ワックス管理において、剥離清掃の汚水処理が問題になるケースがあります。剥離廃液は通常の下水施設に流す事は嫌われています。排出基準値を超えてしまうケースがある為です。その為、東京や大阪では剥離廃液は事業者である建築物の所有者・管理者またはビルメンテナンス会社が産業廃棄物として責任をもって処理する事が求められているのです。全国ビルメンテナンス協会では「剥離洗浄廃液の処理・排出方法に関するガイドライン」を出しており、剥離廃液の処理についての啓蒙活動をしています。剥離洗浄廃液の逓減法は以下の様になっています。
化学的方法
- 洗剤液を使用するときの稀釈を正確に行い、使用量を削減する。
- 高耐久床維持剤を使用し、剥離回数を減らす。
- コーティング剤の使用により剥離回数を減らし、剥離周期を延ばす。
物理的方法
- 床維持剤の除去方法として、研削による方法を採用することにより、剥離洗浄廃液を低減する。
- 洗剤や水を使用するときは、汚れ状況や床材を考慮して、適切な使用量とする。
作業的方法
- 床維持剤の被膜を常に厚くさせない管理により、剥離回数を減少させる
- ドライメンテナンスを採用して、剥離回数を減らし、剥離周期を延長させる。
これらの方法は確かにその通りなのですが、対処療法になっています。言ってみれば、改革改善案と言う事になるでしょう。しかし、現在我が日本が求められているのは、イノベーションです。生産性向上を強く求められている現在、大きな変革が必要とされているのだと思います。その為には根源的に考える所から始めましょう。「そもそもワックスとは何か」からです。
「樹脂ワックス=床維持剤とは何か」
現在の樹脂ワックスは今から、60年近く前、米国の化学会社「ローム&ハース社」が開発した、水性塗料に端を発しています。通常の透明なペンキなのですが、アルカリに弱い性質も持っている塗料です。亜鉛を使用した金属架橋型の物で、水にはある程度の耐性があるのですが(汚れに強いという意味です)高アルカリには架橋が崩れてしまいます。この性質が床維持剤としては最適だったのです。床維持剤は床に塗布するのですから、汚れやすく、傷みやすく、摩耗し易く、いつかは除去し、再塗布する必要があります。或る程度の耐性があり、汚れがひどくなってきたら簡単に除去できる(剥離できる)のですから、管理する方としては持って来いの製品です。床に安易にコーティング剤を塗布してしまうと、いざ取ろうと思うと研磨をしたり、大変な思いをしなければならなくなりますが、高アルカリを使えば、簡単に取れてしまいますので、非常に便利だったので、あっと言う間に世界中に広がったのです。おまけにこの製品は重ね塗りが容易だったので、少し汚れてきたら、表面だけ洗って、新しいワックスを塗布して、簡単に床の状態を復元する事も出来ました。この製品が現れるまでは事務所の床清掃は毎週入るのが基本で、床を洗い、カルナバ蝋(ロウ)を塗布し、ポリッシャーにシダブラシを付けて、擦って磨き出しをすると言う作業でした。蝋だったので、1週間程度しかもたなかったのです。
しかし、この樹脂ワックスが登場したおかげで、床の定期清掃は毎月になりました。表面洗浄をし、ワックスを再塗布するという作業が月1回で済むようになったのです。そして、その作業を11回続け、概ねワックスが痛んだ時を見計らい(当時の基準が毎年でした)、剥離剤(高アルカリ)を使って、重ね塗ったワックスを全面的に剥離し(取り去り)新しいワックスを塗ったのです。
この「ローム&ハース社製の樹脂ワックス」は特許にまもられており、それから25年の間は各メーカー全て、原料を「ローム&ハース社」から仕入れ、少し加工し、販売するという状況が続きました。その後特許が切れたので、各メーカーが自由に作れるようになったのです(30年近く前から)。しかし、構造的には「剥離可能な水溶性アクリル樹脂金属架橋型」の原型から外れる事はありません。性質としては同じものなのです。丁度(私は競馬はやりませんが)サラブレッドが元をたどると3頭に行き着くと言いますが、樹脂ワックスも各メーカーがそれぞれ作っていますが、元をたどれば同じものに行き着くのです。即ち同じ性質を持っているのです。