アリスのは暫く休みですね。










第二楽章 『放課後少女』










扉に手を掛けたまま、俺は中を覗いた。

夕暮れ時のせいか中は薄暗く、目を細めないと何も見えない。


「あれ・・・?」

中には何も居ない。


そこには暗闇と静寂だけが残っていた。


冷や汗が背中を濡らす。


『夕方に誰も居ない音楽室が~・・・』

菜摘の話が頭を過ぎる。


「まさか・・・な」


口に出した声は室内に静かに響いた。

「・・・誰?」

「えっ・・・?」


室内から響の声に応える声がした。

ピアノの椅子の所に一人の少女が立っていた。


「あ。えっと・・・」


「見えるの?」

俺は少女の問いに少しだけ不信感を覚えた。

「見える・・・?君は見えないの?」


「・・・」

少女は言葉を切り、俺の方に歩いて来た。


正直に言おう。

めっちゃ可愛い。


背中まで伸びる黒髪を揺らし、俺の目の前に少女が近付く。

「私、見えてる?」


鋭い眼光を放つ瞳に睨まれ、俺は何度も首を縦に振った。


「あんた。名前は?」

「高村・・・響です」


俺の言葉に少女は嬉しそうに首を振った。

そして満面の笑顔でこう言った。


「私、桜!よろしく響!」


俺は不覚にも、可愛い。と思っちまったんだ。









「ピアノ上手いな」


「当然!長い事弾いてしね」

桜に引き入れられた俺は夕暮れ差し込む音楽室にいた。


桜が終始笑顔なので帰宅と言う選択肢は無い。

「響は音楽好き?」


ピアノを弾きはじめた桜は俺に質問してくる。

「嫌いじゃねぇな。むしろ好きだ」


「それじゃあこれ知ってる?」

桜が弾いていた曲を転調させ、別の曲を奏で始める。


「これは・・・」

それはベートーベンの『月光』だった。


その音色は悲しく、そして綺麗に響いていた。








次回更新に続く
頑張って書こう。










「それで?何で貴方がここに居るの?」


「暑いし、暇だから涼みに来た」

怒る友紀を適当に流し、俺はクーラーの当たる場所を探す。


俺の母校は何故だか知らないが設備が良い。

図書館にはクーラー完備、職員室には最新型PC、パソコン室もまた叱り。

(教室棟を何とかしろよ・・・)


さっき行って来た通り、教室棟は設備がない。

全く不思議な学校だ。


「図書館は休憩所では無いのよ?」


「分かった分かった。本を読みに来たって事にするよ」

「貴方ねぇ・・・!」


「お前に会いに来た。顔が見たくてな」

「・・・っ!」


顔を背けた友紀の後ろで響はため息を吐いた。

(危ない危ない。切れる所だったな・・・)

まさかの無自覚で友紀を口説いた響。


一方の友紀は真っ赤のまま、ゆっくり貸し出しカウンターに戻って行った。


実を言えばいつもこんな感じなので、当たり前の光景と言えばそうなる。

「ふぁああ~・・・」

大きな欠伸をすると響は机に身体を預けて、夢へと漕ぎ出した。









「んがっ!」


静まり返った図書館内で奇声を放ったのは響。


眠たげに頭を上げると窓から射す光が紅く変わっていた。

「やっべ!!窓閉めなきゃ!」


教室までの窓を開けたままなのを思い出し、立ち上がった響の頭からハラリ。と紙が落ちた。


『窓は閉めた。帰る時は図書館の鍵を閉めなさい。筒井』


そんな内容の紙を響は苦笑しながら、読み上げた。

「友紀・・・。優しい奴だな」


一人で呟き、響は図書館を後にした。









時刻は夕方5:00。

ほとんどの生徒が帰った後なので、学校内には静けさだけが残っている。


「補習もとっくに終わってるな・・・・。寝過ぎたか?」

独り言を呟きながら一階の階段に差し掛かった時だった。


『~~♪~~♭』

何処からかピアノの音が聞こえて来た。


「第九か・・・」

ピアノの音色は強く、そして美しくベートーベン交響曲第九番を奏でていた。


俺は導かれる様に歩きだし、そして一つの部屋の前で止まった。


『第4音楽室』

そう書かれた部屋からピアノは聞こえてくる。


俺は音に惹かれ、扉を開けた。


そして彼女との出会いを果たす事となる。







第一楽章

うにゃー。








靴を履き変えると、菜摘は補習室に向かって行った。

(昔は真面目な幼なじみだったのにな・・・)


菜摘は数年前まで至って真面目な少女だった。

しかし時は恐ろしい物で、あいつはぐれた。


口調もDQN臭くなり、格好はギャル化。成績もガクンと落ちた。


「俺は真面目な菜摘が好きだったぜ・・・」

跳びはねるように走って行く幼なじみの姿を俺は生暖かい目で見送った。









生徒昇降口から廊下を経て、階段を2階分上がる。

「うわ・・・」


一年教室のある3Fは次元が違う暑さになっていた。

陽炎見えるしな。


とりあえず自分のクラス、1-Fに向かう廊下の窓を開けて行く。


「夏・・・か」

思わず呟いた言葉に反応する者が一人。


「高村の分際で憂いを嘆くか」

「・・・友紀。何でそこに居る」


俺の目の前にはいつの間にか、クラスメートである筒井 友紀が立っていた。


ゴスロリファッションで。

「私は知識の泉の番人。理由はそれだけ」


「あーはいはい。図書館の当番なんだな」

「・・・貴方何で解るのよ」


友紀はこういう奴だ。


暑い中ゴスロリファッションに身を包み、意味不明な単語で人との距離を空ける。


そんな友紀を見ていたら、いつの間にか話し相手になっていた訳。

「ったく。俺の周りは変態ばっかりかよ・・・」


「誰が変態よ」


むすっ。とした友紀の頭に手を置いて優しく撫でる。

「別に悪いなんて言って無いだろう?むしろこれじゃなきゃ友紀じゃないしな」


顔を紅くして俯く友紀。


響の目が笑って居ない事に気付かない哀れな電波少女だった。








電波少女を華麗にスルーし、教室にたどり着いた俺はまたしても地獄を見た。


「・・・・・・」


「・・・・・・」

ついでに教卓で死んで居る担任を見た。


俺は短くため息を付いた。

正直面倒だ。


「何してるんですか・・・?」

「・・・グゥ」


「寝てんのかよ!!」

驚いた事に担任は無駄に暑い教室で寝ていた。


「ったく・・・」


起こさない様に植物に水をやってから、担任の所に飲み物を置いて教室をでた。


1分後。


「なるほど。やってるじゃあ無いか」

教卓に腰掛けて飲み物を飲む担任が居たのを響は知らない。







次回更新に続く