大阪大学の坂口志文特任教授がノーベル生理学・医学賞を受賞
業績が偉大過ぎてここに取り上げさせていただくだけでも恐れ多いのですが、生まれ持った才能と努力とで人類に多大な貢献をされたのですね。
STEAMに絡めて少し考えてみたいと思います。
私たちが何かを学ぶとき、「理科は理科」「美術は美術」と、教科のあいだに線を引いて考えがちです。
でも、世界は本当はもっと混ざり合っています。たとえば、医学と生物学、化学と芸術、科学と社会。坂口志文特任教授の歩みは、そんな“境界のない学び”の力を教えてくれます。
お若いころは「琵琶湖に流れ込む姉川の近くで豊かな自然に囲まれ、伸び伸びと育った。…… 中学時代は美術部に所属し、絵描きになるのが夢だった。文学全集を読みふけるなど、理系も文系も満遍なく好成績の優等生。母親の家系は医師が多く、理系を勧められ京都大医学部に進学した。」
その後、坂口特任教授は、「なぜ人の体は自分自身を攻撃しないのか」という問いを追い続けられたとのこと。医師としての経験から出発し、免疫という見えない世界のしくみを分子レベルで探る。その研究の中で、教授は「制御性T細胞」という特別な免疫細胞を発見します。これは、生物学・化学・医学・工学が交わる場所で生まれた発見でした。つまり、ひとつの分野の専門知識だけでは届かない場所に、答えがあったということのようです。
坂口特任教授は、何十年も同じ問いを追いかけながら、少しずつ新しい技術や考え方を取り入れていらしたようです。実験がうまくいかないときも、別の視点から見直したり、他分野の研究者と話したりしながら道を見つけていったそうです。その柔軟さと粘り強さこそ、学際的な探究の本質です。教授の研究は今、自己免疫病やがん治療など、医療の未来を変える力になっています。
分野を横断して考えることは、科学者だけに必要な力ではありません。アートや音楽に理科の考え方を取り入れたり、社会の問題を科学の目で考えたりすることも、すべてSTEAM的な学びです。坂口特任教授のように、「なぜだろう?」という小さな問いを自由に育てることが、やがて人生を深く、豊かにしていくのです。
ここまでの出典:
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大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)公式サイト
「坂口志文特任教授紹介ページ」
https://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/laboratory/shimon_sakaguchi/ -
大阪大学 公式ニュースリリース(2025年10月6日)
「坂口志文 特任教授が2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞」
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2025/10/06001-2 -
京都大学 公式サイト(2025年10月6日)
「本学出身の坂口志文氏がノーベル生理学・医学賞を受賞」
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2025-10-06-3 -
Nature Digest Japan
「制御性T細胞研究とともに歩む」
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v14/n10/%E5%88%B6%E5%BE%A1%E6%80%A7T%E7%B4%B0%E8%83%9E%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%81%A8%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%AB%E6%AD%A9%E3%82%80/89185 -
m3.com 医療維新インタビュー
「研究は何年やっても面白いものが出てくる」
https://www.m3.com/news/iryoishin/418622 -
FNNプライムオンライン(2025年10月6日)
「“制御性T細胞”の発見者・坂口志文特任教授がノーベル賞受賞 “頑固にやってきたことが今日につながった”」
https://www.fnn.jp/articles/-/941873 -
長浜市公式サイト
「坂口志文さん(本市出身)がノーベル賞を受賞されました」
https://www.city.nagahama.lg.jp/0000010694.html -
産経新聞「中学時代の夢は「絵描き」、哲学にも関心 ノーベル生理学・医学賞の坂口氏」
急に身近なトピックにしてこれまた恐縮ですが、たとえば公園や幼稚園の遊具も種々の分野の知恵に基づいているはずです。
すべり台、ブランコ、ジャングルジム、砂場…どれも身近なものですが、実はそのひとつひとつが複数の分野の知識の掛け合わせで成り立っています。
まず大切なのは、安全を守る高額と物理の知識です。すべり台の角度やブランコのロープの長さや支点の位置の設計は基本として、それぞれ遊具の位置も人の流れを考慮してリスク排除しないといけないでしょう。公園や保育園とその周囲全体を考えたら都市計画や環境学も関わってくるのでしょう。
心理学や発達学の視点も必要です。興味関心を惹きつつ年齢ごとの体格や挑戦への意欲を引き出すことを理解していないと、遊びながら成長できるデザインにはなりません。
もちろん美術やデザインの力も必要です。形や色のバランスは、子どもたちの気持ちを動かします。明るい色や自然の曲線を使うと、安心感やワクワク感が生まれます。これは芸術と心理が結びついた部分です。
このように、公園づくりには「理科(物理・工学)」「心理」「美術」「環境」といったSTEAM的な学びがが関わっています。つまり、公園も“学際の結晶”なのです。
子供たちは理科の時間になぜテコの原理、振り子の原理を習うのかなと疑問にも思わずにテストを受けると思いますが、その知識は、分野を横断した学びを通じた考える力を得ることによって、安全だけでなく楽しさや学びまでを含むブランコのデザインにつながり、子供たちの教育に貢献するのかもしれません。
長くなりましたが、坂口志文特任教授の論文を紹介します。
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Control of Regulatory T Cell Development by the Transcription Factor Foxp3 — Shohei Hori, Takashi Nomura, Shimon Sakaguchi(Science, 2003)
→ Foxp3 を制御性T細胞 (Treg) の発生におけるマスターレギュレータとして位置づけた論文 -
Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor alpha-chains (CD25). Breakdown of a single mechanism of self-tolerance causes various autoimmune diseases. — Sakaguchi 他(J. Immunol.)
→ 自己免疫制御機構における CD25⁺ T 細胞の役割を示した古典的論文 -
Regulatory T Cells and Immune Tolerance — 総説・レビュー的論文
→ Treg 細胞の免疫抑制・自己免疫制御に関する総説で、多く引用される -
Foxp3⁺ CD25⁺ CD4⁺ natural regulatory T cells in dominant self-tolerance and autoimmune disease — Sakaguchi 他(Immunol. Rev.)
→ 自然発生型制御性T細胞 (nTreg) の役割と自己耐性維持に関するレビュー的論文 -
Setoguchi R, Hori S, Takahashi T, Sakaguchi S. Homeostatic maintenance of natural Foxp3⁺ CD25⁺ CD4⁺ regulatory T cells by interleukin (IL)-2 and induction of autoimmune disease by IL-2 neutralization. — J. Exp. Med.(2005)
→ IL-2 による制御性 T 細胞の恒常性維持と、IL-2 抑制が自己免疫を誘発する可能性を示した実験的論文