AmazonがMGMを買収! 配信コンテンツ囲い込み合戦に拍車? | シネマの万華鏡

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AmazonがMGM(恐らく厳密には映画会社のMGMの親会社であるMGM Holdings,inc.)買収をプレスリリースしましたね!! 

 

 

配信サービスが豪速で世界制覇しつつある今となっては、そう驚く話でもありません。むしろ誰もが、そのうちに来ると思っていた・・・とは言え、「ついに来たか」という感慨深さはありますよね。

時代の変わり目の目撃者として、記事に残しておきたくなりました。

 

MGMの度重なる経営危機

MGMと聞いて一番に思い出すのはライオンが吠えるオープニング・ロゴ。そして007シリーズに『トムとジェリー』! 

『トムとジェリー』、子供の頃好きでしたねえ。あんなに仲が悪いのに「いい相棒」に見えてしまう2匹ってほかにいません。トムがライオンの真似をして吠えるオープニング・バージョンも楽しかったな。

ところが、今年公開された実写版『トムとジェリー』は、MGMではなくワーナーの作品。MGMの代表作だったはずの『トムとジェリー』が・・・と、調べてみたら、『トムとジェリー』の版権は過去に経営不振に陥った際に、他の多くの作品とともにワーナー傘下の会社に譲渡されていたようです。

Youtubeにアップされている懐かしの『トムとジェリー』も、ワーナーのアカウントから。オープニングのおなじみのライオンもさりげなく消されていて、寂しい限りです。

 

 

MGMはハリウッド草創期からある老舗映画会社。映画『MANK/マンク』にも当時(1930年代)ビッグ5に数えられていた同社と社長のメイヤー氏が登場します。メイヤー氏が大嫌いなマンクが、「もし自分が電気椅子に座らせられることがあったら、あいつを膝に乗せたい」と毒づく場面が印象的でしたね。

しかし、スタジオシステムと大作主義で巨万の富を築いたMGMも、テレビの普及が顕著になってきた50年代頃からすでに凋落傾向は始まっていたようです。

『トムとジェリー』をはじめ過去作の版権を大量に譲渡したのは、1980年代にワーナーグループ(ターナー・ブロードキャスティング・システム)に買収された時のこと。それ以前、70年代にはユナイテッド・アーティスツ(UA)の傘下にあり、『MANK/マンク』にあるような、ユダヤ系移民のメイヤー氏とその息子が親子喧嘩しながら経営していた時代はとっくに終わっていたようです。

 

さらに、2005年にはソニー・ピクチャーズほか複数の投資家グループにLBOで買収されています。

LBOというのは、買収する会社の資産やキャッシュフローを担保にした借金で企業買収をする手法。買収後、借金の返済は買収された企業が行います。つまりこのケースではMGMが自社買収のための借金を背負うことになったのですが、この時の借金のおかげで資金繰りが悪化したMGMは、2010年に破産法適用を申請。典型的なLBOの失敗例というところですね。

この時の倒産危機は『007 スカイフォール』と『ホビット 思いがけない冒険』の大ヒットのおかげで回避できたようですが、2015年にソニーはMGM株式を売却、投資ファンドが主要株主となったMGMは、その後また新たな売却先を探し続けていたようです。

 

2005年の買収時よりも高値で売却

こういう経緯ですから、タイミング次第ではワーナーと合併する可能性もあったかもしれないし、ソニー・ピクチャーズとくっつく可能性もありえたはずです。

しかし、結果的にそうはならなかった。もっともっと大きな時代のうねりがMGMを待ち受けていました。

もっとも、今回の買収は、MGMに残されていた選択肢の中ではむしろ上々のシナリオだったんじゃないでしょうか。

というのは、Amazonは映画製作部門として傘下にAmazon Studioを持っているものの、映画製作に関しては後発。それほど多くの話題作を出しているわけじゃないし、アカデミー賞受賞実績ではNetflixに大きく水をあけられています。ディズニーがFOXを買収した時には、同業どうしのM&AだけにFOXは大リストラに追い込まれたわけですが、映画業界では新参のAmazon傘下に入るのなら、老舗映画会社MGMのノウハウや人材は、それはそれとして尊重され、存続できる可能性があります。

 

もう1つ成功と言えるのが9200億円とも言われる買収価額。2005年のソニー・ピクチャーズ他による買収の際には6000億円と言われていて、15年の年月は経ているにしても金額が跳ね上がっています。

しかも現時点でMGMの筆頭株主となっているファンドは、MGMが倒産危機にあった2010年に安く株を買った(恐らくはソニーと共に買収した会社から?)Anchorage Capital Group。ここは今回の売却で20億ドル(2,200億円)もの売却益を出すようだとウォールストリート・ジャーナルで報じられているんですよね。 

まあ「MGMが倒産寸前だった時に安く買った株主がAmazonのおかげで大儲けした」なんて話は、儲かった当事者以外誰も面白くありませんが(笑)、興味をそそられるのは、2005年から2020年の15年間に買収価格が3000億円も跳ね上がったということ。

会社の買収価格は通常、将来どれだけキャッシュを稼ぎ出せるかの予測によって決まります。

この15年で増加したMGMの価値とは何なのか?そこが今回の買収劇が今旬の事件たる所以です。

 

配信サービスのコンテンツ囲い込み合戦がコンテンツの価値を釣り上げた?

今回のAmazonによるMGM買収劇を報じたニュースサイトの多くが、買収の目的を「MGMの過去ライブラリーの囲い込み」だと見ています。

2019年にDisneyがFOXを買収した結果、FOX作品のNetflixへのコンテンツ提供が打ち切られたのは記憶に新しいところ。そのうち全作品がDisney傘下の配信サービスでしか観られなくなるんでしょうか? あの時点で、今後の配信サービスのシェア争奪戦の鍵はコンテンツ囲い込みだということは目に見えていたし、実際に今回のAmazonのプレスリリースを見ても、映画4,000本、TVドラマ17,000時間というMGMのコンテンツ取得が買収の大きな成果としてアピールされています。

 

勿論これまでも映画やTVドラマ過去作はDVD化やTV放送・リバイバル上映などで収益を稼ぎ出してはいたわけですが、配信サービスの伸長とその競争激化のおかげで、コンテンツの価値はこれまで以上に高まっているのでは? それが今回の買収価値を15年前よりも大きく押し上げたのではないか?(コンテンツが増えたこともあるとは思いますが)これはあくまでも私の推測にすぎませんが、そんな気がしています。

それに、DVD販売や特定のテレビ局での放映収入など従来的な収益構造の中で将来キャッシュフローをはじき出すのと、Amazon primeの世界市場を前提とした配信ネットワークにのせた場合を想定しての将来キャッシュフローとでは、どう考えても後者のほうが格段に大きな数値になるはずですから。

MGM株の所有者にとっては、またとない絶好の売り時が到来したということでしょうね。

 

コンテンツ確保のほか、買収目的には「MGMのカタログのIP(知的財産)の再構築」もあげられているようです。具体的には新たな作品制作ということになるんでしょうか?

これまでAmazon studioの映画はどちらかというと映画賞向けの通好みなラインラップだったようなイメージなんですが、大衆向け娯楽作品を得意とするMGMのカラーがAmazonという巨大資本の中でどう活かされるのか、興味津々です。