歴史に翻弄された京劇役者の目を通し、清朝崩壊、軍閥割拠、日中戦争、国共内戦、文化大革命までの近代中国史を描いた話題作。
この往年の名作が、「Amazonプライムビデオで配信された」とSNSで大騒ぎになってたので、流行りに乗り再視聴してレビューを書いてみた。
タイトルにある『覇王別姫』とは、秦の末期に劉邦と天下を争った英雄・項羽と、その愛人である虞姫(虞美人)の悲恋を描いた演目のことで、劇中では、覇王・項羽を段小樓(チャン・フォンイー)が、虞姫を女形役者の程蝶衣(レスリー・チャン)が演じている。
遊女の母親に捨てられた蝶衣は、京劇の養成所で小樓と出会い、実の兄弟のように育つ。
共に厳しい稽古に耐え抜いた2人は一躍トップスターとなり、小樓は豪快な男役として覇王を、蝶衣はその美貌を活かした女形として虞美人を演じ、絶大な人気を誇っていく。
しかし、蝶衣は虞美人を演じるうちに現実と劇の境界を彷徨うようになり、相棒の小樓を私生活でも一途に愛し続ける。
そんな中、小樓は高級娼館のトップ娼婦だった菊仙(コン・リー)を身請けして妻に迎えてしまう。
嫉妬の化身と化した蝶衣は小樓と袂を分かつが、3人は歴史のうねりに巻き込まれ、壮絶なラストを迎える。
三国志でおなじみの横山光輝さんの作品に『項羽と劉邦』がある。
読んでたので四面楚歌の語源などの下地はあり、この作品はTSUTAYAで借りてきて観たのは覚えてる。
女性目線での主人公は圧倒的にレスリー・チャン(程蝶衣)で、男性目線での主人公はコン・リー(菊仙)になるんじゃないかな。
チャン・フォンイーが演じる段小樓にも同情の余地はあり、昔は彼について「期待可能性の法理」なんて言葉を使って語っていた覚えがある。
小樓を巡って蝶衣と激しく対立した恋敵の菊仙は、蝶衣の持つ「孤独や狂気」を誰よりも理解してて、アヘン中毒で苦しむ蝶衣を抱きかかえる姿には母性が炸裂してる。
これで3人がうまくいくんだと安堵したが、蝶衣が初めて兄嫁と認めて言った「ありがとう、姉さん」のセリフがすべてをぶち壊す。
蝶衣に拾われ、弟子として育てられたにも関わらず、文化大革命という時代の狂気に乗っかって師匠である蝶衣を裏切り、さらに3人を破滅へと追い込む引き金となった小四(レイ・ハン)だけは同情の余地がない。
自分の師匠である蝶衣が愛してやまない小樓と蝶衣から小樓を奪った菊仙を、冷徹なメガネ顔で覗き見するが、結局、小四も歪んだ嫉妬心からの復讐に共産党を利用したってこと。
ラストの自己批判は総括とも言って、日本の連合赤軍でも行われていて、仲間を殺して埋めたという事件があった。
この映画が凄いと言われるのは、共産圏の中国でありながら同性愛描写や自殺、伝統文化の破壊など複数の”微妙なタブー”に踏み込んでるところ。
これを「中国で撮影して、よく公開できた」とい声もよく聞くが、返還前の香港であったということと、共産党批判はしてないからね。
中国共産党も「文化大革命は悲劇」と認めてるので。
とは言え、中国だけではないが、その長い歴史の中で取り返しのつかない過ちを繰り返してきた歴史がある。
それを鮮明に描き出し、残そうとする力があるのも事実なので、そこはリスペクトすべきだと思う。
要は、この時代に生まれた時点で全員詰んでた、ということ。
本作とは関係ないが、李相日監督の映画『国宝』のサムネを見た時に、真っ先に浮かんだのがこの映画。
まだ観てないので分からんけど、これのオマージュかと思った。
