1.【原文】の音読
2.【現代語訳】の照らし合わせ
3.【イラスト訳】のイメージを入れる
この順で一語一語の読解とイメージトレーニングを行います。
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源氏物語イラスト訳【紅葉賀168】催馬楽「東屋」
弾きやみて、いといたう思ひ乱れたるけはひなり。君、「東屋」を忍びやかに歌ひて寄りたまへるに、
「押し開いて来ませ」
と、うち添へたるも、例に違ひたる心地ぞする。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。
源氏物語イラスト訳
弾きやみて、いといたう思ひ乱れたるけはひなり。
訳)弾き終わって、とてもひどく思い悩んでいる様子である。
君、「東屋」を忍びやかに歌ひて寄りたまへるに、
訳)源氏の君が、「(催馬楽の)東屋」をひそやかに歌って近寄りなさったところ、
「押し開いて来ませ」と、うち添へたるも、
訳)「(戸を)押し開いて入っていらっしゃいませ」と、つけ加えて歌っているのも、
例に違ひたる心地ぞする。
訳)普通の女とは違った感じがする。
【古文】
弾きやみて、いといたう思ひ乱れたるけはひなり。君、「東屋」を忍びやかに歌ひて寄りたまへるに、
「押し開いて来ませ」
と、うち添へたるも、例に違ひたる心地ぞする。
【訳】
弾き終わって、とてもひどく思い悩んでいる様子である。源氏の君が、「(催馬楽の)東屋」をひそやかに歌って近寄りなさったところ、
「(戸を)押し開いて入っていらっしゃいませ」
と、つけ加えて歌っているのも、普通の女とは違った感じがする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■【弾きやむ】…(琵琶を)弾き終わる
■【て】…単純接続の接続助詞
■【いと】…とても
■【いたく】…ひどく
■【思ひ乱れ】…ラ行下二段動詞「おもひみだる」連用形
※【思ひ乱る】…思い悩む
■【たる】…完了の助動詞「たり」の連体形
■【けはひ】…気配。ようす
■【なり】…断定の助動詞「なり」終止形
■【君】…源氏の君
■【東屋(あづまや)】…催馬楽(さいばら;平安歌謡)の一曲「東屋」をさす。「東屋の真屋のあまりのその雨そそぎ我立ち濡れぬ殿戸開かせ鎹もとざしもあらばこそその殿戸我鎖さめおし開いて来ませ我や人妻」の前半部分を引いたものと思われる。
■【を】…対象の格助詞趣深い
■【忍びやかに】…ナリ活用形容動詞「しのびやかなり」連用形
※【忍びやかなり】…ひそやかだ。こっそりと
■【歌ひ】…ハ行四段動詞「うたふ」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【寄る】…近寄る
■【たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【る】…完了の助動詞「り」連体形
■【に】…順接の接続助詞
■【押し開いて来ませ】…『催馬楽』「東屋」の「東屋の真屋のあまりのその雨そそぎ我立ち濡れぬ殿戸開かせ鎹もとざしもあらばこそその殿戸我鎖さめおし開いて来ませ我や人妻」の後半部分を引いたもの。
※【ませ】…尊敬の補助動詞「ます」の命令形
■【と】…引用の格助詞
■【うち添ふ】…添える。つけ加える。追加する
■【たる】…完了(存続)の助動詞「たり」連体形
■【も】…強意の係助詞
■【例(れい)】…普通。通例
■【に】…変化の結果の格助詞
■【違(たが)ひ】…ハ行四段動詞「たがふ」連用形
■【たる】…完了(存続)の助動詞「たり」連体形
■【心地(ここち)】…感じ。気持ち
■【ぞ】…強意の係助詞(結び;「する」)
■【する】…サ変動詞「す」の連体形
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先日、『ツバキ文具店』の第2弾、『椿ノ恋文』を読みました。
最近、私たちは、誰かに何かを伝えたいとき、メールやSNSなどで済ませることが、ほんと多くなりましたよね。
でも、こういう本を読んだら、手書きの手紙や、生の言葉のやりとりが、お互いの心の交流において、すごく大切なものなんだなぁ、ということを、改めて気づかされます。
この本は、代筆屋という職業の主人公が、いろんな人たちとかかわっていく中で、人間関係が深くなっていく、といった内容なんですが、
中でもわたしが心惹かれて、何度も何度も、声に出して読んだ箇所があります。
「(彼の絵ハガキを、彼女の)ラブレターの上にそっと重ねて、元の箱の蓋をした。箱の中で、ふたりは間違いなく、今この瞬間も睦み合っている。
睦み合うのは何も、カラダだけではないのだ。文字と文字だって、触れ合い、たわむれ、睦み合って交わる。(『椿ノ恋文』より)」
今回の源氏物語は、昨日に引き続き、
平安歌謡の催馬楽(さいばら)を引き歌に、
光源氏と源典侍がかけあっている場面。
まさに、カラダだけじゃない、言葉と言葉のたわむれ・睦み合いが、のびやかに描かれている場面だと思います。
催馬楽の「東屋」っていうのは、
「東屋の 真屋(まや)のあまりの
その雨(あま)そそぎ 我立ち濡れぬ
殿戸とのど)開かせ
鎹(かすがひ)も とざしもあらばこそ
その殿戸 我鎖(さ)さめ
おし開いて来ませ 我や人妻」
このような、テンポの良い歌謡で、男女の唱和体になっています。
前回、源典侍が、「瓜作り」という、催馬楽の「山城」をも、の憂げに弾き語っていたので、
それに乗じて、光源氏は、同じく催馬楽の「東屋」のフレーズを引いて歌います。
ふだんから、源氏は彼女を慰めたいと思っていたので、こんなふうに彼女の引いた催馬楽の関連フレーズを引いて、たわむれたんですかねぇ。
その、源氏のたわむれに乗じて、源典侍は、その引き歌の後半部分を引用して、
「おし開いて来ませ」と誘うのです。
ノリノリですよね~!
若ノリをしている、年増の源典侍。
光源氏も、ちょっと引いてしまったのでしょうか…。
「やる奴だぜ…;」
そんな感慨が、聞こえてきそうです。。。
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