澁澤龍彦とビーチコーミング
澁澤龍彦邸の居間や書斎、邸内に飾られた絵やオブジェ、オウムガイや貝殻などのコレクションについては、このブログの記事(「参照項としての澁澤龍彦邸」など)でも触れているが、旧ホームページの日記で澁澤とビーチコーミングについて書いていたので、ここに再掲する。
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2010-04-17
憧れの書斎
『澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド』*購入。龍子夫人もどこかで言及していたが、澁澤龍彦のマーケティングのセンスは天才的であったと思う。著書のタイトルに見られるコピーライティングのセンスも注目に値するが、彼自身の偶像的なイメージの形成プロセスを「ブランド化」という観点から見ると、かなり興味深い研究対象になるのではないだろうか。
この事は、裏返せば、彼について知れば知るほどアラが見えてくるということでもある(矢川澄子に対する仕打ちなど)。また、彼の業績については、学問的な視点からも冷静に洗い直される必要がある。彼の業績の本質があくまでも「編集」にあったとしてもだ。以前、澁澤の元ネタを探すような研究に対して批判的な文章を書いていた澁澤贔屓の大学のセンセイがいたが、そもそも元ネタが明らかにならなければ、どの様な編集が行われたかも明らかにならないではないか。大事なことだからもう一度言うが、元ネタ探しは澁澤の理解には必須の作業だ。
というわけで、私はもはや無邪気な澁澤ファンではいられなくなってしまったが、澁澤邸の書斎と居間は、依然として憧れの的だ。
残念だが、あの書籍の山はもはや真似できそうにない。一昨年の引っ越しの際に大分減らしたのだが、それでも重量的にやばいのでもう増やせない。ということで、居間のキャビネットや机の小物に目が向く。ヒトの頭蓋骨模型はいらないが、掌に載るくらいの小動物の骨格標本なら欲しい。土井典制作の貞操帯はオブジェとして魅力的だ。似たような物をいずれブロンズ鋳造で作りたい。澁澤の机の上には子供の頃の三角定規が載っているが、そういえば自分も小学生の頃から持っている解剖バサミがあるぞ、などとあれこれ思いながら澁澤コレクションを眺めると結構楽しい。
*澁澤龍彦 『澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド』 (編=澁澤龍子, 写真=沢渡朔)(集英社新書, 2010.3.22)
2011-04-03
澁澤龍彦とビーチコーミング
澁澤龍彦は実はビーチコーマーだった。もし当人が今も生きていてこんな風に言われたら、たぶん露骨に嫌がっただろうが。
『澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド』(集英社, 2010)で龍子夫人は次のように回想している。
澁澤は、海岸に行くと貝や流木や石などを必ず拾って帰りました。拾わずにはいられず、たまに手ぶらで帰るときはがっかりしていました。
ウニの殻も好きで、拾ってくると、煮て、綺麗にトゲを取って中身を空にして、という作業を嬉々としてやっていました。
澁澤自身も鎌倉の海岸で拾った物についてしばしば話題にしている。
わが家の応接間の壁面や飾り棚には、古ぼけた埃だらけのドライフラワーや各種の貝殻のほかに、次のようなものを所狭きまでごたごたと並べてある。すなわち、―― イタリアのデザイナー、エンリオ・マーリ氏の制作になる透明なプラスティック製の球体。中西夏之氏の制作になる巨大な卵のオブジェ。テヘラン旅行で買ってきた小さな卵形の大理石。フランドル派の絵に出てくるような凸面鏡。同じくイギリス製の凹面鏡。ガラスのプリズムや厚ぼったいレンズ。旧式の時計。青銅製の天文観測機。スペインの剣。模型の髑髏。鎌倉の海岸で拾った犬の頭蓋骨や魚の骨。チュイルリー公園で拾ったマロニエの実。バビロンの廃墟で拾った三千年前の煉瓦の砕片。カブトガニ。クジラの歯。海胆の殻。菊目石。etc.
「過ぎしにかた恋しきもの」(『貝殻と頭蓋骨』、『澁澤龍彦全集』第13巻所収)
じつをいえば、私も一つ石笛を所蔵している。もう十数年も前に鎌倉の海岸で拾ったもので、やわらかい石に貝が棲みついて、いくつもの貫通孔をうがった物だ。
「石笛と亀甲について」(『澁澤龍彦全集』第22巻所収)
『澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド』に掲載された澁澤邸の居間のキャビネットの写真では、「鎌倉の海岸で拾った犬の頭蓋骨」が確認できる。その横にはなんとアオイガイが見える。また、古い時計の前には澁澤が処理したウニの殻が置かれている。さらにはオウムガイ、エビの剥製など海の物が多い。 (ちなみに、『澁澤龍彦事典』(平凡社, 1996)にもキャビネットの写真が掲載されているが、中身には若干異同がある。)
その他、これまで気付かなかったのだが、ガラスの浮き球がp.72の写真に見られる。分かりにくいがヘソも見える。
ということで、「ビーチコーマー」に認定。
2011-04-14
澁澤邸の犬の頭蓋骨
澁澤龍彦全集第8巻(1994.1)の月報に、『「新人評論」の頃』と題して若い頃の友人大塚譲次のインタビュー記事が掲載されている(インタビュアー=出口裕弘)。ここで、大塚譲次は次のように回想している。
ふいと見たら、猿の骸骨が窓のところにあるの。「これ、なに?」と訊くと、「材木座の海岸で拾ってきた」と言うんです。首のところから先だけなんだけれども、本当に猿なんです。いまでも覚えているのは、「君ね、この猿の頭をなでて、この猿がどこから来たのかなあと、いろいろいま考えているところだ。」と言うんです。
どうも、澁澤は犬の頭蓋骨をはじめは猿の頭蓋骨だと思っていたらしい。確かにキャビネットの写真を見ると、それっぽく見えないこともない。ちなみにこのエピソードは、北鎌倉の澁澤邸に引っ越す前の事だったらしい。澁澤邸のキャビネットは新居の完成の直後に持ち込まれ、その後に有名なヒトの頭蓋骨模型を注文したはずだ。つまり、澁澤は、ヒトの頭蓋骨模型に先だって犬の頭蓋骨を所有していたことになる。いずれにしても、この頭蓋骨を見ると、在るべき所に辿り着き、安らっているような雰囲気すら感じられる。
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澁澤龍彦 『澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド』 (編=澁澤龍子, 写真=沢渡朔)(集英社新書, 2010.3.22)
表紙には澁澤邸の居間のキャビネットの写真が使われている。
上掲書から、居間のキャビネットのオブジェ。犬の頭骨とアオイガイが見える。
YouTube:
Edge Special 澁澤さんの家の方へ
私の書斎から、
ナミハリネズミ (Erinaceus europaeus)の頭骨。「掌に載る」サイズ。
見回すと、他にもヒグマ、キョン、それとビーチコーミングで拾って現在処理中のアザラシの頭骨がある。スミロドンの頭骨模型も。…なんか、増えたな~。
書棚の一角。
鎌倉旅行の風景スナップ。









