「うひゃぁ!?」

素で驚く裕。


だって知らぬ間に女の子が近くに居るのだから。

天敵に等しい女子がだ。


「こ、この度は本当に申し訳ない事をしてしまった!ごめんなさい!!」


「え、えぇ……?」

すごい勢いで謝られた。


割とガチなテンションで。

「……これはどうゆう事だ?」


「だから何度も言わせるなよ。そこのお嬢ちゃんが謝っただろ?」

察せ、と榊原は病室を出て行ってしまった。


残されたのはうなだれる少女とオロオロする僕。

気まずいなんてもんじゃない。


空気が痛いぞ。

「あ、あの……。君が謝る理由が分からないんだけど…」


「あぁ…。それは私が町外れの丘でだな…」

暗い調子で話始めた少女によれば、僕は丘の上で気絶したらしい。


しかも自分のせいだと少女は言う。

「んー…。ぼんやりと思い出した気もしなくもない様な……」


「ハッキリしないな君は……」

「ひぃ!?」


裕は身を竦める。

ただ単に驚いただけだけど。


「あ。す、済まない!また私は……」

「い、いや!驚いただけだよ!!だから落ち込まないで!!」


少女がまた沈み込むのを僕が引き止める。

なんか不思議な感覚だ。


「さっき聞いたかも知れないけど、僕は川村 裕。わざわざ運んでくれてありがとう」


「私は桐山 咲良。君にお礼を言われる訳に行かないんだがな…」

困惑、を顔に貼り付けた咲良が苦笑する。


裕も釣られて苦笑。

「裕は…、女性恐怖症なのか?」


「ん…。まぁ、そうだね」

いきなり下の名前を呼ばれて少しむず痒い。


だが、こんな事は長く続かないとわかっている。

所詮僕は僕でしかない。


「女性恐怖症と言うのはどうゆう物なのだ?女である私には理解出来ないんだ」

「痛い所をズバッと聞くね……。なんて言うかなぁ。僕の症状は詳しく言えば女性恐怖症じゃないらしいんだ」


首を傾げる咲良に僕は拙い説明を始める。

「えぇと…。普通、女性恐怖症の症状は絶対気絶なんてしないんだよ。ビクビクしたり、稀に鼻血を出す人がいるらしいけど」


「じゃあ何故裕は気絶するんだ?」
「あの……、気絶した人を放って置くと言うのはちょっと……」


「良いんだよ別に。お嬢ちゃんも災難だねぇ。そんな奴をここに運ぶ手間を掛けられるんだから」

呆れた風に医師が言う。


この人、態度が悪い。

「ですから……」


「僕は川村より君が風邪を引いて仕舞う事の方が忍びないね。もしも風邪を引いた時、ここに来てくれるなら僕は構わないが」


口早に言い切る医師。

病院の名前からすると榊原と言う名前だろうか。


「そうそう。僕は榊原 徹。歳は言わなくても良いだろ?どうせすぐに忘れる」

私の考えを見透かした様に榊原医師は言った。


とりあえず私は川村 裕を手近に合ったベッドに寝かせる。

服がビショビショなのでかなり冷たいだろうが仕方ない。


「榊原先生。幾つか質問よろしいだろうか」

「どうぞ。僕もお喋りは好きな方でね」


「では一つ目。この男、川村 裕について先生は良く知っている様だ。こいつの持ち物にここで処方された薬も合ったしな」


「あぁ。良く知ってる。因みに川村に処方したのは風邪薬だよ」

素の喋り方なのか榊原はいつでも飄々としている。


「では二つ目。川村は何故気絶している」

「ハッ!面白い事を聞くお嬢ちゃんだ!」


「私は冗談で聞いてる訳ではないが……」

悪い悪い、と榊原は謝る。


そして私を見据えてこう言った。

「そりゃあ…。お嬢ちゃん。君のせいさ」







「ん……」

僕は身体を包む不快な冷たさに目を覚ました。


なんとも形容しがたい不快感。

「と言うかここは何処だ……?」


今さっきまで丘の上に居たはずが、今度はベッドの上。

理解の範疇を超えている。


「理解しなくても良い。このヘタレ男」

「………榊原か」


僕は声の主に不機嫌な視線を投げる。

部屋の端から白衣の中年が姿を現した。


「人様に迷惑を掛けるなよ。僕も迷惑だ」

「悪かったな迷惑で。と言うか僕がここに居るのは何故だ?」

「そりゃあ、そっちのお嬢ちゃんがお前に触ったからさ」

榊原が顎先で示したのは僕のベッドの右側。


恐る恐る顔を向けると、そこには同年代ぐらいの女の子が座っていた。
プンプンと誰に言うでもない怒りを撒き散らす咲良。


美少女の中でも美人の部類に入る彼女のそんな姿は、実にレアである。

別段誰が見てる訳でもないが。


ふと咲良が傘を上げると、丘の上が目に入る。

そして認識する。


丘の端から下を見下ろすズブ濡れの男を。

「何をやっているんだ貴様は!?」


咲良は慌てて駆け出した。

その男は、端から見ればただの自殺志願者だったからだ。


近付くにつれ、その男が自分と同年代の男子だとわかった。

どうやら私は気付かれて居ないらしく、さっきからぶつぶつ言う声が聞こえる。


正直不気味だ。

が、こんな自殺志願者みたいなのを放って置く訳に行かない。


私は不粋ながら、そいつの肩を掴んだ。

「貴様。そこで何をしている」


肩を掴み、質問を投げる。

ただそれだけの行為。


が、男にはそれだけでは済まなかった。

まずゆっくりと私を視界に捕らえる。


かと思えばいきなり大きく震えだし、その場にへたり込んだ。

顔が恐怖に染まっている。


(私が何かしてしまったのだろうか。いきなりとは言え、肩を掴んでしまったしな)
男から少し距離を取り、私は謝罪の言葉を口にした。


「驚かせて済まない。私は桐山 咲良。君はこんな所で何をしている?」

謝るつもりが、途中から質問に変わってしまった。


私の悪い癖だな。

「え……あ…う……」


対する男と言えば、口をパクパク動かすだけ。

何かが言葉の邪魔をしているようだ。


「お、おい。大丈夫か?」

ここで私は一つ失態を犯した。


男の頬を手で触れてしまったのだ。

「………ッッッ!!!?」


ビクゥ!!と男が震えたと思えば、フッと気を失った。

「……は?」


ドサリ、と男が倒れる音と雨音が私の耳に届く。

現実味のない光景が咲良の視界を埋めていった。








「あぁ。川村ね。そいつはそこら辺のベッドにでも放って置くと良い」


丘の上で気絶した男、川村 裕を町の個人病院に連れてきた私に、医師は開口一番そう言った。


因みに丘から運ぶために父親の車で移動したのだが、父は非常に難しい顔をしていた。

私だってそういう顔したいんだが……。