3月10日,東大合格発表があった。当ブログアメンバーからも多数の合格報告が来ている。おめでとう。東大入学準備のためにパソコン購入を検討している保護者も多い。
大学によって推奨パソコンの事情が異なるので,以下では,東京大学に限定する。私も我が子二人も同大だし,長女は在学中で事情に詳しいからである。
■最近の東大Mac事情
私は今から6年前に中学入学祝いとしてのパソコン購入について次の記事を書いた。
そこでは,以下の3つの理由から,Macのノートパソコンの購入を勧めた。
理由1 iPhoneプログラミングはMacでしかできない
理由2 将来、東大に進学するならMac
理由3 Macは大は小を兼ねる
それぞれの理由について,現在,どの程度あてはまるのか検討し,最後に,現在の東大新入生には何がふさわしいかについて結論を述べる。
なお,6年前に私の勧めに素直に従いMacのノートパソコンを購入して使いこなしてきた生徒にはこの記事は不要である。その延長で東大進学時にもそのままMacを使うに決まっている(買い換えのタイミングが入学時かはともかく)。そして,東大入学後はMacの使い方に悩む友達にアドバイスする頼もしい存在となっているはずである。
6年前の理由1:iPhoneプログラミングはMacでしかできない
「iPhoneプログラミングはMacでしかできない」という事実は,現在も妥当する。しかし,6年前と異なり,プログラミング教育の中心がiPhoneプログラミングではなくなっている。
中高生へのプログラミング教育推進の中核を担うLife Is Techは,現在,多数のコースを設置し,その一つとしてiPhoneプログラミングコースを位置づけているにすぎない(他のプログラミング教育機関よりはiPhoneプログラミングを重視している印象はある。Androidプログラミングコースの設置がないキャンプがあるなど)。
プログラミングの必要性は大いに注目されているが,最も注目されているプログラミング言語はPythonである。AIプログラミングに使いやすいからである。プログラミングに興味がある子であっても,その多数はiPhoneプログラミングはどうせやらない,Pythonなり,JavaScriptなりをするはずだから,結局のところ,この理由1は重視に値しない。
6年前の理由2:将来、東大に進学するならMac
東大に進学して最初の2年間通う駒場キャンパスの情報教育で使用される端末は現在でもすべてMacである。だからMacに慣れておくのが多少有利である,という事情は,現在も基本的には妥当する。
しかし,オンラインサービスが発達し,東大の授業に使用する主要ソフトはWindowsでもMacでも動作するから,Macでなければ不利になる,という状況はない。むしろ世の中一般ではWindowsが主流だから,Windowsの操作に学生のうちから慣れておくのが長期的には有利のはずという考慮要素もある(東大学内のMacの端末でもWindowsに切り替えて起動・操作できるように設定されている)。
ここが非常に悩ましい。
中高生のうちからパソコンに習熟していたなら,その延長で,気に入っている端末を使えばいい(この記事など読む必要がない)。MacだろうとWindowsだろうと,そのまま東大の環境に適応できる。
これに対し,入学前にパソコンに十分に習熟していない大多数の生徒にとっては,他の人がどうしているか,が最大の決め手になるようである。よくわからないときは,無難に流れ,安心を買うのである。東大生の多くもこれまで実際そうした選択で成功体験を積んできた(サピックス,難関中高一貫校,鉄緑会…)。
というわけで,実際のみんなの動向である。2023年現在,東大教養学部3年(文科1類から後期教養学部に進学した。つまりまだ駒場キャンパス)在学中の長女によれば,周囲では,Windows:Mac=2:8から3:7ぐらいで,私の想像以上に現在もMacが多数派である。おそらく,東大生協が駒場モデルとして,大々的にMacのノートパソコンを推奨している影響が大きい。6年前に比べると,同時にWindowsモデル(Dynabook)も提示してはいるものの,店頭での推し具合が違う。東大生協で購入すれば,駒場の2年間いつでもパソコンを教えてもらえる(「こまさぽ」)と聞くと,情弱どもはもうそれでズキュンなのかもしれない。おっと口が悪くなった。
東大生協駒場購買部にWindows・Macどちらが売れているか聞いたところ,やはり「圧倒的にMacが多いです」という。Windowsを選択するなら他店舗で自分好みのモデル[Surfaceなど]を買う人が多いだろうから,なおさらそうなるだろう。
ちなみに,東大合格者数43年連続全国1位の開成高校では,2024年度新高2から学校でMacBook Airを補助付きで一括購入(任意)している。今後の東大新入生でのMac選択傾向がいっそう強まる可能性がある。
長女によると,授業中のノートは,ノートパソコン派が多い印象だそうである。長女自身は,自由なレイアウトができるから,という理由でiPad+GoodNote 6でノートをとっている。
話を戻すと,理由2は,現在も一応妥当するが,決定的ではない。多数が安心感に流されて無難な選択をした結果である。
6年前の理由3:Macは大は小を兼ねる
(1)6年前当時は,MacはUNIXにGUIをかぶせたOSであり,UNIXも動作するという利点があったが,現在はWindowsでもUNIXは比較的簡単に動作する(Git for WindowsやWindows Subsystem for Linux(WSL))。
また,(2)6年前当時はBoot Campというシステムにより,MacBookでもWindowsがネイティブに動作した(現在の東大駒場キャンパスのMac端末ではそれが採用されている)。ところが,現在新たに発売されているMacBook(駒場モデルも該当)はM2というApple独自CPUになり,Boot Campが廃止されたため,Windowsはネイティブには動作しない。それでも,macOSの中で仮想マシンソフトであるParallels Desktopを使用して,あたかもmacOSの一部であるかのようにWindowsを動作させることはできる。便利ではあるが,互換性は完全ではないし,本来のCPUパワーを存分には発揮できない。その意味で,小を兼ねているとはいえない。
つまり,現在は,(1)WindowsでもUNIXが簡単に動作するようになり,(2)MacではWindowsはネイティブには動作しなくなったことから,理由3は現在はMacの優位点として妥当しない。
以上の検討を前提に,結論を述べる。
好きなものを買えばいい。
私自身は,Macが好きだから,自分の子にならMacを勧めるし(と同時に,Parallels Desktopを導入してWindowsの操作にも精通させる。WindowsもMacも両方使えるのがベストだと押しつける),Macを買った友人には親身になり何でも教えてあげる。しかし,お勧めを質問されて一般的に回答するときは,上記のように判断材料を提示するにとどめざるをえない。昔からMac優位だった東大生に対してであっても,以前ほどには,Macをぜひどうぞ,とはいいにくい状況である。
■どこで買うべきか
Macを買うとして,東大生協で買うべきかも,実は問題である。東大生協の駒場モデルは,色々なサービスが付帯しているせいで割高なのである(ゴミインクジェットプリンターと抱き合わせ販売の学修セットはますます割高)。我が子が今年の新入生だとしたら,「生協の人が質問に答えてくれる」(2年間の「こまさぽ」)など全く無用なので,東大生協では買わない。MacBook Air (M4)(東大生協駒場モデルより新しいモデル)を直営のアップルストアまたはアップル学生・教職員向けストア(現在,アップルストア学割キャンペーン中。22,000円のAppleギフトカードが付く)で学割で買う。
とはいえ,現在,東大新入生でMacを買う層は,東大生協に勧められ,みんなと同じ安心を買っている層が多いはずである。わざわざアップルストアで安く買うのは,我が家のような少数のひねくれ者である。そんなひねくれ者を私は応援したい。
なお,東大生協では新入生のために「先輩が教えるパソコン講習会」を開催している。東大駒場モデルパソコンを購入する場合には,【講習会なし】セットと,【講習会あり】セットとを選択できる。その差額は15,000円である。この講習会は魅力的だが,駒場モデルを購入しなくても,講習会単独での購入が可能である。ただし価格は20,000円である。
■Officeは買うな
付け加えると,東大では在学中Microsoft 365 (Office 365)が無償提供されるので,Officeを買ったりしないこと。
■電子辞書は買うな(辞書アプリを買うのは4月を待つ)
さらに付け加えると,東大生協では,電子辞書の購入も勧めているが,電子辞書の専用端末は不要である。実際に電子辞書を使用している学生は,クラスに一人いるかいないか程度である。現在はスマホ/タブレット用の辞書アプリが豊富にそろっており,電子辞書専用機は基本的に不要である。なお,iOS用辞書アプリ最大手の物書堂は,例年4月に新年度割引きセールを実施する(2025年は4月2日〜4月23日)。辞書アプリはそれを待って買うのが合理的である。
ちなみに,アップルストアの学割は,事実上,学生以外でも利用できる(→私の知恵袋ベストアンサー参照)。
■おまけ:Macが故障した場合のもう一つの選択肢
保証対象外の故障や,保証期間外の故障をどうするかの問題がある。
私が自分の学生時代から30年以上Macを使用してきた経験からすると,自然故障するのは初期不良かだいたい1年以内である。それ以外の多いパターンは,次のとおり。
- バッテリーがへたって長持ちしなくなる(いずれ確実に来る)。モバイルバッテリーでの対処も可能だが。
- キーボードが打ちにくくなる。キーの隙間のほこりをブロワーで吹き飛ばすなどふだんしていれば大丈夫だが。
- ジュースやコーヒーなどの液体をキーボードにこぼす(そしてロジックボードに到達し動かなくなる)。これが一番,起きがちでヤバい。すぐ壊れる。
- 落下や電車内圧力などによる液晶パネル割れ。
保証によって無料または安価でカバーされるならそれを利用すればよいが,そうでない場合のために,一般にはほとんど知られていない選択肢がある。Apple非正規の修理店である。私が実際に利用し,信頼しているのが次の店である。
正規の修理より安価な場合がほとんどだし,「データはなるべく消さないように」など融通が利く。Appleの修理はデータ消失が前提のような建前的な対応しかしない。実際は消失しない場合が多いのに,事前には,絶対に消失するかのような案内をして不安にさせてくる(ユーザーとしてはAppleが最善を尽くしたうえでデータ消失したならかまわないのに,最善どころか一切の配慮を拒否する)。保証できないからだろう。Appleではやらないメニューもある。たとえば,壊れたパソコンはそのままでいいから,内蔵SSDのデータを抜き出して外付けSSDに救出して,とか。
私はカフェオレをキーボードにこぼすので3回,単なるキーボード交換で1回はお世話になった。渋谷だから東大駒場にも近い。学割10%やお得意様割引もある(併用不可)。
いざ何かあったときに,正規修理と比較する選択肢として頭に入れておこう。