短編小説 Z432外伝 恋心 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

ファッションモデルをする未希には目標とするモデルがいる。それ

サチだ。自分に仕事が入ってこない時でもサチにはコンスタント

に仕事が入り差を感じてしまう。悩んだとき落ち込む時に見るブロ

グがあり最近ネットサーフィンで見つけたものだった。ブログは小

説ばかり載せたもので長編小説もあるがごく僅かしかなくほ

とんどが短編小説を書いたものだった、その数は400作を超える。

 

1行読んだだけで作風が気に入りブログを見つけたその日に宇宙旅

記、幽霊人、恋人は悪霊の3作を読みファンになった、不思議と

これだけの作品だというのにコメントがひとつも入っていないこと

に疑問を持った。自分のような少数だけがお気に入りに入れたので

はない、それはフォロワーが80人もいることが物語る。

 

ある日いつものように読んでいるとはじめてコメントを入れる人物

いた。ハンドルネームは”サチ”すぐ思いついたのがモデルのサチ

だが名前を変えずにアップするとは考えられない、偶然名前が被っ

ただけだと思った。

 

毎日読んでいると登場人物に自分を映し自分が恋しているかのよう

錯覚に陥いり主人公になったつもりになる、やがて作者に好意を

抱くように変わる。そんな折サチと名乗る女からコメントが入り未

希は平常心ではいられない。未希はサチを心のライバルと自分で勝

手に決めつけてるので同名で好きなブログにずうずうしくもコメン

ト入れるのが許せなかった。

通常撮影が終了すると個々に解散するのだがこの撮影は同時にTVド

マ撮影も兼ねていたせいか打ち上げが行われた。未希はサチの隣

の席トップモデルは高慢な女が多くサチも例に洩れず同じだと勝手

に思い込んでいたが他のトップモデルとは違って低姿勢で砕けてい

た。

 

「わたし、こういう打ち上げあまり参加しないんです」

「トップモデルなのに参加しないとマネージャーがいい顔し

 ないのではありませんか」

「こう見えて実は人見知りするの」

「マネージャーも知ってるから強く言わないのよ

「またか、ってな感じ」

「あは、、そうなんだ。御免なさい失礼な口きいて」

「え?気にしてないわ」

 

高圧的な態度に出られると思っていたサチだったが気さくで話しや

すかった。携帯でアドレス交換したら未希はついお気に入りのブロ

グがあると教えてしまった。

 

「最近見つけたんですけど面白いブログ見つけたんですよ」

「どんなブログ?」

「ブログなんだけど小説ばかりのブログで」

「最近になってサチって人がよくコメント入れるんです」

「えっ」

サチは動揺し突然小声で話すようになった。

「それってわたしの彼氏のブログじゃ?」

「じゃあ、あのサチってサチさん」

「名前変えないとまずいでしょ」

「普通変えるものなの」

「一般的にみんな変えてますね」

 

冷静を装う未希だったが顔色が変わっているのは隠せなかったよう

でサチにばれてしまった。さすがに作者の彼女がサチと知り未希に

はショックだったようで顔に現れたようだ。

恋する気持ちをサチに悟られたくなかった未希はサチの前から逃げ

たかったのでこの場をさることにした。

 

「ごめんなさい、飲みすぎたみたい帰るわ」

「一人で帰れる?送ろうか」

「大丈夫だから気にしないで」

 

今から1年前の18歳の時に話で幸男が25歳から戻ってきていない

時の話であり19歳になるとブログで数日間更新されないあったが

その間が25歳の幸男が19歳に戻った時だった、小説ばかり書い

いるので更新されなくても不思議じゃなく過去には数か月更新が

ない日もあった。

未希はいつものようにお気に入りのブログを見る、見ると今までス

ルーしていたサチのコメントが気になってどんなことが書いてある

のか読んでみると返信がひとつも書いてないことに気がついた。

毎日コメントを入れているのに返信が全くない未希はサチに同情を

感じ得ない。小説をいくつも読んだが作者は冷たい風には微塵も感

じ得ない、何か特別が理由があるのではないだろうか?だが未希は

今日もブログに上げられた小説を読む。

 

迎えた翌日金曜日は一週間ぶりに仕事が入った喜ばしい日、気分浮

き浮きで現場に向かう足取りも軽やかに歩道を歩けば普段は気にな

らない登校途中の学生、サインをねだる中学生にも礼儀よく応対す

るなどしっかり視界に刻む。

 

 

今日の現場はモデルが憧れるファッションショー、誰でも出場でき

るわけでもなく選考には制約があり2流モデルの未希がふつうなら

選考から落とされる。会場の空気が変わり緊張感が漂いはじめ挨拶

する声が聞こえ始め遠くから近くで聞こえはじめると挨拶を誰にし

ているのか理解できる、サチコが現れたせいだ。先日の打ち上げで

は砕けた人格を見せ今日は威圧的な風格を見せるトップモデルなら

ではの2面性を持つ。幸子は未希の前まで来ると歩みを止め体の向き

を90度回転させ未希の方を睨んだ。

 

「あなた、先日会いましたよね、挨拶はなしですか」

「え、いえ」

「無視ですか、そんなことではこの業界で生きていけませんよ」

「すみません、よろしくお願いします」

 

先日、機会が訪れ初めて会っただけで性格や思考などわからない、

飲み会の席で話しただけの間柄、ただ携帯のアドレス交換やライン

交換しただけの友人。未希はファッションショーが初めてだったの

で緊張のあまり口が開かなかった。”しまった”と思った時は手遅れ

でトップモデルのサチコから不適合の印を言い渡された。

引導を渡されたように感じた未希だった、実際帰ろうかとさえ思っ

たが芸能界でこういうことは何度もあると考え直しここで挫けたら

落ちるだけで這い上がるなんて出来やしない。

 

本番直前の今出来ることは限られている。今から歩く姿勢、ポーズ

を変えるのは出来やしない、ポージングは経験から長い間積み重ね

た成果でステージを歩く前にはこうしようと考えていても身体は忘

れないから頭と身体でズレが発生する。今やるべき事は腰の柔軟性

と身体全体のバランスを整えるだけにしようと考え等身大の鏡でチ

ェックする。

 

鏡台、化粧台が並ぶモデル専用の待合室で鏡の前で未希がチェック

していると壁越しから人の会話する声が聞こえてくる。その声には

聞き覚えがあった。

 

「サチさんの推薦だから採用したんだよ」

「何かモデルとして不満な点でも?」

「あの子ちょっと暗い、あれじゃステージを暗くしちゃう」

「わたしから言っておくからもうちょっと辛抱してください」

 

隣は確か会議室で入れるのはマネージャークラスだとしたらモデル

の選考に関わる人物とサチコが話していると考えた。

2流モデルの自分がステージに上がれるのはサチコの勧めがあった

おかげだと知ると胸が熱くなり感激した。1週間前は仕事がなく次

の予定も目処が立っておらず行く末は不安でしかなかった。

 

”サチさん有難うございます”

この恩はどう報えばいいかわからない、忘れないと未希は心に刻む

のだった。

 

19歳になり未希はサチコと出会って1年経った。1年間度々連絡

を取り合う間柄になりある秋の雨降る日、仕事から家に戻ると携帯

にサチコからの着信があったことを知る。あのファッションショー

に選ばれてからというもの仕事が引っ切り無しに入り未希は多忙を

極め着信があったことに今まで気がつかなかった。夜10時だが返

信しないのはやばいと感じて電話を掛けた。

 

「サチさん、わたし、何かあった?」

「彼からの返信コメントがやっと来たの」

 

ブログのコメントとは例の小説ブログのことで未希も見ているがサ

チに返信があったとは思えない。

 

「ほんとうに返信くれたの?わたしも見ているけどないよ」

「気づかないのも仕方ないよ、1年前になるもの」

「どうして返信してくれなかった理由は聞いた?」

「今まで記憶喪失だったんだって」

「うわっそれは大変だわ、記憶はまだ戻ってないんでしょ」

「うん、そうなの」

「ごめん、キャッチが入った、切るね」

 

彼が記憶喪失だったら仕事はできず付き添っていなければなら

ないだろうが記憶喪失では収入が無く働く必要があるのではな

いか以前両親の葬儀に出たと言っていたので彼ひとりきり、一

体どうするつもりなのだろう。

サチコは横浜の自宅を離れ彼の住まいがある神奈川県厚木市から

出勤し仕事が終わると戻る日課、未希が思うような暮らしではな

く幸男は買い物も出来るし料理も作れるから暮らしは一人でも平

気だった。18歳以前の記憶というよりは25歳で事故死する以前

の記憶を持っていたが収入がなく金銭だけはどうしようもなかっ

た。

久しぶりに未希はサチコと同じ現場になり待機時間に会話した。

 

「その後、彼の様子はいいのかしら」

「衣食住の記憶はあるから一人での生活には困らない」

「だけどわたしの事を思い出してくれないの」

「サッチャンと身体を重ねれば思い出すかも」

「えっそれって?」

「あはは冗談」

「いずれは紹介してね」

 

未希は冗談で言ったがサチコは本気だったようで赤面してしまいそ

の後の未希の発した言葉は耳に入っていなかったようだ。

 

それから数日たったある日、未希はオフで家でのんびり寛いでいる

と未希の住むマンションの部屋へサチコが突然訪問した。突然訪問

した理由(わけ)は買い物に同行(つきあって)欲しいと頼んでき

たのである。

 

「何を買いたいの?」

「・・・服だよ」

彼に服を買うのか彼に見せる服なのかどちらかだろう。

とりあえずブランド品の店に連れて行くと断られた。

「そこじゃ売ってないわ」

 

では紳士服の店へ連れていくがそこでも売っていないという。

そこでサチコに行きたい店があるのか尋ねてみると恥ずかしそうな

顔で未希は腕を引っ張られ連れて行かれる。

 

「ここって?」

ランジェリーショップとして有名な店だった。

こういう店は来たことが無く入ってみたいが勇気が出なかったらし

い。サチコは下着には無頓着だったせいもある。

 

「男性はどういう下着が好みか教えて欲しいの」

未希とて男性経験が豊富ではなく2,3人というところだった。そ

れでもTVやネットから多少の知識はあった。

「一押しは黒だわね、次は紫ピンクというのもいいけどね」

「レースを多用したデザインがお勧めかな」

「Tバックやスケスケのシースルーなどは見せ過ぎてNG」

「見せればセクシーかと思った」

「違うよ男は見せて隠している微妙なところに興奮するの」

 

サチコはショーツ全体をレースで作られた小さ目のショーツを持っ

未希に見せる、見えようで見えないレースマジックともいうべき

下着だった。

 

「そのショーツいいんじゃない?」

「そのショーツとお揃いのブラガ欲しいわね」

「ブラジャー選んでくる」

 

店員にフィッティングして貰うと今まで小さ目のブラジャーを使っ

ていたと反省したサチコだった。嬉しさのあまり未希に見てもらい

たくなったサチコは試着室から出ると店員に止められ怒られたのも

無理なくこの店はランジェリーショップと言っても恋人同伴で来て

いた客もいたからだ。

 

「わたしもサチさん同じ下着買っていい」

「いいけどゆきくんを誘惑しないでよ」

「しないわ」

 

ここで誘惑するかもよと言えばサチコも安堵できただろうがしない

わと完全否定したのでサチコは不安だった。同じ下着は勝負下着だ

ったのが理由で未希は内心ではサチコの彼に下着姿を見てもらいた

いと思っているとサチは考えた。

 

春の香りを感じさせたのかと思えば北の風を強く招き黒鉄色の山や

木々が枯れ茶褐色の肌を見せる山々を白化粧させる雪が舞う、それ

3月の禍々しさだ。大地を凍てつかせ白い悪魔を呼ぶ時風景は白

く化粧を施していく。その日サチコは実家へ所要があり戻ろうと思

っていた、仕事が終わると幸男のもとへ行くのは日課になっていた

ので経路は覚えた、道は良く通る道だがいつもと違っていたのは路

面が灰褐色に変わってから白い路面になった事だ。

 

雪の中車を走らせていると路肩に未希が立っているのがサチコには

見えた。

「あれ?未希ちゃん」

車を停止させると未希の姿はなく電柱が立っているだけだった。

「疲れているのかな」

 

翌日、昨晩は幸男に抱かれご満悦のサチコは朝日の眩しさに目が眩

みTVニュースから目をそらして再び睡魔に負けてしまう。

TVニュースでは昨晩モデルが凍死したと悲報を告げていたのだった

 

おわり

 

この物語はフィクションであり実在する人物、団体とは

いっさい関係ありません