[短編小説][創作]  格差社会の婚姻 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

男性ならいや女性にも裕福な相手との婚姻を夢見るものだ。取り

分け貧乏生活に馴染んできたものにとって夢をみるのではないだ

ろうか。一般的に裕福な家庭の親御さんは貧乏な一般家庭との

婚姻はしないし子供の結婚では反対する、家柄とか収入の低さ

など持ち出し結婚反対の正当な理由だと言い張り結婚を許さない

娘や息子の幸せを考えてというが実はそうではない、親として自

分達の面子、親類や知人などへの誇り、自己顕示欲からである

しかし世の中例外という者が存在するのも真実であり稀にいるの

が容姿や収入といったものは関心がなくあくまで人間性を重視し

婿や嫁を選ぶ親なのだ。長野県に住む40才の波島彰人なる人

物はいわゆる新婚で本人に結婚する気はなかったが相手の親か

ら熱烈なラブコールされ仕方なく結婚を了承した異色なプロポー

ズを受け結婚した前代未聞の結婚生活を送っている。

 

彰人は最近の日本人とは違い旧人類と思える風貌をし角ばった

顔からイケメンとは程遠い四角い顔、それに対し新妻の東条華憐

婚姻届けを出したので波島華憐となったのだが風貌は丸く小顔だ

が鶉の卵を連想させる。東条厳太郎、華憐の父とは登山で知り会

い滑落した登場を助けたのが縁で一緒に登山するようになった訳

で「娘にあってみないか」の一言から初対面となった。東条家は日

本でも屈指の財閥に入り歴史もある、そんな家はまさに邸宅と言

われるような城のような圧倒する建築物の本宅。夕食を誘われて

訊ねても今まで一度も娘には会った事がないし東条からも独身の

娘がいるなど聞いた事もない、玄関に入れば若い娘の痕跡となる

靴や傘で存在がわかるがそれも一切見当たらなかった。東条家

の下駄箱はクローゼットと呼ばれるものだが扉は透過できるガラス

製で一目で何が置いてあるか、どの靴がどこにあるか理解できる

奥方らしき靴も見えたが若いものが穿くような靴はなかった。

 

「失礼ながら娘さんがいるとは知りませんでした、おられるような兆

 候もなく履物もない、まるで隠しているように」

「申訳ない、確かにその通り。恥ずかしながら娘自身滅多に部屋か

 ら出てこないし電話さえも出ないんだよ」

「娘がどんな姿であっても笑わないでくれると約束してほしい」

「自分だって自慢できるような顔してませんよ」

 

丸く肥えた女性を想像していたが仮面をつけてはいるもののスラリ

としたスタイルは想定外でマスクから覗く瞳は美しく彰人は魅了さ

れたというのが第一印象だった。この時点で彰人は華憐に心奪わ

れたのかもしれない。終始無言で何も言わなかったのが初めて会

った日の事だった。2度目に会ったのは華憐の誕生日に東条から

誘われ初めて登場の妻、華憐の母に会い華憐が一言だけ話した

雪解けしたと思える日だった。波島は華憐の母香那江の目つきや

態度から好意を持たれてるとは思えない、それどころか敬遠され

ていると感じていたのは思い込みだけではないのが会話で判明し

たのは料理を取りにキッチンへ香那江が戻ってすぐの事だった。

 

「香那江おまえあの態度はないだろう」

「あの方をどういうつもりで誘ったのですか?貧乏くさい格好、とて

 もじゃないけど東条の家に相応しい人とは思えませんわ」

「だけどな華怜ちゃんは波島くんに会わせた時、逃げて行かなか

 ったし彼がいる間よそ見していたけどずっと隣で座ってたのは

 初めての事、少しは好意を抱いているんじゃないか」

「気の迷いでしょう、あなたがもしあの方を婿にしたいと考えてる

 ならわたしがあの娘の結婚相手を探してきますわ」

「おまえ以前言ってたよな、生涯私達が守ってあげますから結婚

 相手なんか見つからなくてもいいって」

 

以前男性を紹介しようとしても華憐は部屋から出た事は一度もな

い、何度紹介しようとしただろう。そして香那江は娘の結婚を諦め

生涯娘の面倒をみようと決意をした。夫婦が言い争いしている間

波島は華憐の部屋へ行きドアを叩いていた、華憐は誕生日の祝

いでも部屋から出るつもりはないようで年を重ねていくのを不幸に

思っていたからである。

「一目きみの顔をみせて貰えませんか?ぼくは決して笑わないし

 バカにしない、ほらぼくだってひどい顔をしてると思ったでしょ」

「ひと様の鑑賞に堪えられない顔とでも思っていますか、僕は耐え

 てみせる自信があります」

ドアのロックを回す音と共にゆっくりとドアは開き白い仮面をした華

憐が姿をみせた。顔を見せた瞬間、顔を横に振ったのは波島の言

った否定する波島の顔を取り消す華憐なりの返事だった。その後

部屋の電気を消した後、華憐は結ばれたマスクの紐を解かれると

知り驚きで悲鳴はあげるものの抵抗せず身動きしなかった為波島

に顔を見せ恥ずかしそうにするが小さな声で「ありがとう」と呟いた。

 

波島と華憐が内輪だけの結婚式をあげ同居をはじめて半年にな

華憐の鶉の卵のような顔のシミは半分に減り美白したような頬

現れ小顔で眼が大きい華憐の鱗を1枚づつ剥がしていくかのよ

うだ。全身にあったシミは上半身だけとなったのは波島の愛を受

け入れた結果かもしれない。結婚初夜から華憐の肌は変わり初

めその代償として波島の背中は傷が増えていった、傷をつけたの

は華憐である。

 

「波島くん、そろそろ里帰りしたいの、ダメ?」

「どうせならもうちょっと顔のシミをへらしてからの方がいいと思う」

「もう同じ波島なんだからさ、彰人とか彰人さんとか呼んで欲しい

 な。旦那様とか殿でもいいけどさ」

「だったら華憐と呼んで、華憐さんじゃ嫌よ」

「・・・と言う事は今晩あたりに交えると言う事だよね」

「嫌なのかい?」

「う・ふ・ふ、野戦するつもりでドンと来い」

 

誕生日に呼ばれて会った時は恥ずかしさや恥じらいで殆ど会話

出来なかった華憐だが結婚半年だというのに変われば変わるも

の、顔を含めた全身から青あざのようなシミが減り自分に自信が

持てるようになったとでも言うのだろうか、今まで隠して来た内面

を吐き出し現在では今まで溜め込んできたストレスをブチマケル。

初夜から5回目となる夜のお勤めともなると華憐は腰を振るのを

覚え夜伽は特技を習得したように華憐の得意技になりつつある

が自宅で箱入り娘と育てられたお嬢様はまだまだ一般常識を知

らない。今夜の為にトン汁を作ると告げる華憐に波島は不安し

かないのは好きに材料を買ってみよと華憐に行ったのも一因で

ある。

 

「なんで彰人さんも買い物かご持っているの」

「だってトン汁作った事ないだろう?ぼくが見本をみせてやる」

「か、かれん に本物のトン汁を食べさせてやるよ」

 

豚肉ばらを買う彰人に対し華憐はといえば豚肉ブロックを選び

トン汁野菜セットを選ぶ華憐、波島は野菜をそれぞれ単体で選

ぶ。トン汁は汁の味付けで変わるというのに華憐は味噌とコンソ

メしか買わない。TVのバラエティで料理を各々作る番組のよう

で面白いと波島は感じた。その波島はみりんとほんだしも忘れて

いない。どうせ買い物へ二人して来たので序でに下着を買う事と

なった。

 

「わたしが彰人さんのパンツを選んでくるね、だからわたしが穿く

 ショーツ選んできてね。ブラと一緒だからね」

「ぼく一人で・・・」

「買って来たら採点つけようよ、点数多かった方がお風呂で洗っ

 て貰える権利獲得ね」

「それじゃどっちが勝っても双方利得だろ」

「それもそうね、だったら勝った方は相手から下着をつけて貰える

 としよう」

「まぁいいか」

 

レジ袋の有料化に伴って平民はバッグなどを用意するのに対して

レジ袋を買わない波島に対し平気で買う華憐。用品店では単品で

買った下着と相反するまとめ買いした下着に波島から見れば納得

出来るものではない。格差のある生活それは小さなことでも起きる

コーヒーひとつにしてもインスタントやドリップで満足できる波島に

対しエスプレッソマシンのようにカップを入れるだけでいい最新コー

ヒーメーカー、豆を挽いてサイフォンで待つレギュラーコーヒーを味

を変えず簡単に飲めるというのは素晴らしい進化であるが金がか

かる。それでも些細な出費としか思わない華憐。初期出費しても維

持費が安いほうを選ぶのに対し維持費が高くても出費せずに済む

ほうを選ぶ低収入層の違いだろう。買い物や生活すべてに於いて

常識が違う、お互いに常識が違う場合お互いが相手を理解する必

要が有り、なければ永遠に平行線のままである。下着をお互いが

買ってきたものをチェックし点数をお互いがつけるそこで重要な要

素が価値観や一般常識、経験での履き心地といったものだ。

 

「こんな有名ブランドのパンツ穿いた事がない、80点だな」

「斬新なデザインね、色は平均的だけどブラジャーは付け心地が

 良さそうだから75点といったところかしら」

「うへへわたしの勝ね」

「なんで75点なんだよ、結構高かったんだ5千円もしたぜ」

「あらそう、ごめんねいつもつけてるのは2万円するのよ」

 

トン汁食べた後は風呂で華憐は彰人に背中を預け腰を突きだし

椅子に座った。頭を後ろに傾ければ髪の毛を洗ってくれるし腕を

横に延ばせば脇の下から丁寧に指先まで洗ってくれるし足を延

ばせば太ももから足先まで丁寧に洗ってくれるのに満足した。彰

人の作ったトン汁も美味しかった、まさに女王様気分だった。彰

人はコンソメだけの味付けと味噌で分厚い豚肉を煮ただけの料

理だったがトン汁とは違った和風というより洋風とも思える味に

服した。

「洗って貰ってばかりじゃ悪いよ、今度は洗ってあげる」

「悪いな、頼むよ」

「うひゃ~松茸みたい、食べてみたいな」

「いいけど歯を立てて噛みつくなよ」

風呂から上がり約束通り下着を穿かせるのはまるで着せ替え人

形みたいで面白い、柔らかな女肉を下着で引っ張るのも新鮮で

ブラジャーの中に柔らかく低反発な肉を詰め込むのは欲情する。

 

「良く出来ました、さぁいこうよ」

「サービスするよ」

そういうと彰人は華憐の細い両足を抱きあげて抱える。

「きゃ、なに」

「お姫様抱っこでベッドまで連れてってやるよ」

「なんか恥ずかしいな」

「やめるか?」

「ううん、このままで」

キスするとシミのあった左目は白桃のような頬へ変化した。肌を

合わせると今度は口元の黒ずむシミが消えていく。

「ねね、明日はいくのよね」

「はぁはぁ、だから今晩頑張っているんだろ」

「んぁあん、やめちゃいや」

「い、ててて、わかったから爪を刺すなよ」

「あん、だって、離そうとするんだもん」

 

夜の闇が深くなってきた深夜1時、口を大きく開けて華憐は果てた

荒く呼吸をする彰人も魂が抜けた抜け殻になる表情でいる。彰人

の腕を引っ張り華憐は腕枕しようと頭をのせて彰人に質問した。

「なんでエッチする度にシミが消えていくのかな」

「ふぅ、そんな事しらないよ、エッチじゃなくて愛情でじゃないか」

「こんなに気持ち良い愛情なら大歓迎、子供できたら全部消えるの

 かな」

「う~ん、わからないけど可能性はあるよ」

「でさ明日なんだけど、おい」

華憐の小さな鼻を指で抓んでみても華憐は反応なく腕枕したまま

寝てしまったようだ。

 

太陽が昇り朝日がカーテンの隙間から差し込む朝6時カラスの騒

ぐ声で彰人は眼を醒ますと下半身の芯棒に痛みを感じた。そこで

思いつくのが昨晩嵌めっぱなしで寝たのでないかということだ。TV

ドラマでもみたことがある結合分離不可能で救急車を呼び恥ずかしい想いをしなければならない。

「華憐、大変だ!抜けなくなったみたいだ」

「ん?なにが」

「何がって抜けなったら大変だよ病院で医師に見られるんだぞ」

「何焦ってるのよ、気が小さいのね」

「ふぁ~あ、仕方ない起きるか」

「ん、変だな締め付けがなくなったよ」

「だって握っていただけだもん」

「おまえ・・・握って寝ていたのか」

「握っているとよく眠れるのよ」

 

本気で救急車を呼ぼうとしていた彰人は拍子抜けした。夕べは

ワイン一本二人で開けたものだから華憐は二日酔いで頭が痛

い、今まで箱入り娘として育てられたから酒類は飲んだ事がな

い。24歳にもなる華憐は充分大人の女性であるが彰人が注い

でくれたグラスに入ったピンク色した飲み物は美味しかったのか

それとも華憐に合っていたのかはわからないが何杯飲んでも酔

う兆しは見せなかった。なぜ頭痛がするのかわからず二日酔い

とも気づかなかったので本人は睡眠が足りないと考えたようだ。

「おねがい、もうちょっと寝かせて」

「今日は実家へ行くんだろ」と手を引っ張るが布団を被ってしまう

「や~ん」

「仕方ない、あと30分だけだからな」

 

布団の奥から眼を光らせて覗く仕草はまるで猫だ。メス猫だと思

えば未だに直らない爪で引掻かれた傷が治らないのは爪には

毒があるからと考えれば納得できる。結婚して1年になろうとして

いるがこの1年いろんな事が二人には起きた。今住んでいるマン

ション選びだって簡単ではなかった、華憐のご両親から費用は出

すからと一戸建てに住めと言われたが彰人にもプライドがあり小

さくてもアパートに住もうと思っていた。だが新婚当時は外出も出

来ない新妻、宅配便が来ても受け取ることさえ儘ならない華憐の

ことを考えればアパート住まいには無理があった。セキュリティの

しっかりしたマンションの方が好都合と思えたのも致し方ない。近

頃では近所の人や商店街の人とも会話できるようになった華憐で

あるから今ならば何処にでも住めるだろう。掃除も出来ない、洗

濯も出来ないし料理が作れないから愛妻弁当は夢のまた夢でパン

さえ焼くことができず簡単な朝食でも彰人が作ったものでこれで結

婚生活を送っているのかと悩んだ事もある。東条家使用人のメイド

をマンション隣室に住ませ華憐の面倒を見るのには驚いたものだ。

一番の驚きは鶉の柄みたいな全身の痣、シミの原因は東条家で

働いていた英国人老婆が呪いをかけたせいだと聞いた時だった。

 

「彰人さん、誰かがきたみたい」

「誰だこんな朝早く」

「なんか見覚えある人、実家の運転手みたい」

「迎えに来なくてもいいのに」

 

車を持っていない彰人は電車で行こうと考えていたがそれでは多

くの視線がきになる、身体のシミが少なくなったとはいえ多くの目

から特異な視線で攻撃された経験から今でも人の目が気になって

しまうのだ。そこでタクシーを華憐は希望したが実家まで車では1

時間かかると高額に及ぶ料金から彰人は反対し夫婦間の会議は

物別れに終わり纏まらなかった。話合決裂のタイミングで現れると

手を差し伸ばされた気になるが素直に喜べないもので知っていな

がら知らない振りをする。

 

「何しに来たのかな」

「わからないけど緊急事態なら一緒に行かない訳には済まない」

「そうよね、行くしかないよね」

 

イボイボのヒキガエルがアマガエルのようにツルツルとなった時

見る物は言葉が出ずその場で立ち尽くすだろう、ましてアマガエ

ルではなくキュートな子猫だったら驚きはショックと変わる。鶉の

ヒナとしか見てなかった華憐が白い肌のフランス人形と思えた運

転手の瞳孔が開いた瞬間だった。

「華憐お嬢様なのですか、いやぁ見違えました」

「そうかな?」

「ご無沙汰してます運転手さん、今日はどんな要件で」

「旦那様からお迎えを申しつけられましたもので」

「では僕らが着替える間、コーヒーでも飲んでいてください」

彰人は華憐にコーヒーを入れるのを頼んだ。ブーゲンビリアの花

が刻まれた白い色のカップは琥珀色したコーヒーが注がれ浅葱

色したトレーに乗せ運転手の座る前に置いた。コーヒーの匂いが

運転手の鼻を擽るとそれがレギュラーコーヒーであるとわかる。

コーヒーを飲みながら運転手は感無量の想いで涙が流れてしま

った。

「あのお嬢様が・・・、長生きするもんじゃ」

 

車で1時間、あくまで高速道路を走っての所要時間で45分高速

で走り15分は一般道を走る。普通のセダンならば眠くなるだろう

しかしジャガーのリムジンは室内がサロンといっても過言ではなく

ワインバーや冷蔵庫も備え軽食程度なら食事も可能なので映画

を見ながらワインを飲むなんてことも出来る。映画をみれば1時

間などあっと言う間に経過するだろう、だが映画はみなかった。

 

「ねぇ彰人いつまで今の仕事続けるの」

「僕は町工場で車を弄るのが好きなんだ、会社を辞めるつもりは

 ないからな」

「父の会社へ入れば工場長にだってなれるのよ、父も喜ぶの」

「お義父さんの会社は大きいから福利厚生が整っている、高収入

 も約束されるだろうよ。だけどね夢がない」

「町工場で低いお給料でこき使われて夢がどこにあるの」

「そ、それは」

「あなたに父の会社、パパのお仕事を継いでくれとは言わないわ

 パパの会社へ入らなくてもいい、起業して夢を追いかけて欲しい

 生活が苦しくなっても支えてあげる」

「母のように売れない小説家になれってことか」

「でも夢を叶えて小説家を続けてられるわ」

「今のあなたは何?人が作った物を直しているだけじゃない」

「それの何が悪いんだ、これだって立派な仕事じゃないか」

「工場の社長さんならもっと大きくしようとか社員を楽にさせてあ

 げたいとか思うでしょ、それは夢なのよ」

「あなたにはそれがあると言うの?仕事じゃないのよ、心得よ」

「もうやめようこの話は」

 

二人で討論してる間にも車は実家である東条家2メートルほど

ある石門の前に到着した。石門にはカメラが備え付けられカメ

ラから出る赤外線で訪問者を確認する。本家所有のリムジン

はICチップが埋め込まれ登録してあるので門の開閉は車から

行えるし邸宅内からでのエンジン始動も可能である。またカメ

ラからの通信で応接間からモニターでリムジンに乗っているの

が誰か視認できる仕組みなのだ。

 

「香那江リムジンに乗っている女優さんは誰か知っているか」

「ぷっ、何言ってるの?華憐が来るって言ってたでしょ」

 

東条厳太郎が知る娘の華憐は物怖じする臆病な女子で画像で

みるような堂々とした態度ではないし丸みのある大きなサングラ

スや海外の王室妃が被るような大きなツバがある帽子はつけた

ことがない。厳太郎はあくまで運転手が芸能人を連れてきたとし

か思えなかったのだ。”パパ”と呼ばれても六本木で飲んだ時の

ホステスが一体何の用で来たのかと考えてしまった。妻の香那

江が今は来ないでくれとさえ願う程だった。

 

「あら御帰りなさい、二人とも早くあがって」

一瞬見違えるような娘を見て驚いたが流石は母ですぐに娘の華

憐だと気が付いたのである。

「ママおまえ知り会いなのか?」

「あっはは、何言ってるの愛する娘の華憐じゃないの」

「なんだと?華憐?そんな馬鹿な、シミがひとつもないぞ」

「彰人の深い愛のおかげかも」

 

厳太郎にとって彰人は親友であり義理の息子ながら実の息子に

近い存在であるから娘より年上な彰人を呼び捨てにする娘に腹

が立った。立腹する感情と娘の変化を見た驚愕が交差し言葉が

出ないがなぜか涙が眼を濡らした。感動したのは厳太郎だけで

はない。幼かった娘が学校で鶉と言われ学校から泣き乍ら帰っ

てきたのは一度や2度ではなく転校を繰り返したのは9年にも及

んだ、厳太郎は会社の経営者で引越しは出来る筈もなく母と娘

ふたりで何度も引越した時の想いが今思い出され結婚出来ずに

いつまでも家に居るだろう、その決意した日も思い出してしまうと

香那江の涙が枯れることはなかった。泣きながらも香那江は彩人

の両手を握り締められずにはいられなかった。香那江がはじめて

波島から彩人と呼んだ初めての日でもある。

 

「ありがとう」

「そんなにいつまでも泣いているな、そして私にも感謝しろよ」

「そうでしたパパ、わたくし間違っておりましたわ。家に彩人さんを

 お連れくださり感謝してます」

「あたし彩人をはじめてみた時、心が高鳴ったんだから今なんて

 一緒に寝ていると心臓が破裂するんじゃないかって」

「・・・あら夜はそんなに激しいの?」

「なんのことだ、ママ」

 

時たまに幸せは2重で訪れることがある。今はまだ知らない。

 

おわり

 

この物語はフィクションであり実在の人物

団体とは一切関係ありません

 

Produce by Mac844