”””2 0 0 7 年を振り返る””” | 恵の演出メモ

恵の演出メモ

マグダレーナの情報源

 

8月。「いもがさ恭安」は恭安のふる里、三豊市詫間マリンウエーブでの再演が決まった。団長をはじめ地元の恭安顕彰会の方々の尽力の賜物だ。公演日は9月17日。「アイラブ ピョンヤン」は松島町の市民文化センターで公演した。新人の山内がキャラクターを生かして好演する。演劇の後にパネラーを囲んでのトークがありかなり盛り上がる。ただいつも思うことだが客席に若い世代が少ない。こういうことに関心を持つ人間は多分変人扱いされるに違いない。だがいつの時代もそうだが時代を変えるのはその変人なのだ。変人大歓迎!フゥ(風)が悪いことするな、他人と同じことをしろ、変革反対のサヌキでは難しいことかも知れない・・・

9月。詫間マリンパークでの公演は八朔祭り前夜祭とあって大勢の観客が詰めかけ大盛況のうちに幕を閉じた。舞台の出来は稽古数が多くなった分、高松公演より流れがよく、また学術部分のカットで締まってきた。受け入れて下さった地元有志、特に中村恭安顕彰会の方々はほっとしたことと思われる。

公演が終わったからとゆっくりはしてはいられなかった。エルダーは10月に県の森林課が催すイベントに演劇を依頼されていたからだ。45分の舞台に森林作りの大事さをキャンペーンする内容を入れた舞台である。あまり教育的にならない方がいいと云うことで小西さんの持ち芸である「寅さん」を主人公にして書き上げた。「いもがさ恭安」「寅さん」と連続して主役を務めた小西さんにかかるセリフ量の負担は大きかったがいっさい弱音を吐かず黙々と演じ続けられた姿勢は素晴らしかった。

マグダレーナはすでに11月の岡山公演に向けて「祭囃子が聞こえたら」の稽古を開始していた。特に観音寺は小学生が対象になるので内容をかなり変更せざるを得なかったが、逆に焦点がピタリと合ったと自負している。80年前とはいえ、日本人同士が殺し合うという惨劇が何故起きたのか?今の時代には想像を絶することだらけだが、視点を外国の内乱に向ければ少しは理解の足しになるかもしれない。今もなお続く被差別部落への陰湿な差別をいかになくして行くか、ただ芝居をしていれば済むことではない。だが誰かが訴え続けなければ闇に広がるばかりなのだ。この問題にはメディアは目を瞑りいっさい触れることはない。唯一演劇舞台だけが表現できる問題だと思う。

10月。もうひとつ気になっていたのはサンポートから依頼されていた俳優講座の内容だった。担当者と打ち合わせをした際、「戯曲の解釈」についてやって欲しいということだった。この戯曲の解釈ほど様々に分かれるものはない。人それぞれのそれまでの生き方みたいなものがそこに投影されてくるからだ。ただ解釈する前に演出家がどの視点戯曲をとらえるかが先にあらねばならないわけで、そうなると俳優というよりむしろ演出講座に近い物になった。講義する戯曲は迷いに迷ったが菊池寛の「父帰る」にした。短編だし、いかようにも解釈でき、しかもこれまでは、ストレートに演じられていたようなので挑戦のし甲斐はあるようだ。
これに“大西マジック”をかけてみることにする。

「父帰る」は草なぎ剛が長男を演じ、杉村春子賞を受賞して、話題性があったといっても中央の話で地域では全く話題にならなかった。いつも言っている演劇鎖国状態がここにも見られる。演劇文化は地域ではほとんど成立しないからだ。

私は「ワークショップ」なるものに不審感をもっている。大方がそうであるように2〜3日ちょろっとやっただけで何が残るのだろうか。講座の参加者をみるとほとんどが演劇未経験だ。この人たちに少しでもインパクトを与え演劇というより演劇の演出というものに興味をもってもらうには何がいいか。様々な角度から考えたあげくに従来の「父帰る」をことごとく壊しにかかることにした。
おそらく墓で菊池寛が呆れ顔をしたに違いないが、演出家が芝居を作る過程で戯曲をどう解釈するかによっていかようにも舞台を作ることが出来ることを演劇未経験者に与えたつもりだ。だから役者が台本をもらった場合にまず関心をもつことはその台本で演出家が何を表現しようとしているかを知ることだ。台本どおりに一生懸命演技プランを考えて稽古に臨んでもその方針が異なれば徒労に終わるからだ。

この時期にもひとつ抱えてしまった仕事は「子ども活弁士」の養成だ。県芸術祭の主催公演であるシネマフェスティバルの企画だ。
活弁はそれまでにも二回大人の出演者でやっているから,その子ども版である。30名近くも応募がありオーデションで振り分けして13名を残し二組に分けて稽古を重ねた。超多忙な時期に毎週末の午後、子どもたちと過ごしたわけだが収穫は大きかった。小学生を間近に見る機会などそれまでに全くなかったからだ。そこにもやはり現代の潮流か圧倒的に女子が強かった。

高齢者劇団エルダーキャッツの「どんぐり小屋」は何とか間に合い満濃町文化センターで公演をする。あきらかに団員の疲れが見えていたが頑張ってもらった甲斐はあったと思う。ただ同じシーンを二回繰り返した時は椅子から転げそうになったが。

ここでも「さぬきの寅さん」こと代表の小西さんが持ち味のコメディセンスを発揮して観客を大いに笑わせていた。