[短編小説]故人、今を生きる | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

令和と言う時代、次々と進化する感染症に人類は追いつけず

ワクチン開発から撤退した日本は当初国民性のお陰だと何も

対策しないのに政府は喜び世界に誇った。愚直な日本人は国

を疑うことなく政府の告げる通り動けば問題が起こる事なく日

常通りの生活を送れると信じた。

 

わたしは齢(よわい)70年、世界大戦以後に生まれたがその

わたしでさえ70年も経ってしまった。そのわたしでさえ愚かな

決断をした政府によって苦しんだ家族、近所の優しかったおば

あさんを見続けて生きてきたから2度と一部の権力者によって

思うままに国を動かしてはならないと考え議員の一人になった

人の為に生き、困っている人を見捨てておけず強い力を持つ

物には断固反発したせいか党内でもはみ出す異端児と呼ば

れながらも政治に携わって40年。わたしなりに感染予防をし

どうすれば感染しないか自分で考えてここまできた。しかし今

はベッドの中にいる。39度と言う熱が出ると意識は薄れ人工

呼吸された。

”もうダメか”

意識を失う直前、かすかに自我が残る時に声が聞こえた。

”まだ早い、こっちに来るのはまだ早い”

夢の中、昭和に死んだやさしく微笑む母が白い手を小さな額

を撫でていた。母かすみが一度撫でるとその場所の景色が鮮

明となり畳が敷き詰めら布団がひかれた上にいるのは幼いわ

たし自身であることを知った。再びやさしく母が撫でると頭から

痛みが少しづつ消えていく気がする。まるで70才のわたしも

同化している錯覚を覚えた。3度目に母が手で撫でると重かっ

た瞼が開く気がし幼い自分は血色の良い顔に戻るのを見たら

瞼が動くのを感じた。

 

半開きの目で集中治療室の壁を見ると怪奇映画で見たような

黒い渦巻きが目に入る。一度瀬戸で見た黒い潮の流れが海底

へむかい集まって流れ込むようだ。安心感はなく恐怖心が勝る

ウズだが逃げれる状態にはなく何が現れても覚悟するしかない

例え死神が現れたとしてもわたしに反応できる力はない。

「うっ、うわっ」

渦からは髪の長いセーラー服を来た17歳くらいの若そうな女

の子、しかし今ではあまり見る事がない足首まで丈があるスカ

ートに懐かしさを覚える。

 

「し、死神ですか」

「いきなり悲鳴だすから驚くじゃねえか、いきなり死神とは

 失礼だろうが、まぁ夜叉と呼ぶ奴はいるけどな」

「で、おまえは誰なんだ?こんなハイカラな部屋初めて見たぜ」

「わたしは太郎という国会議員です」

最初は死神と考えたが血色のいい顔や足音、幽霊というより

人間の女の子に近いとわたしには思えた。夜叉と呼ばれた者

がいると聞いたこともある。

「かあさんの手伝いしてるところだったんだ、早く戻らねえといけ

 ねえんだ。かあさんは怒ると怖ええんだぜ」

話し方を聞くと現代というよりまるで昭和初期に近いものがある

幽霊でないなら時代移動、まるでタイムスリップしたみたいだ。

そういえば昭和に時代を越えて現れた江戸時代の妖怪を描いた

漫画があったのを思い出した。

 

「今は西暦2022年なんですよ」

「おまえふざけているのか、騙そうとしてるだろ。おれの弟は19

 50年昭和25年の去年生まれたばかりなんだ」

自分と同じ誕生日の弟がいると知りじぶんは幼い頃姉によく可

愛がられたと母から聞いた事があるのでまさかとは思ったが訊

ねてみる。

「ひょっとしたらきみは偲(しのぶ)さんて名前ですか」

「おお、良く知ってるじゃねえか」

人と同じ格好では納得出来ない生徒は制服の基礎に変わりは

ないものの時代の流れと共に変わりそれは制服だけに留まる

ものではない。金髪、多彩なカラーのスカーフ、上着に特攻服な

どは近年かもしれない。アクセサリーなどの小物さえない布地も

数少ない時代では針と糸で改造するのが初期の手法だった。セ

ーラーの縫製も粗末なものだったので現代とは明らかに違う。

 

現代からすれば薄汚い女子高生が集中治療室に忍び込んでい

る、まして感染によって重体患者の傍。様子を見に来る医師看

護師さえ全身覆いつくす完全防備だから普段着のまま何も防御

しない女子高生に驚くのは当然のことだ。例え集中治療室で意

識なかった患者が起き上がったとしても感染の疑いがある以上

病院から退出させるのは病院として感染拡大防止する責任から

検査をするまで不可能、議員として太郎も理解していた。マスク

さえしていない女子高生が病院内をうろつき回っているとしたら

大騒ぎになるもので警備さえ動員された。と言っても濃厚接触者

として疑いがあるわけでもなく何かの容疑があるのでもなく犯罪

者でもないから指名手配する必要もなく病院内から存在さえい

なくなれば病院には日常が戻ってくるわけだ。

 

太郎が病院から療養施設まで転移し検査から2週間経ち陰性で

あると確定されたおかげでやっと自宅へ戻れる日がやってきた。

「先生お迎えにあがりました」

秘書しながら運転手もする40代の男は太郎に仕え15年になる

佐々木という。政党の幹事長から指示されたのであろう。いつも

なら無言で車に乗り込んだろう、しかし今日は違う。

「迎えに来てくれて申訳ないが今日は歩いていくよ」

「先生それは困ります、政党本部で記者達を待たせております」

「ああ、病院を騒がせた件だな。わたしには落ち度がなく無関係

 だからと帰って貰いなさい。直ったばかりなんで移されるのは

 勘弁して頂きたいものだ」

「政党には明日にでも行くとしよう、今は休ませてくれ」

「お身体を休ませたいということですね。承知いたします」

 

わたしは療養していたビジネスホテルを出ると国道に沿う歩道

を歩き人がこない総合公園の中を歩みはじめた。病院で遭遇し

たのは数少ない親族の一人、年が離れているせいで直接話した

記憶はない懐かしい姉。その姉も50年前のスペイン風邪が流

行した際に感染者のレッテルを身勝手に貼りつけられて母や他

の兄達と共に河原で焼却されてしまったのである。まだ20歳に

もならない太郎を逃がしたのは他ならぬ長女の偲だった。この件

が太郎を政治家にさせる事にもなった。太郎は偲ともう一度会っ

て話さなければならないの潜んでいそうなこの公園へ寄った。

「確かここには80年以上生き続けているケヤキがあった」

だが近頃はこの公園に来たことはないのでケヤキが植わってい

る場所を忘れてしまい弱りくる足腰で探し回っているがなかなか

見つけることが出来ない。

 

「じいさんまた会えたな」

ヒノキの太い枝の上で頬を膨らませてカミソリのような目つきで

睨みながら肉まんを食べている一風変わった女子高生がいる。

「ふぅやっといたね、偲さん。」

「偲さんの一番下の弟太郎だよ、って言ったら信じるかな」

「ヴぁッは、ハ。笑わせるじゃねえかじいさん」

木の上にいる場所から噴き出したせいで肉まんの崩れた具材

が太郎の額に落ちてしまった。手で拭きとると肉まんの油分で

太郎の左手はギラギラと光る。

「まったく汚いな偲さんは」

「わりいな、じいさん、しのぶでいいぜ」

 

わたしは多分信じて貰えないと思っていたが一応正直に話して

みた。案の定馬鹿にしてきたので手法を変えることにした。

「わたしはお母さまに昔世話になった知人ですから偲さんの

 事は聞いた覚えがあるんですよ、世話になった身としては

 今度恩返しするため力になりたいと思いましてね」

「そうだったのか、だったら世話になってやるぜ」

 

いずれはどこかの掲示物やテレビ、新聞で今の年代を知る事

になるだろうし当時から数十年と経過しているのであれば老人

となったわたしも正直に話さなければすまない時がくるだろう。

だがお互い初対面ではとりあえず相手に信用させ心を開かせ

る必要があり嘘で固めた信用かもしれないが今は、次のステ

ップである親族の証を見せる為にも必要な信用なのだ。

 

つづく

 

この物語はフィクションであり実在する人物

団体には一切関係ありません