【最終結論】「サカバンバスピス」の名前の由来【諸説検証結果】 | 感謝のブログ

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サカバンバスピスの名前の由来について、複数の「微妙に異なる説」が様々なサイトやSNS等で流れていたためどれが本当に正しいのかを検証しました。
(※2024年の3月初頭に投稿した後、同3月の19日に追記した当記事ですが…読み返してみたら分かりづらくなっていたので大幅改訂しました。)
 

 

  当記事の主な内容

昨年(2023年)の夏前に、SNSを発端として大ブレークしたサカバンバスピスという古代生物の、名前の由来を調べました。地図や論文等の客観的な根拠も提示します。

 

 

  当記事を書いた背景

「サカバンバスピス」とは、4.5億年ほど前(オルドビス紀)に生息していた古代生物の一種です。
フィンランドのヘルシンキ自然史博物館に展示されていた(想像)復元模型の写真がSNSで拡散されたところ、その何とも言えない顔が大人気を博しました。

<参考>

 

 

しかし、多くの人達がブログやSNSで紹介する中で、いつの間にか複数の、それぞれ微妙に異なる名前の由来」が出回るようになったのです。
具体的な「違い」は、以下の通りです。

■名前の由来となった、発見場所(町/村)の名前について
①「サカバンバ」(Sacabamba)
②「サカバンビラ」(Sacabambilla)
③「サカバン(b)」「サカバンブ」(Sacabamb)
④「サカバン」(Sacaban? Sacabam? Sacabamb?)

■名前の「後半」にあたる部分について
①「アスピス」(aspis)

②「スピス」(spis?)

■名前の後半部分の意味について
①「盾」
②「コブラ」

■命名に使われた言語について
①古代ギリシャ語
②ラテン語

 

これでは、一体何が、どれが、どっちが正しいのか困惑してしまいます。少なくとも私は困惑しました。

そして…以前に書いた「かえるのうた」の記事もそうなのですが、私はこういう時どうしても調べたくなる性分ですので、調べてみた…というのが背景です。

 

 

参考:WikiPediaの情報

 

ちなみに「ネット上の情報」の代表格と言えばWikiPediaだと思いますが、そこにはどう書いてあるのでしょうか。

 

(1)日本語Wikipediaの情報

日本語Wikiを読むと、以下の組合せである事が分かります。

■発見場所=①「サカバンバ(Sacabamba)
■名前の「後半」=①「アスピス(aspis)
■後半部分の意味=①「
■言語=①古代ギリシャ語

 

またもう1つ大事なのは、

・見つかった地層=アンサルド層

という情報です。

 

 

 

(2)英語版Wikipediaの情報

英語版のWikiには、以下のように書いてありました。

・地名=Sacabamba(サカバンバ)村

・見つかった地層=Anzaldo(アンサルド)層

Wikipediaでは、日本語・英語どちらを見てもSacabambillaという地名は登場しません。

そして実際に発見された地層は「Anzaldo」(アンサルド)。

ただ、英語版ですと「盾」「言語」についての記載は無いようでした。

 

さて、ではこれらWikiの情報も含め、ネット上の諸説を検証した結果はどうだったでしょうか?

 

 

  結論

先にまず結論を申し上げます。
正しい名前の由来は、全てWikipediaに書いてある通りでした。
すなわち、

■発見場所=「サカバンバ(Sacabamba)
■名前の「後半」=「アスピス(aspis)
■後半部分の意味=「
■言語=古代ギリシャ語

の組合せで、
Sacabamba(地名)+aspis(古代ギリシャ語で「盾」)

Sacabambaaspis

Sacabambaspis(サカバンバスピス)

(「aa」の部分が「a」に。)

というのが「正解」となります。他の説は、間違いです。

(「かえるの合唱」の場合、「厳密な正解はコレだけど、他のでも別に良い」みたいなユルさがありましたが、今回は「正解以外は、間違いです。)

 

 

  Wikipediaが正しいと言える根拠

 

 

 ■発見場所(町/村)について。

 

上述した通り、地名については「サカバンバ(Sacabamba)」説のみが正解であり、他の説は間違いです。

これを判断するには、主に2つのポイントがありました。

-------------
・ポイント(1):

「サカバンバ」と「サカバンビラ」の2つの地名が実在する。

(→【サカバンビラ】というのは、【サカバンバ村】の言い換えではない。また一方で、この2つ以外の地名はそもそも存在しない。)

 

・ポイント(2):

上述2つの場所(「サカバンバ」と「サカバンビラ」)のうち、最初にこの生物の化石が発見されたのは「サカバンバ」のほうである。(「サカバンビラ」でも化石が見つかっているが、タイミング的に「後」。)

-------------

 

それぞれのポイントについての根拠は以下の通りです。

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・ポイント(1):実在する地名についての根拠

根拠(1)-1:Googleマップ検索結果

根拠(1)-2:オルドビス期の生物に関する論文(2006年)

根拠(1)-3:スペイン語

 

・ポイント(2):化石の最初の発見場所についての根拠

根拠(2)-1:付近の地層

根拠(2)-2:サカバンバスピスに関する論文(1989年)

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これら物理的な地図や、正式な論文から見て「Wikipediaの記載が正しい」と判断できました。

 

根拠(1)-1:Googleマップ検索結果

簡単です。Googleマップで

①「サカバンバ」(Sacabamba)
②「サカバンビラ」(Sacabambilla)
③「サカバン(b)」「サカバンブ」(Sacabamb)
④「サカバン」(SacabanおよびSacabam)

を全て検索しました。結果、

SacabambaSacabambillaの2つは「南米・ボリビア多民族国(※)のコチャバンバ県に存在する、別々の村である」事が分かりました。

一方、それ以外の「地名候補」はそもそも存在しませんでした。

SacabambaSacabambillaは、37.8km 離れた別々の場所の名前である事が分かります。

(※:ちなみにボリビアは、2009年に「ボリビア共和国」から「ボリビア多民族国」に国名を変更。)

 

 

根拠(1)-2:オルドビス期の生物に関する論文(2006年)

次にこちらの論文では、ボリビアのコチャバンバ付近に広く分布するオルドビス紀の地層と、主な化石の採取場所が地図で示されています。その中でSacabamba」と「Sacabambilla」の位置関係も明記されています。一方で、それ以外の「サカバン」的な地名は登場しませんでした。
http://paleopolis.rediris.es/BrachNet/REF/EMIG/EMIG_Reprints/Emig&Herrera_2006.pdf

 

<文章内の記述:両者は別々の場所である事が具体的に距離と方角でも分かる>

 

<地図>

 

 

根拠(1)-3:スペイン語

どうも一部の人達は、「billa」が、日本語で言うところの「ビラ」(≒別荘地、等)の意味ではないかと誤解し、「サカバンバ村(Sacabamba)」と「サカバンビラ(Sacabambilla)」が同じ意味だ、と思い込んでいるフシがありました。
しかし、ボリビアの公用語の1つであるスペイン語で「村」を意味するのは「villa」であって、「billa」や「illa」はありません。

 

 

以上の3つの根拠から、地名についてはSacabamba」と「Sacabambilla」の2者の勝負である(=他の地名は無い)事が証明できたと思います。

あとは「化石が発見された順序」ですが・・・

 

根拠(2)-1:付近の地層

上述した通り、日英どちらのWikiでも最初に化石が発見された地層は「Anzaldo(アンサルド)層」とされています。

 

そしてSacabamba」と「Sacabambillaの両者を見比べると、「Anzaldo(アンサルド)層」に近いのは「Sacabambaである事が分かります。

 

 

根拠(2)-2:サカバンバスピスに関する論文(1989年)

さらに、以下の論文には最初に発見されたのが「Sacabamba」(アンサルド層)である事、またそれとは別に「Sacabambilla」(Chuchupunata層)から、ほぼ完全な形の化石が出た事が述べられています。
https://hal.science/hal-03029368/document

 

 

 

以上の根拠をまとめると、

・ポイント(1):実在する地名についての根拠

根拠(1)-1:Googleマップ検索結果

SacabambaSacabambillaという別々の2つの村が存在。それ以外の類似地名は検索ヒットせず。

 

根拠(1)-2:オルドビス期の生物に関する論文(2006年)

→「コチャバンバ」を起点として、Sacabambaに60km、Sacabambillaに50kmの地点にあると明記。他の類似地名は登場せず。

 

根拠(1)-3:スペイン語

→「Sacabambilla」は、「サカバンバ村」でも「サカバン村」の意味でもなく、そのまま「サカバンビラ村」の意味。

 

・ポイント(2):化石の最初の発見場所についての根拠

根拠(2)-1:付近の地層

→化石が最初に見つかったのは「アンサルド層」だが、その「アンサルド層」付近に位置するのは「Sacabamba」。(「Sacabambilla」付近の地層は「Chuchupunata層」とされる。)

 

根拠(2)-2:サカバンバスピスに関する論文(1989年)

→「最初に化石が見つかったのはSacabamba、最も完全な状態の化石が見つかったのはSacabambilla」と明記。

 

という事で

■最初の発見場所=「サカバンバ(Sacabamba)

が確定します。

 

 

 ■「名前の後半部分」について。

 

名前の「後半部分」については、

 

■名前の「後半」にあたる部分について
①「アスピス」(aspis)

②「スピス」(spis?)
■名前の後半部分の意味について
①「盾」
②「コブラ」

 

の2つの争点(?)があるのですが・・・

実は、2つ目の争点である「意味」が、「盾」であっても「コブラ」であっても、そのベースとなる単語は「アスピス(Aspis)」(もしくは「アスプ」)であって、「スピス(spis)」ではありません。

また「spis」という単語はラテン語にもギリシャ語にもありません。

ゆえに1つ目の争点については迷うまでもなく①「アスピス」(aspis)が確定する事になります。

 

恐らくですが、「スピス」説は単純に【「サカバンバスピス」という名前から、「サカバンバ」という地名を差し引いたら「スピス」が残った】という「カタカナでの文字列をイジってみた結果に基づく思い込みから生まれた説」に過ぎないと思われます。

 

では、その「Aspis」の意味についてはどうでしょうか?

一部サイトでは、「aspisとはコブラの一種であるアスプの事も指すので、【サカバンバのコブラ】と訳す事もできる」といった記載がされており、実際、「asp」が古代ギリシャで広く「毒蛇」を指したのは事実のようですが・・・

 

実際には前述した通り、(Wikiに述べられている)「盾」が正解です。主な根拠は2つあります。

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意味の根拠1:「Aspis」という言葉自体の検索結果

意味の根拠2:類似種の学名と特徴

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意味の根拠1:「Aspis」という言葉自体の検索結果

「Aspis」、という言葉自体を検索した所、それ自体のWikipediaがありました。(→リンク

「アスピス」とは古代ギリシャで使われた、重い木製の盾(Shield)である、と書かれています。
「古代ギリシャの、盾」…もう「使用言語」まで確定させてしまう、完璧な答えですね。

 

意味の根拠2:類似種の学名と特徴

一応、サカバンバスピスに近い仲間(や分類)も見てみると、以下のような感じでした。

↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

 

・類似種の学名には、「Aspis」だけでなく、「Aspida」(=現代のギリシャ語で「盾」を意味する言葉)も見られる

・共通した特徴が「大きくて平たい(盾のような形の)頭骨」である

・一方、体はそこまで特別に(蛇のように)細長いわけではない

・「蛇」でなく「コブラ(毒蛇)」を選択する理由も無い

といったポイントが分かります。

 

以上の点から、やはり「aspis」は「盾」の意味だと解釈するのが正しい事が分かります。
一方、これに対する「コブラと訳す事もできる」という説明は、例えるならば「カモノハシ」という動物に関して英語のサイトで

「日本語で【ハシ】とは【クチバシ】の意味だが、【橋】もしくは【箸】と訳す事もできる」

と書いてあるようなものと言えます。
(要するに、実際の意味とは何の関係もない、ただの雑学。)

 

 ■使用言語について。

「アスピス(aspis)=盾」というのが

①古代ギリシャ語
②ラテン語

のどちらなのか、については①の古代ギリシャ語が正解である、と述べました。

 

確かに、「学名=ラテン語」というイメージが強いのも事実ですが、実際には古代ギリシャ語も使われるようです。

 

 

 

ですから、勝手に「学名なんだからラテン語」と決めつけるのではなく、確認が必要です。

そして「サカバンバスピスについては、【古代ギリシャ語】が正解」と言える根拠は以下の2つです。

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言語の根拠1:「Aspis」という言葉自体の検索結果

言語の根拠2:「盾」という言葉の、各言語での翻訳結果

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言語根拠1:「Aspis」という言葉自体の検索結果

これは既に「Aspisの意味」の項で述べた通りです。

Wikipediaに「Aspis」とは古代ギリシャで使われた、重い木製の盾(Shield)の事である、と書かれています。(→リンク

 

言語の根拠2:「盾」という言葉の、各言語での翻訳結果

・現代ギリシャ語の翻訳結果

「古代ギリシャ語」はありませんが、現代のギリシャ語で「盾」を何と言うのかGoogle翻訳で調べた所、「Aspida」でした。

 

念のため、発音まで確認しましたが最初の「a」が無視されている事も無く、はっきり「アスピーダ」と読まれていました。

この「Aspida」という言葉は「Aspis(アスピス)」に近いだけでなく、一部の類似種の学名そのものに含まれています。
 

・ラテン語の翻訳結果

一方で、「ラテン語」での「盾」を調べてみた所、こちらは全く異なる言葉でした。

(発音は、見ての通りの「スクータム」という感じ。)

 

逆に、ラテン語で「aspis」を検索しても何も出てきません。
(ただ、カタカナになるだけ。)


これらを踏まえれば、やはり「ラテン語ではなく、ギリシャ語である」と判断するのが正しいと言えます。
 

  まとめ

サカバンバの名前の由来は、Wikipediaに書かれている通り

■発見場所=「サカバンバ(Sacabamba)
■名前の「後半」=「アスピス(aspis)
■後半部分の意味=「
■言語=古代ギリシャ語

が正解。


◆ポイント
最初に発見されたのは、Sacabamba付近の地層(アンサルド層)。
・しかしそもそも、コチャバンバ県付近はオルドビス紀の地層が大きく広がっている。
・そのため、40km近く離れた別の町、Sacabambillaからもサカバンバスピスの化石が出ている
・特に、後からSacabambillaで発見された化石は相当状態が良く、それを基にした論文も出回っている。(→恐らくコレが、Sacabambillaが名前の由来である」という間違った説の基になってしまった)

・平たくて大きい頭骨の形状から、古代ギリシャ語で「」を意味する「aspisという言葉が学名に使われた。

・類似種には、(古代でなく)現代のギリシャ語で、やはり「盾」を意味する「asipida」を学名に持つものもある。