本書は作家、西村賢太氏の第一作集です。
同人誌時代の処女作「墓前生活」、商業誌
初登場作の「一夜」を併録した物となっており、
西村文学の原点を思わせました。
それにしても1年もよく持ったものだと思います。
本書は表題作のほかに、同人誌時代の処女作
「墓前生活」に加えて、商業誌初登場作の「一夜」を
併録した、 西村賢太氏の第一創作集です。
やはり、処女作には 作家のすべてが含まれるというのは
本当のことらしく、西村賢太文学の要素がほぼ完全に
詰まっていると思っております。
梅毒の末期症状で脳をやられ、芝公園で凍死する
という悲劇の最期を遂げた作家、藤澤清造に魅了された
『私』(=のちの北町貫太)は藤澤清造の出生地である
能登七尾を頻繁に訪ね、彼の菩提を弔う寺から、位牌と
木の墓標を受け取る様子が『墓前生活』に描かれ、
果ては彼の隣に自分の墓まで作ってしまうという一種の
狂気が伺えます。
そこには歿後弟子を自認し、彼の全集を個人編集で出版
しようという強烈なまでの『思い』から来るのでしょうか?
しかし、表題作の中には彼のもうひとつの側面。
同居している女性に暴力をふるい、罵声を浴びせ、
さらには彼女を通して全集のためだからと300万円もの
金を引っ張るという、まさに
『藤澤清造のためなら何でもまかり通る』
かのような暴君振りが延々と描かれます。
女(=後の秋恵と思われる)はそれでもけなげに
文章の校正を手伝ったり、家計を支えるために
レジうちのパートに出かけ、かいがいしく彼のために
世話を焼く姿がどうもいじましくて…。
しかし、『私』はカツカレーを食べる様子を「ブタみたい」と
軽口を言われるようなそれこそ些細な理由で烈火の
ごとく怒り、彼女を罵倒し、打ち据え、挙句の果ては骨まで
折るような暴行を彼女に加えてしまいます。
彼女が愛想をつかして出て行くと一転、戻ってきて
ほしいと哀願する姿は典型的な『ダメ男』のそれで、
僕はその姿に大笑いしつつも、自分の中にもそういう
部分が少なからず存在するからこそ、彼の小説に
共鳴するのではないかと、そんなことを思ってしまいました。
巻末にはこの小説について久世光彦氏の書評が収録
されているのですが、それも非常に面白く、本編を読んだ
後に読むと『そうだよなぁ』と納得がいくのでした。
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