。2010年以降もこの傾向は続き、以前のように人気のある男優・女優を並べて恋模様を描けば作品が成立するという時代は完全に終わった。代わって台頭したのが医療・企業・警察などを舞台にした「社会派」作品とよりライトに人間関係を描いた「ラブコメ」だった。

恋愛ドラマがなぜダメになったかについては諸説がある。いわゆる「価値観・ライフスタイル・視聴手段の多様化」「娯楽を含めた余暇の時間の使い方の多様化」などがそれだが、私はそれだけとは思えない。もっとも根底にあるのは「格差」なのではないか。

バブル時代においては、恋愛ドラマはドル箱だった。先にも少し触れたが、作中の登場人物がいかに浮世離れした生活を送っていようと、それを少しでも真似ようという機運が社会にあったように思える。だがバブル後の「失われた20年」において、社会のあらゆる部分で「格差」が露呈し、人々は嫌でも自らが置かれている「現実」を直視せざるを得なくなった。それでもバブル後の10年はまだ深刻ではなかったように思えるが、後半の10年は「格差・貧困」というそれまで日本社会で何となく隠遁されていた問題が表面化するようになった。「貧すりゃ鈍する」の言葉通り、文化や芸術を人々が楽しむためには、ある程度の「余裕」が必要なのだが、その「余裕」を持てなくなった人が増えたということなのだろう。

人々はかつてのように、ドラマの中で描かれる「キラキラした恋」に共感したり憧れたりすることが出来なくなってしまったのだ。

「大恋愛〜」はその名の通り、どストレートな「恋愛ドラマ」である。しかもオリジナル作品であり「原作」はない。ドラマの視聴率が下がるに従ってオリジナルドラマは姿を消し、代わって増えたのが小説や漫画の人気コンテンツを下敷きにした「原作もの」である。特に2000年代に入ってこの傾向は拍車がかかり、原作の人気にあやかろうという作品が続出した。原作の読者やファンをそのまま「視聴者」としてある程度獲得できることが見込まれるため、制作側としてはある種の「保険」がかけられる事になる。

「大恋愛〜」のストーリーは大まかに言えば以下のようなものだ。

【ストーリー】

本編の主人公は北澤 尚(きたざわ なお)という35歳の産婦人科医である。同じく産婦人科医である母と二人で、都内でホルモン治療専門の女性向けクリニックを経営している。彼女は仕事一筋で生きていて極めて理性的な女性だったが、35歳という年齢もあり心配した母に勧められて見合いをする事になった。その見合い相手が市原侑一という精神科医だった。侑一は将来を嘱望される優秀な医師で、健康で知性のある母親という「役割」を務めてくれる相手を探していた。この考え方に共感した尚は侑一と婚約。1ヶ月後の挙式に向けて多忙な日々を過ごしていた。

ある日、ワシントンで研究活動をしている侑一に代わって、尚は新居への引っ越しを行っていたが、この引越し業者の中に、のちに尚の夫となる間宮真司(まみやしんじ)がいた。真司は生まれてすぐに神社に捨てられていたのを、その神社の宮司が発見しそのまま育てたという過去を持つ。彼は21歳の時に小説「砂にまみれたアンジェリカ」を発表して文芸賞を受賞、侑一同様に将来を嘱望された若手小説家だったが、二つ目の作品が酷評されて評価は地に落ち、次第に文壇から遠ざかった。40歳になった今では小説家だった過去も忘れ、引っ越し業者として生計を立てる日々だった。

尚は、引っ越しの作業員としてやってきた真司がなぜか気になった。全然タイプでもないのに、なぜか惹かれるものがあったのだ。尚は真司の処女作「砂にまみれた〜」の熱心な愛読者であり、その一節を誦じるほど思い入れがあった。引っ越しの荷物の中には当時の初版本が大切に保管されていて、真司はこの尚という女性がかつての自分の作品のファンである事を知るが、現状に負い目を感じていた真司はそれを言い出せなかった。

引っ越しの翌日、上階の水道トラブルによる漏水が起きる。尚はたまたま段ボールを取りに来た真司にトラブルの処置を依頼する。応急処置をした真司に、尚はお礼にと食事に誘う。尚は真司への関心が次第に恋心に変わっていくのを自覚していたが、自分でもどうしようもなかった。

尚は数日後、真司の職場を訪れ再び食事に誘う。尚が結婚を控えた身であり、また自分の作品の大ファンであることが真司を消極的にさせた。尚の中にある小説家のイメージと今の自分が、あまりにかけ離れているように思えたからだった。真司は食事の約束をすっぽかして店の階下で尚を待っていた。なぜ来なかったのかとお気に入りの「砂にまみれた〜」の作中のセリフを使って問い詰める尚に対し、真司は自分がその小説の作者であることを告げる。尚は驚くが、なぜ自分がこの男に惹かれるのか理由がわかった気がした。それまで理性的に生きてきた尚は、初めて理屈抜きで恋をした。それは運命的な出会いとなったのだ。

尚は全力で走るかのように、真司との恋に突っ走る。初めは戸惑っていた真司も尚の真摯な心にうたれ、尚を受け入れる。尚は侑一に婚約解消を告げ、母の言葉も聞かずに真司の元へ走る。その途中で自転車と衝突し病院に搬送されるが、その病院は侑一が勤める大学の病院だった。

尚に婚約破棄を求められ、予定を繰り上げて帰国した侑一は、事故で運び込まれた尚の頭部CT画像から、不治の病の兆候を見出し愕然とする。侑一は尚に病の兆候がある事を告知し、検査を受ける事を勧める。尚は気が進まなかったが、その分野の専門家である侑一の意見を聞き入れ検査を受ける。結果は侑一の見立て通りだった。

この結果に衝撃を受けた尚は真司に別れを告げるものの、真司の深い愛情に包まれ、ともに歩むことを決意する。その後、様々な困難を乗り越えながら二人は結婚し、子供を設けて家庭を築くが、尚の病状は刻一刻と進行し、日常生活を一人で送れない状態になる。やがて前途に絶望した尚は真司と息子の恵一を置いて家を出る。半年後に真司はようやく尚の居場所を探し当てたが、すでに尚は真司を認識できなかった。

真司は度々尚の元を訪れ、自分の作品を読み聞かせする。その際、奇跡的に一瞬だけ尚の記憶が蘇り、間宮尚として真司に言葉をかける・・・・

この出会いから最終的な尚の死亡(死因は肺炎)までの10年間に渡る恋愛ストーリーを描くというものだ。

 

「恋愛と病気」という王道

愛する人が不治の病に侵されるという悲恋は、昔から描かれてきた。古い話で恐縮だが、かつて三浦友和と山口百恵が「ゴールデンコンビ」と言われていた頃、山口百恵演じるヒロインが白血病に侵されるという「赤い疑惑」という大映ドラマがあった。このドラマは最高視聴率が30%を超える人気作品だった。

恋愛ドラマに「病」が関わる作品は枚挙に暇がない。がん、白血病、脳腫瘍、骨肉腫、物語の途中から次第に病状が悪化し、作品のトーンもシリアスさが増していく。最後は悲劇的な死を遂げ、残された者が再出発を誓うという内容が多い。

「大恋愛〜」も最終的には尚が肺炎で死去する(実際に認知症患者で誤嚥性肺炎で亡くなる人は多い)というラストになっているが、尚の死の場面は描かれていない。残された真司と息子・恵一の住む家に飾られた、フォトフレームに収められた尚の写真と真司のナレーションで、視聴者はそれを知るという展開だ。この作品では「アルツハイマー型認知症」がモチーフとして使われている。肉体的に死に直結する病ではないが「アイデンティティの死」ともいうべき状況に至るものだ。

直接的な死ではなく「魂の死」とでもいうべきこの病は、近年俄かにクローズアップされるようになっている「認知症」という病気の一種である。認知症にはアルツハイマー型のほか、レビー小体型や脳血管性、前頭側頭型などがあるが、最も有名で症例も多いのがアルツハイマー型認知症である。

この病は脳にアミロイドβペプチドというタンパク質が蓄積することにより、脳神経細胞が細胞死する事で進行するとされているが、正確な原因はいまだに把握されていない。認知症の原因は一つではないとも言われており、根治療法も見つかっていない。現状では進行を食い止めるか遅らせるかという治療しかなく、罹患した人は次第に自我を失い、行動の制御や周囲の認知を失っていく。

自分のことを全く忘れてしまう(認知できなくなる)相手と向き合い続けるというのは、ある意味で死ぬことより残酷な事かもしれない。少なくともがん患者のように寝たきりという事もなく、外見的にはさほど変化もないのだ。

「大恋愛〜」の切なさはまさにここにある。尚と出会い、再び小説を書き始めることで本来の自分を取りもどしていく真司に対し、真司に出会うことで本当の自分に出会った尚は、真司と対照的に自分を失っていく。第1話〜第9話まではその過程を描いているとも言えるが、これまでの恋愛・病作品と異なるのは、決してシリアス一辺倒ではなく、二人の幸せな時間やイチャイチャなシーンなどが散りばめられている点にある。悲劇的な未来が待っているにも拘らず、懸命に生き懸命に家族を愛する尚とそれを支える真司の確かな愛情が、この物語を特別なものに変えているのだ。

戸田恵梨香の出色の演技力

主人公・北澤尚を演じる戸田恵梨香は当時30歳になったばかりで、あまり知られていないが役柄では5歳ほど年上を演じている。

戸田は10代の頃から連続ドラマでヒロインや主演を務め、その芝居の力量には定評がある女優だ。

戸田恵梨香はこれまで比較的クールなヒロインや、シリアスな役柄が多かったように思う。アクション的なものにも挑戦しており、演じる役柄の幅は広い。

変化が見られたのは2018年に入ってからだ。この年の4月期に日本テレビ系列で放送された「崖っぷちホテル」で主演した戸田の役柄は、倒産寸前のホテルを立て直す支配人役だったが、優柔不断で気が弱いというこれまでにない役を演じて注目を浴びた。この役はまさに戸田にとって新境地だったのだと思う。

そして同年、30歳を迎えた戸田は若年性アルツハイマー型認知症で次第に自分を失っていく「尚」を演じた。彼女は既にベテラン女優と言っていいキャリアだが、その戸田をして「難しい」と言わしめたこの役は、自身の代表作としたいというほど印象深いものだったようだ。

若年性アルツハイマー型認知症は単に「忘れる」のではなく記憶自体を「失う」のである。この忘れると失うの違いを演じるのは、かなりの難題だったに違いない。そもそも完治した人間もいないので、体験談すら聞けないのである。戸田自身も「シーンごとに監督・共演者と話し合いをしながら一つづつカットを積み重ねた」と述懐していたように、まさに手探りの状態だったのだろう。

戸田は「役に引っ張られることはない」と断言していた。どんなに役作りをしても「カット」がかかれば自分に戻り、撮影所を出れば日常に戻れると言っていたが、この作品に限ってはそうでもなかったようだ。

「泣いてはいけないところで泣いてしまったり、尚と自分自身が重なったり、芝居と現実の境目が分からなくなった。こんなことは初めてだった」と放送終了後のインタビューで戸田は告白している。

実際「大恋愛~」が終わった後も役が「抜けず」、次の仕事がなかなか入れられなかったという。(戸田は撮影終了後、”役が抜けない”と相手役だったムロに告白していたという)

本編では、戸田恵梨香のかわいらしさ、一途さ、愛らしさがクローズアップされ、戸田の新たな魅力を引き出す作品にもなっていた。毎週のように登場する「ラブシーン」「イチャイチャシーン」が話題になり、相手役のムロツヨシの人気も一気に高まった。戸田は「毎週イチャイチャシーンがあったが、嫌味に見えず微笑ましかったのは、相手がムロツヨシだったから」と告白している。

シリーズ前半の輝いている尚と、後半の次第に目の光を失っていく尚、戸田は全10話を通じて、自らを尚そのものとして演じていた。この見事な芝居力が、作品の見どころの一つだ。

「トダムロ」「ムロトダ」

相手役だったムロツヨシは役者としてのキャリアは20年に及ぶベテラン俳優だが、本格的恋愛ドラマは初挑戦だった。もともと喜劇役者を目指していたムロは、下積み生活が長かった苦労人として知られている。「役者として食っていけるようになったのは30を過ぎてからで、顔と名前を知られるようになったのは30台も後半になってから」と本人が言うように、いわゆるGP帯の連続ドラマで主演するのは、この作品が初めてだった。

この番組のプロデューサー宮崎氏は「ムロさんが面白いと思っていた。役柄的にイメージがぴったりだった」のが起用の理由と言っていたが、戸田恵梨香とムロツヨシの「個人的関係」にも注目していたという。脚本を担当した恋愛ドラマの名手と言われる大石静氏も二人の関係性が物語構築のベースにあったと言っている。

今ではすっかり有名になっているが、戸田とムロは私生活でも大変に仲が良い。「人としての相性がいい」(前出・大石氏)ようで、誕生日を互いに祝ったり、仲間を交えて食事したりする間柄だ。戸田とムロの共演歴は意外に多く、直接絡まないものも含めれば4作品ほどで共演している。同棲する恋人を演じたこともあり、最初から息は合っていた。

ムロは他の主演男優クラスに多い「分かりやすいイケメン」ではなく、あるシーンやカットで見せる表情などで突然カッコよく見えるタイプだ。戸田はムロツヨシがイケメンだと放送開始前から番宣などでPRしていたが、放送後半には多くの視聴者に浸透したようだ。「ムロキュン」等と言う造語まで生まれたくらいである。

脚本の大石氏は、放送開始前に個別に戸田とムロと会食し、プライベートなエピソード等も聞いていたのだという。そのエピソードを脚本に反映したりしていたという点で、戸田とムロは「演技を超えた演技」が可能になったのかもしれない。おそらく戸田とムロは、自らの私的エピソードや性格を反映したキャラクターである「尚と真司」を自分の分身のようにとらえていたのではないだろうか?

この作品の人気を高めるのに一役かったのが、戸田とムロによる「インスタライヴ」である。OA日(毎週金曜日)の夜に、戸田とムロが自分の携帯電話を手に互いを撮影しあい、今夜の見どころやこれまでのストーリーに関する感想、はてまた二人の私的会話などを交えて行われたものだ。「少しでも宣伝になれば」という気持ちで始めたということだが、そもそも連続ドラマの主演女優と男優が、SNSでライブ動画を毎週発信するなど前代未聞である。

「全くのノープラン」で行われたこのインスタライブは、期せずして戸田とムロの人間性やその良好な関係性をうかがわせるものとなり、ファンは大いに盛り上がった。このライブ動画はあらゆるSNSを通じて拡散され、番組の視聴率を押し上げた。二人の人間的な魅力が新たなファン層を開拓し、いつしか「トダムロ」「ムロトダ」というコンビ名で呼ばれるようになったのだ。

もちろん戸田やムロの所属事務所(戸田はフラーム、ムロはASH&Dコーポレーション)の英断があったことも忘れてはならない。両社ともに自由でタレントの個性・自立を尊重する社風であったことも幸いした。

SNSを利用した番宣活動はこの作品以前にも行われている。Twitter上で番宣を行ったり、Instagramに撮影のオフショットを掲載したりするという手法はもはや当たり前のものである。また番組公式HPもコンテンツが充実しており、出演者のインタビュー映像やNGシーンの公開など様々な工夫が凝らされている。しかし、主演俳優が生の動画で語りかけるというものはこれまでなかった。

さらにこのインスタライブは本放送終了後も行われている。12月下旬のスタッフとの忘年会、年が改まった2019年1月にもDVDのコメンタリー収録の際と二度にわたって配信された。この時にはムロツヨシの誕生日前日だったこともあり、スタッフのサプライズでムロの誕生祝いが行われ、戸田恵梨香から誕生日のプレゼントが贈られた。これなども極めて異例のことである。

SNSで盛り上がったこのドラマの人気はインターネットによる新たな視聴スタイルを後押しした。同作品をネット配信していた「Paravi」では、月間の再生回数が100万回を超え、TBSドラマ歴代第1位、Paravi歴代第1位の記録を残すこととなった。

「ネットで最も視聴された恋愛ドラマ」として、大恋愛〜は長く人々の記憶に残るだろう。

今後の恋愛ドラマへの影響

恋愛ドラマというジャンルは今後も無くなることはないだろうが、1クールという期間を通じて二人の関係を描いていくという作風は相当にハードルが高い。しかもオリジナルドラマにとってはなおさらである。

「大恋愛〜」が残したものは大きい。それは何より「配役」が極めて重要であり、その関係性も含めて「どう見えるのか」が何よりも問われるという事実だ。少なくとも市場調査で好感度の高い、人気があるとされる女優や男優を並べておけば成功するというものではないことが、大恋愛で証明されたとも言えるだろう。

この大恋愛も他の人気作品と同様、続編を望む声が根強い。現に放送終了から2年近くが経った2020年9月、フジテレビで放送された「小泉孝太郎・ムロツヨシ 自由気ままに二人旅」という番組で、戸田恵梨香が番宣なしでゲスト出演するという異例のサプライズ企画が行われた。戸田恵梨香が純粋なゲストとしてバラエティ番組に出演するのも異例中の異例だが、何より他局で2年前に放送されたドラマをモチーフにした企画が成立するというのも極めて珍しい。事の発端は同番組の前回放送で、ムロが戸田恵梨香が理想の女性でありベタ褒めだったというのを受けて、共演している小泉孝太郎がスタッフに相談して仕掛けたもののようだが、特になんの条件もなく千葉の漁港まで戸田がやって来るあたり、放送終了後もトダムロの関係性は良好なままなのだろう。この放送後にネットは再びトダムロで盛り上がり、再び二人の共演を望む声が上がった。芸能ニュースでも取り上げられる程で、大恋愛のインパクトが大きかったことが窺える。

撮影中はあまりの仲の良さでリアルに交際しているのではないかと関係者に言われた程だったようだが、その関係性が作品をより輝かせるものとなったようだ。ファンの間からは二人の結婚を望む声も多く、今後の展開が興味深い。

平成の終わりに示された恋愛ドラマの稀有な成功例「大恋愛〜僕を忘れる君と」はそんな作品だった。