カーペットメンテナンス「バキュームが必須!その歴史的なものから」 | お掃除とメンテナンスのプロ 矢部要のブログ

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カーペットメンテナンスの普及を図ろうと思った時の事(今から30年近く前)ですが、我が日本と米国でのカーペットバキュームの必要性の差に大いに悩まされました。バキュームは大きいもの程作業が速いので、大きくて便利なものを提供出来れば、競争に勝てると思ったのです。しかし、全く上手く行きませんでした。殆どのコンペジター(&メンテナンス会社)はバキュームをしなかったのです。いくら速くて効率的な機械を紹介しても、「0」には敵いません。何故、カーペットのバキュームが日本とアメリカでは差があるのかという事は、その内に理解できるようになりました。日本は下足の文化で、自宅でのカーペットは痛むことが無く、土足でのカーペットが痛むのは仕方がないと殆どの日本人が考えていたからです。従って、我が日本では良いカーペットの普及がそれ程進まず、タイルカーペットが出てくると、殆どの場所でこれが採用されるようになりました。交換可能で、痛むことを前提にした場合にはピッタリの用途だったのです。
メンテナンスの計画手順はいつも説明しているように

  1. 素材を知る
  2. 汚れを絞りこむ
  3. 正しいメンテナンス方法を知り、実践する

ですが、絞り込むべきは土砂でしょうか?シミでしょうか?
実際は両方が正しいのですが、本来の順番から言えば、土砂なのです。
 カーペットメンテナンスの歴史はバキュームの開発から始まったと言っても過言ではありません。土足の文化の外国では家の中の床は土や石、木材等を利用します。そのままでは居住性に欠けるので、敷物が発達したのです。カーペットの様な繊維の敷物(毛皮もこれの1種と考えます)は歩行感もよく、保温性もあり、静穏性も持っている大変優れたものです。
 カーペットの種類は色々ですが、(歴史を語る上で)代表的なものは先ずはペルシャンカーペットでしょう。中国製では「段通」になります。横道にそれますが(ブログはそんなものですね)ペルシャンカーペットはウールの方がシルクよりも(値段が)高いのですね。持ちも厚みも全然違うのだそうです。ウールの良いものは700年以上の歴史がある(現存しているという事)と説明され、写真付きの鑑定書を見せてもらってビックリしたことがあります。
 やがて、産業革命と共に、イギリスでウィルトンカーペット(機械織り)が開発され、生産性が大いに上がりますが、その後米国で(19世紀末から20世紀初頭)タフテッドカーペットが出て、爆発的な広がりを見せます。タフテッドは基布に多数の針で繊維を打ち込み、上をカットし、下の部分をラテックスで圧着させる方法ですので、大量生産が可能になったのです。


 

さて、敷物の清掃は大変な事でした。清掃を職業とするのはヨーロッパやアメリカでは19世紀には既に始まっており、当時の方法は箒で掃き出す事だったのです。西欧の家は石やレンガ等で出来ており、窓もそれほど大きくありません。そこを土足で使用しますので、室内にある敷物は最初は快適でも、汚れる事で、室内の空気を相当悪化させたでしょう。床にある敷物を外に出して叩いたり、箒で掃き出す作業をしないと、大変な事になっていたのは想像に難くありません。

米国でも、あるレストラン(ホテルだったかもしれません・・文献を読んだのが結構前でしたので)の清掃を任された男にとってもこのカーペット清掃は悩みの種でした。彼は咳き込む癖があったのです(多分今で言えばアレルギーか喘息でしょう)。何とかその悩みを解消しようと考え、洗剤の缶(丸い穴が取り出し口です)の裏をくり抜き、そこに扇風機を付け、その後ろに枕カバーを付けて、動かしたのです。原始的なカーペットバキュームの完成です。彼はその特許をある貴婦人に売る事で一財産作り、その貴婦人こそ「フーバー夫人」でした。今から数十年前のバキュームのトップブランドはHOOVERであった事はこの業界では常識です。このカーペットバキュームはそれまでは、「快適ではあっても、汚れると衛生性や快適性を阻害するカーペット」を「いつも快適な室内に必要なもの」に劇的に変えたのです。

こうした歴史が現在に及ぼす影響と言うのは、様々な所で見られます。病院清掃でも、欧米が病院内の環境消毒に相当に力をいれるのは、1853年にクリミア戦争に派遣されたナイチンゲールが野戦病院での敗血症の致死率をそれまでの50%から環境衛生処理によって2%に激減させ、それまで、入ると恐ろしい場所であった病院を、ケガや病気が治る素晴らしい場所に変えた経験があるからです(因みに我が日本の開国はご存じの様に1868年です)。


 

こうした経験から、バキュームを掛けない事は欧米の人たちにとって、考えられないほど不衛生な場所にいるという印象になるのです。
多分日本でも、掃除の嫌いな独り者の部屋が、かなりひどい様子になっている事はよくありますが、それが土足だった場合を想像してみましょう。私でしたら直ぐに咳き込んで酷い事になってしまうと思います。欧米の人はこうした状態を今でも見る機会があるのです。バキュームをしない室内の空気環境(Indoor air quality)は最悪でしょう。こうした事もあって、そこにカーペットが敷いてあり、清掃を業務として頼むのであれば、バキュームをする事は当然の事になっているのです。こうした習慣が定着しているので、欧米の(メンテナンス会社の管理している)カーペットはいつも綺麗なのです。