斎藤幸平氏よ 加害者の”共事者”になれ! | ひらめさんのブログ

ひらめさんのブログ

メランコリー親和型鬱病者で理屈好きな私の思うところを綴ります。

脱成長!新・マルクスの世界 斎藤幸平(前編) - NHKアカデミア - NHK

NHKアカデミア 資本主義のその先へ 斎藤幸平(後編) - NHKプラス

「NHKアカデミア」という番組がある。各界のトップランナーによる講座ということで山口晃氏(画家)山中伸弥氏(生命科学者)など好印象を持って視聴していた。今回は経済思想家の斎藤幸平氏である。

 

氏については何も知らなかったがwikiによると、東京大学に入学するも3ヵ月で辞めて各国の大学で学んだ後、東京大学准教授に就いた人らしい。こんな優秀で若い(37歳)人が専門とするのがマルクスだというのである。きっと新しい視点を見せてくれるのではないかと思っていたのだが…。

 

斎藤氏は環境問題に関心があり、一過性の自己満足に終わるSDGsを「大衆のアヘン」とまで呼んで批判している。私は環境問題を特に気にする訳ではないが、古臭い”もったいない精神”継承者としてこれにはほぼ同意してよいと思ってはいる。そして氏はこの環境破壊の要因を資本主義と捉え、それをマルクスの「資本論」に結び付けるのである。

 

全く新しくはないが(私の共産党員だった母も同じ方向性ではあった)それも同意していいだろう。だがその次が致命的にダメである。それは「3.5%」に期待するというものだ。私は初耳だったのだが、ハーバード大学の政治研究者エリカ・チェノウェス氏の「市民的抵抗(2022)」にある理屈らしい。

Amazon.co.jp: 市民的抵抗:非暴力が社会を変える : エリカ・チェノウェス, 小林 綾子: Japanese Books

 

様々な社会変革の事例を調べていくと、3.5%の人が非暴力で本気で立ち上がると社会は大きく変わるということが示されたと言うのである。私はもちろんこの本を読んでいないが、相関関係は見えたのかもしれないが、何の因果関係も無い数字だと断じて良いと思っている。「風が吹けば桶屋が儲かる」に期待すると言った方が打算が無くて清々しいだろう。

 

論理的な批判をすれば、現状変更を求める人が3.5%いて変革が可能であるとしたら、”現状維持”を求める人だって3.5%いればそれも実現される(つまり何も変わらない)ことになるではないか。”現状維持”を本気で求めている人の存在に気付いていないのだろう。3.5%以外の96.5%は意思を持たない人間未満のように思っているのではないだろうか。

 

そんな選民意識が「意識高い系」と揶揄される原因となっていることはもっと認識すべきだろう。最後の質疑応答でそう揶揄されている高校生のコメントがあったが、斎藤氏の回答は概略、伝わりそうな相手に対して積極的に支持を集めよというものだった。ここには”伝わりにくそう”な相手への他者理解が欠落している。

 

氏はこの番組で覚えて欲しい言葉として「共事者」というものを紹介する。これは”当事者”が問題に直面する者であるのに対して、普段の生活は問題から遠くにあっても、例えばボランティアとして現場に接した時のそこで生活する人の思いを共有しようとするのが共事者だという意味のようだ。

 

だが、こんな当事者と共事者なんて最初から友好関係が出来上がっている。味方の数を増やして敵をやっつけようというに過ぎない。こんなもの哲学でも思想でもない。思想家を名乗るなら、氏の想定する敵である加害者にこそ共事者となるべきなのだ。福島の問題なら東電経営者の立場、性被害の問題ならその加害者が何故そんな行動をとることになったのかを理解することから始めなければなるまい。

 

そこでは脳をフル回転しても理解出来ないものもあるはずだ。それをやってこそ”社会的エリート”ではない真の思想家だろう。せっかく明晰な頭脳に恵まれて生まれて来たのに、出来レースに甘んじているなんて遺伝子が泣くぞ!