『ゲット・アウト』 リアルなアメリカに重なるホラー | シネマの万華鏡

シネマの万華鏡

映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

(黒人の眼って好き)

監督・脚本のジョーダン・ピールが黒人と白人のミックスだからこその説得力

「批評家絶賛のサプライズ・スリラー」というフレコミでかなり集客に成功した作品。

アメブロのブロ友さんの間ではすごく好評というわけでもなかったんですが、話題作なので観てみましたてへぺろ

同じく低予算ホラー『ヴィジット』でも話題を掴んだジェイソン・ブラムがプロデュース、今回監督・脚本家を務めたジョーダン・ピールは黒人と白人のミックスで、コメディアンという顔も。

このジョーダン・ピールのプロフィールが、この作品を語る上では不可欠の要素になっている気がします。

黒人ならではの差別に対する嗅覚も、黒人に対する白人の表裏も、両方が分かる立場にいる人じゃないとこの作品は作れないし、作ったとしても説得力がないと思うんです。

ホラー調ながらどこかおかしみがつきまとうのも、コメディアン監督ならではなんでしょうね。

 

ストーリー

 

黒人で写真家のクリス・ワシントン(ダニエル・カアルーヤ)は、白人の恋人ローラ・アーミテージ(アリソン・ウィリアムズ)と彼女の実家で休暇を楽しむことに。

ローラの両親が黒人の自分を受け容れてくれるかどうか不安に思うクリス。

親友のロッド(リル・レル・ハウリー)の「白人の女の実家なんか行くな」という猛反対にはちょっと嫉妬も混じってるかなと思っているクリスですが、なんだかんだ言って黒人の親友に一番心を許している様子。

しかし、ローラに説得され、クリスも決意を固めます。

 

初めて訪れたローズの実家は、ちょっとしたお屋敷風。

典型的な白人知識階級の両親は、予想に反してクリスを歓待してくれます。

全て杞憂だったのか?と思いきや、白人家庭に黒人の使用人2人という「いかにも」な構図や、使用人2人の貼りついたような笑顔には何か異様なものが。

その上、アーミテージ家で催されたパーティ「ローズの祖父を讃える会」に集まった白人たちのクリスに対する態度も取ってつけたようで、もうどうしようもなく何かがヘン。

怖くなったクリスはローラを連れて帰ろうとしますが――

 

白人の本音と建て前のギャップが二重写しになる前半

とにかく前半は「このヘンな空気はなんだろう?」というモヤモヤ感でパンパンになる感じ。

ものすごくモヤモヤするのに、不思議とその不快感がとても快感。
「もっとモヤモヤを!」
という新感覚に酔いしれました。当然睡魔ゼロ。

 

もうひとつツボだったのは、リアリティーですね。

白人の黒人に対する含みのある態度、白人とつるんでいる黒人に対する黒人の異様な接し方――

まさに現実の社会にある「覆い隠された黒人差別」をデフォルメしているようなリアリティーがあって(実は物語のオチは全く違うところにあるんですが)、多分アメリカ人なら黒人も白人も「あるあるあるある」とブンブン頷いてしまう部分があるんじゃないでしょうか?

 

例えば、ローズの父親の、「オバマに3期目があるなら彼に投票してた」という発言。

2016年の大統領選挙戦中は、トランプ支持の白人はプアホワイトが中心だ、中産階級以上はそんなのありえないといった言われ方をしていましたよね。

ローズの父親みたいな知的で裕福な白人は、いまや白人至上主義なんてナンセンスだと思ってるはずだった。でも、フタを開けてみたら、実際は恵まれた白人の中にも隠れトランプ支持者がかなりいたことが分かった・・・アメリカの白人のホンネと建て前に世界が愕然とした大統領選直後の公開作ですから、ローズの父親の発言にはみんな苦笑いしたことでしょう。

 

ローズの実家の黒人使用人たちの、「嫌な仕事?差別?そんなの全くありません」と満面の笑顔で言い切る態度も、裏で虐待を受けている人間そのもので、いまどきそんな・・・と思うけれど、アメリカ人にとってはまだまだ「あるある」な部分がありそうな気も。

 

この作品がアメリカではウケたのだとしたら、前半のクリスに対するローラの家族やその周辺の人々の態度の異様さを強調したシーンが、黒人大統領が出る時代、黒人差別なんて非常識になってしまったアメリカの、水面下に覆い隠されたひずみのようにも見えてシュールだってところも、高ポイントなのかなという気がします。

 

この「オチ」は、ホラーよりコメディに馴染みそう

ところが、後半明かされたコトの真相にはかなり脱力!!

このオチはちょっと共感できなさすぎて、「怖い」にはつながらなかったかな。

オバマ大統領時代ならともかく、トランプ大統領時代に黒人になりたがる白人っていますかね?

たしかに黒人の身体能力や芸術(特に音楽)の才能は突出しているけれど、才能だけをいただけるわけじゃないですからねえ。。。

映画の企画段階ではトランプ勝利は想定してなかったと思うので、現実の意外な展開にリアリティーを削がれた感じ・・・その辺はアンラッキーだったのかもしれません。

ただ一方で、大統領選直後の公開(今年1月)だったからこそ、「白人の表裏」という要素がホットだったとも思いますけどね。

前半の差別意識の見え隠れする雰囲気とオチとの矛盾もちょっと気になりました。

 

これ、ホラー仕立てじゃなくてコメディ色がもっと強ければ、このありえなさも脱力系のオチとして楽しめたのかも?とも思いました。

実際、あのラストシーンなんてまさにブラック・コメディだし、クリスの親友役のリル・レル・ハウリーもコメディアンだし。

ほんの少しの変更でコメディに様変わりする作品のような気がします。もしかしたらその辺はいろいろと試行錯誤があったのかもしれません。

 

最近日本に来る映画はとにかく実話や続編が多くて、個人的にはちょっと食傷気味。(ブレラン続編は別ですよ♪)

そんな中で、本作がすごく新鮮味を感じさせてくれたのは確か。

映画の面白さって、整合性やもっともらしさが必須要件というわけでもないんですね。