ワックスの構造は図(右上)の様になっています。90%がポリマー(プラスチックの粒と思って下さい)で、5%がレジン、残りの5%がその他です。レジンは樹脂の事ですが、ここではワックスの堅さを決める接着剤と理解しましょう(本来は構造の問題ですが)。残りにはバフを掛けると光沢を出したりなど、様々な成分が含まれています。プラスチックを溶かす可塑剤もこの中に含まれます。
レジンの本来の特徴は少し黄ばむ事です。そうすると、レジンを増やせば、ワックスは固くなりますが、黄ばみやすくなります。ポリマーを増やせば透明度は増しますが、ワックスは柔らかくなります。この制約に長年縛られていたのですが、今の一流メーカーの製品はかなり進んでおり、レジンの黄ばみも防ぎ、ポリマーの経年劣化による変色も殆ど起こりません。最初のころのワックスは1年程度で黄ばんでしまったので、毎年の剥離が必要だったのですが、今の一流メーカーの高価なワックスは10年は色変わりする事がないのです(但し正しいメンテナンスをすればですが・・・)。従って、剥離清掃の回数を契約時から減らして考えるべきです。環境にも予算的にも負荷が掛る剥離清掃はワックスの特性をよく理解し、正しいメンテナンスをする事で激減する事が出来るのです。その為には、正しいワックスメンテナンスが不可欠です。
図の右がワックスが形成される様を描いたものです。ワックスを塗布すると図の様にポリマーが下に並びます。そして、上部の水溶液が乾燥により、水分が減る事で、可塑剤(上述しました)の濃度が上がります。そして、濃度の上がった可塑剤がプラスチックに作用し、ポリマーは段々くっ付き合い、その上で一枚の綺麗なフィルムになるのです。従って、床に扇風機を掛ける際には、床に直接掛けては絶対にいけません。床に当てずに、床と平行にして空気の移動を促すのは構いませんが、直接床に風を当てると、乾燥は早いのですが、フィルムの完成が中度半端になってしまいます。煮物で言えば生煮えの状態になるのです。よほど酷いと粉化するので直ぐに失敗が分かるのですが、中途半端な生煮え(例えですが)は見るだけでは分からないのです。これが厄介で、様々な問題を後から後から引き起こし、メンテナンスの効率を下げ、台無しにしてしまうのです。
もう一つがアルカリ残留です。剥離清掃後のフイルム作成では、剥離剤(非常に高いアルカリです)の残留が問題になります。確実なのは中和剤(酸性)を使って早く中和してしまう事です(中和の後でのリンスは言うまでもなく必須です)。定期清掃ではアルカリ性万能洗剤の残留が問題になります。アルカリ性万能洗剤は結構アルカリが高いのです(pH9~12)。リンス拭きはタップリとした水分での水拭きが必要です。英語ではWet mop(ウエット モップ)と言い、ISSA(International Sanitary Supply Association)の標準作業時間では100㎡当たり45分掛かる作業 です(参考:12オンスモップ使用時)。私達が一般的に水拭きと言っているのは英語ではDamp mop(ダンプ モップ)と言い、100㎡当たり16.8分の作業です。即ち、3倍掛かる程丁寧なリンス拭きが必要なのです。こうしないと、アルカリが残り(残ったアルカリが見えないので)上からワックスを被せてしまいます。そうすると、フィルムとフィルムの間にアルカリ分が挟まれて残ります。ワックスはアルカリに弱いのが特徴ですので、やがて良くない作用を起こし、フィルムが変色したり、ケモノ道が出来たりし、剥離せざるを得なくなるのです。
しっかりとしたフィルムを創ることがワックスメンテナンスの第一歩です。ワックスの構造をよく理解し、しっかりとしたフィルムを創る事を徹底します。スタートがダメなら、すべてがダメになるからです。アルカリ残留と、フィルム形成の際の扇風機に気を付けましょう。完全なフィルムは、上手く保てば素晴らしい成果を貴方に与えてくれることでしょう。