ワックス管理の基本的な考え方 | お掃除とメンテナンスのプロ 矢部要のブログ

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 一般の『お掃除』から世界のプロが実践する『メンテナンス』の紹介をしています。

全回床管理について書いたので、ワックス管理の基本的な考え方をやりましょう。
素材の管理をする場合は

  1.  素材を知る
  2. 汚れを絞り込む
  3. 正しいメンテナンス方法を知り、実践する

の三段階で考えるのはメンテナンスの基本です。これに則ってやりましょう。
現在使われている「剥離可能な水溶性アクリル樹脂金属架橋型」はアクリル製の樹脂になっており、組成は以下の様になっています。
注:その他の床用のプラスティック樹脂ではウレタン樹脂、エポキシ樹脂などがあります



ポリマー90%、レジン5% その他5%です。
 

アクリル樹脂は安価で透明度が高く、硬いのが特徴です。ポリマー(高分子樹脂:プラスチックの基と考えましょう)とレジン(樹脂の意味ですが、ここでは接合の強さを出すもの=接着剤と考えましょう)とその他(可塑剤、レベリング剤、その他諸々)です。ポリマーは透明度が比較的高く、レジンは透明度が比較的落ちる性質があります。ポリマー量を増やせば透明度が高くなりますが、硬度は落ちます。レジンを増やせば、硬度は高くなりますが、黄ばみ易くなるというのが基本性能になっています。この手のワックスがこの世に登場して既に60年経ちますが、初期の頃はポリマーの経年変化がかなり早く、またレジン自体の黄ばみの所為もあり、毎年の剥離が必要になっていました。しかし、その後の長い年月での各メーカーの開発力によって、現在のワックスは経年変化による黄ばみは(値段のそれなりにするものであれば)殆ど心配はなくなりました。大手メーカーの一流製品であれば、10年は最低でも持つでしょう。従って、正しくメンテナンスすれば毎年の剥離清掃は必要ないのです。剥離作業の必要性が頻繁に起こるのはメンテナンス方法に問題がある事になります。
このワックスの特徴はプラスチック塗料なのですが、金属(主に亜鉛)で架橋して構造を支える仕組みになっており、アルカリに弱く、強アルカリを使用すると構造が崩れる事が特徴になっています。



 

即ち、強アルカリで剥離が出来るのです。この特性の為、床用ワックスとして世界中に広がったのです。剥離が出来るは「アルカリに弱い」という事です。この事を覚える事が第一の覚えるべき重要事項になります。
ワックス管理第一項「アルカリに弱い」
次にワックスの形成過程は以下の用になります。この過程は通常の塗料形成過程と同様なのですが、塗布し、ワックス内の水分が蒸発すると、中にある可塑剤(ワックスを溶かす溶剤の事)の濃度が上がり、その事によりポリマーに働きかけ、ポリマーがくっ付き合い、やがて一枚のフィルムになります。


 

この化学反応には正しく反応し、しっかりしたフィルムを作るための、時間が必要になります。従って、扇風機をワックス面に当てる事は絶対にしてはいけません。完全なフィルム形成を損なう可能性が高くなるからです。困った事に完全なフィルム形成がされたかどうかを目で見て確かめる事は出来ません。完全なフィルムと不完全なフィルム(ポリマー形成を煮物に例えると、生煮えと良く煮たものとの違いが食べるまで分からないようなもの)は時間が経って、使用してみて分かる物になるからです。従って、メーカーの指示通りの作業工程を実施する事が一番確実な方法になり、それには扇風機の直当てはどのメーカーも禁止している事を充分に理解している必要があります。見た目が一緒であれば、短時間で済む、生煮え状態のワックスでは、将来的に問題を起こす事が殆ど確実になってしまいます。フィルム形成には「完全なフィルムを作る」事を、確実に実施する事が不可欠になるのです。
触手乾燥後、同様にワックスを塗り重ねていきます。そのワックスによって、メーカーが理想枚数を決めていますので(通常は4~6層)、そこまで実施します。ワックスによっては1日でこの枚数を塗れない場合がありますので、次の実施日を決めて実施する必要があるケースもあります。

完全なフィルムが出来たら、このフィルムは「資産」と考えましょう(この考え方は私の友人の発案で、中々良いので利用させてもらっています)。資産を無駄にせず、大切に扱う事で、合理的で生産性の高い(美観も非常に良い)ワックス管理が可能になるのです。

 


 

これの維持には全回説明した、日々の土砂管理と洗剤による洗浄(毎日~毎週)が必要になります。洗剤による洗浄を効率化するのが、自動床洗浄機になります。欧米で自動床洗浄機がどこの現場でも使用されているのは、こうした手順をする際に、自動床洗浄機の使用は不可欠になるからです。狭い部分であれば、マイクロモップが良いでしょう。通常のモップでは時間が掛かり、効果も薄くなってしまいます。
場合によっては、高速バフマシンによるバフィングが有効になります。

上記方法で、床の美観が落ちてきた場合にはリストレーション(光沢復元作業)を行います。使っている床洗浄剤をリストレーションを可能にするもの(リストレーター型洗剤)にするか、床洗浄後にリストレーター(光沢復元剤)を塗布し、バフィングを行います。後者の方が効果が高く、前者の方が簡易に済みます。
通常のオフィスであれば、上記方法で概ね半年は充分にメンテナンス可能です、この方法でも、床の状態が思う様に行かなくなってきた場合に、ワックス再塗布が必要になります。歩行によって減ってしまったワックスを再塗布する事で、床の状態を良い物にする作業です。
この方法は皆様良くご存じの方法で、アルカリ性万能洗剤を使用し、床を洗浄後、リンス拭き(水拭き)し(通常2回)、ワックスを再塗布します。ビルクリーニング技能士の試験でもこの方法が試験される事は、この業界にいる方であれば、当たり前の程、知れ渡った方法です。
しかし、ここが実際には、大きな問題点になっています。最初に説明した通り、このワックスはアルカリに非常に弱い事が特徴になっています。そして、床洗浄に使うアルカリ性万能洗剤はpH値が概ね10程度ある非常にアルカリの強いものになっています。床の汚れは毎日の洗剤による洗浄(自動洗浄機やマイクロモップ)がなされていなければ、相当に汚れていますので、強いアルカリ使用が必須になります。我が日本ではワックス床に対する毎日のダスト掛け(除塵作業)や洗剤による洗浄が中々なされませんので(日本が下足の文化であることは前回説明しました)、いざと言うときの床洗浄に強いアルカリを使う事はある意味道理にかなっています。しかし、強いアルカリを除去するには大量の水が必要であることが、残念ながら我が日本では忘れられています。通常のリンス拭き(水拭き)は多くのケースで硬く絞ったモップか場合によっては半乾きのモップを使用します。これでは、アルカリの除去は絶対に不可能なのです。残念ながら、床に残留したアルカリ成分は目で見る事が出来ません。従って、リンス拭き後は、大量のアルカリ分が残っているにも関わらず、何もなくワックス再塗布に適した状態に見えてしまうのです。その上にワックスを塗ったらどうなるでしょう?大量のアルカリ分を含んだワックスフィルムの出来上がりです。5万5千人いると言われるビルクリーニング技能士がこの教育を受けて、日本中の現場で活躍しているのです。日本のワックス床はアルカリ残留したワックスだらけである事は容易に想像が付きます。その所為で、我が日本では剥離作業の回数が多く、環境にも悪く、コストも掛かっているのです。これをストップさせるのは簡単です。見える様にすればよいのです。今後ワックス再塗布をする際に、必ず床をpH試験紙で測る事です。断言しますが、床洗浄し、リンス作業後、pH試験紙でpH7の値に必ずするようにし、再塗布すれば、剥離清掃の回数は激減します。その為には、リンス拭きには大量の水を使用してする事なのですが、英語では通常の洗剤拭きはDamp Mop(ダンプモップ)と言いますが、この作業はWet Mop(ウエットモップ)と言う言い方をします。水をダブダブにして作業をする行為を指します。方法はお任せしますが、必ずリンスには大量の水を使用し、アルカリ分の完全除去を目指してください。
 上記作業を続け、10年とか或いはそれ以上経ち、必要な時期が来た際に最終的な剥離作業に入ると言うのがワックスメンテナンスの基本知識になります。全回のブログを合わせて読むことで、理解が深まるでしょう。この作業はメンテナンス技術の向上や生産性向上には必ず役に立つでしょう。この理論を正確に知っており、誠実に実施できる人が何人いるか確かな事は分かりませんが、知っている人に、教わりながら実施する事が、非常に重要です。独学では道を外れてしまう可能性が高いからです。お気持ちのある方でしたら、弊社HPにご相談ください。弊社の技術の者がご相談にのる事は断言しておきます。