プンプンと誰に言うでもない怒りを撒き散らす咲良。


美少女の中でも美人の部類に入る彼女のそんな姿は、実にレアである。

別段誰が見てる訳でもないが。


ふと咲良が傘を上げると、丘の上が目に入る。

そして認識する。


丘の端から下を見下ろすズブ濡れの男を。

「何をやっているんだ貴様は!?」


咲良は慌てて駆け出した。

その男は、端から見ればただの自殺志願者だったからだ。


近付くにつれ、その男が自分と同年代の男子だとわかった。

どうやら私は気付かれて居ないらしく、さっきからぶつぶつ言う声が聞こえる。


正直不気味だ。

が、こんな自殺志願者みたいなのを放って置く訳に行かない。


私は不粋ながら、そいつの肩を掴んだ。

「貴様。そこで何をしている」


肩を掴み、質問を投げる。

ただそれだけの行為。


が、男にはそれだけでは済まなかった。

まずゆっくりと私を視界に捕らえる。


かと思えばいきなり大きく震えだし、その場にへたり込んだ。

顔が恐怖に染まっている。


(私が何かしてしまったのだろうか。いきなりとは言え、肩を掴んでしまったしな)
男から少し距離を取り、私は謝罪の言葉を口にした。


「驚かせて済まない。私は桐山 咲良。君はこんな所で何をしている?」

謝るつもりが、途中から質問に変わってしまった。


私の悪い癖だな。

「え……あ…う……」


対する男と言えば、口をパクパク動かすだけ。

何かが言葉の邪魔をしているようだ。


「お、おい。大丈夫か?」

ここで私は一つ失態を犯した。


男の頬を手で触れてしまったのだ。

「………ッッッ!!!?」


ビクゥ!!と男が震えたと思えば、フッと気を失った。

「……は?」


ドサリ、と男が倒れる音と雨音が私の耳に届く。

現実味のない光景が咲良の視界を埋めていった。








「あぁ。川村ね。そいつはそこら辺のベッドにでも放って置くと良い」


丘の上で気絶した男、川村 裕を町の個人病院に連れてきた私に、医師は開口一番そう言った。


因みに丘から運ぶために父親の車で移動したのだが、父は非常に難しい顔をしていた。

私だってそういう顔したいんだが……。