[短編小説] 御掃除屋、人はCLEANERと呼ぶ | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

 

掃除それは次に使う為に行う行為であるが人によっては今日は

有難うと感謝するのが掃除、毎回掃除しなくてもいいだろうと言う

人もいるが実は掃除には公に知られていない効果がある、それ

は浄化である。

 

「後片付けはおれがやるから早く学校行って来い」

「いいよ、まだ時間があるから」

「おれはな、ゆっくり食べたいんだ。横でガチャガチャ煩くされると

 消化が悪い。おまえみたいなくそガキは早く学校行けばいいん

 だ。」

「ふん、そうですか?行ってきますよ」

「気をつけてな」

制服を着た女の子が流しで皿や茶わんを洗おうとしていると40

過ぎの男が罵声を飛ばして拒否をする、娘一人父一人の家族

にとっては当たり前の日常会話なのだ。娘を送りだした男、戸

川浪漫43才妻に先立たれ男手ひとりで娘を養っている。作業

着に着替えた戸川の仕事は請負清掃業、一般の清掃から業者

が嫌がる事件現場、自殺のあった部屋などの特殊清掃もこなす

会社登録はしてあるものの従業員は己ひとりだけ、今日も愛車

Peugeot VAN 1980年式に清掃道具を積み込みアパートを後

にした。

 

女子高生の娘、歩美が通うのは私立鎌倉女子学園大付属高校

お嬢様の多い学園の中、アパート暮らしは同組のなかで歩美だ

け同級生は貧乏な歩美を思いやり何かと気遣ってくれる。身長

169センチの歩美は読者モデルも経験した美少女、当人には

貧乏という自覚はなく無駄な出費を出来るだけしない倹約好き

お嬢様学校の中で弁当持参し休憩には持参した魔法瓶のお茶

ほとんどの生徒が食堂を利用しているので貧乏と思われるのも

仕方ない事かもしれない。

 

お嬢様達ばかりのクラスで唯一の一般人歩美、親が金持ちなだ

けの勘違い2世はこのクラスにもいる、歩美に嫌がらせをするの

を生き甲斐としている松下由紀子である。取り巻きを引き連れ今

日も歩美の持参した弁当を馬鹿にするため近寄ってきた。

「みなさん見てみなさい、お弁当を持ってくるのはいいですがあの

 お弁当箱は何ですか?」

「由紀子さん、あれはパッカーというものでお弁当箱じゃありませ

 んわ」

「オーホッホ、お弁当箱も買えないなんてお可哀想」

「余計なお世話、早く食堂へ行けばいいじゃない」

「あら御免なさい、私今日はお弁当ですの、庶民の気持ちを知り

 なさいとお父様から申され仕方なく」

「あらそう?それは御苦労様なことで。」

歩美は父親が作ってくれた弁当を誇りに思っている、容器は歩美

の弁当を作るため多忙というのに暇をみつけわざわざ買ってきて

くれたものだった、今歩美は切れそうになっていた。

「このクラスに戸川さんとおっしゃる方がいるそうですがどなたで

 しょうか?」

突然教室の戸を開け入って来たのは誰もが憧れ平伏す美貌と形

容するのが最も相応しいと評判の生徒会長、前田松代である。

前田のまつといえば前田利家の妻、歴史的にも妻の鑑と名高い

女性。そのまつと言う字を前田家史上唯一許されたのが才女松

代、前田松代は前田家現後継者の長女でもある。

「わたしに何か御用ですか」

「あなたが戸川さまのご息女歩美さんですか、はじ・」

「松代様このような下層平民に貴方様が言葉をかけると御尊厳が

 失墜されると思われます」

「あなたには要はございません、黙っていて貰えると嬉しいのです

 が」

「も、申訳ございません」

生徒会長前田からいなされ松下由紀子は取り巻き達と離れていっ

た。経済界では前田のグループには逆らうなとの暗黙のルールが

ありそれは娘、息子たちにも厳守しなければならない。

「今晩、当家のディナーにお父様と共に夕餉にお誘いしたいので

 すがご予定は如何でしょう」

「親父もですか」

「ええ、うちの両親も是非にと」

「親父の予定を聞いてみないとわかりません、聞いてからお返事

 しても構いませんか」

「はい、良いお返事をお待ちしております」

 

午後1時、トイレに入った歩美はスマホの電話帳から”親父”の文

字を探し出し電話を掛けている。6回コールの後、相手は電話に

出た。

「もしもし毎度ありがとうございます掃除屋戸田です」

「あ、わたし」

「なんだくそガキか、仕事中は電話してくるなと言ってるじゃねえ

 か!なんの用だ」

「仕事ってどうせご飯食べてるんだよね」

「うっ、・・・」

「あたりだね」

戸川の昼休みはいつも同じ時間に取れず毎回時間帯が異なる

今日は午後1時に和食堂を訪れ今は料理の出来上がり待ち、戸

川は食事は静かにそして一生懸命食べることをポリシーとしてお

り一度(ひとたび)食べ始めるとお茶を飲み終わるまでは顧客だ

ろうと電話には一切出ない。ところが娘の歩美はどういう訳か必

ず戸川の昼時、11時だろうが午後4時だろうが電話をする。しか

も食べる前に電話をしてくる。

 

「何の用だか知らねぇけど注文しているシラス丼定食が出来る前

 までなら話し相手になってやる、割り箸割ったら即切るからな」

「うん、それでいいよ」

「実はね、今晩前田家のディナーに親父と同伴でお呼ばれしてる

 んだけど予定開いてるかな」

「あん?何言ってるんだてめえは、俺は近親そうかんはしないぜ」

「はぁ・・?」

「おまえと同伴喫茶行く誘いだろ」

「誰が同伴喫茶へ連れてけと言った、ディーナーへ同行の勧誘よ」

”前田家ってあの前田家か、なぜおれを知っている”

戸川浪漫は冗談を飛ばしながら思考を巡らせている、戸川は表の

仕事は掃除屋だが公にしていない仕事もこなす。世間で言うとこ

ろの浄霊師である。裏の仕事は海外からも要請があり国内では

殆どが霊能者から浄霊の依頼で一般人から知られる事は無い。

人は彼を”CLEANAER”と呼ぶ。

「飯食ったらドイツへ飛ばなきゃいかん」

「そう、無理ならいいんだ」

「・・・」

「おまえディナーに行きたいのか」

「前田生徒会長から直々のお誘いだから」

電話越しに聞こえる娘の残念そうな声は浪漫にも理解出来る。

多分生徒会長の顔を潰してしまうのは歩美の立場を悪くする事

になるだろう、浪漫にも予測は出来たが今回の依頼は娘の歩美

と同世代の少女を救う、それも状況は深刻で時間の猶予はあま

りないのだ。

「いいぜ、午後の予定はキャンセルだ。今から帰宅するからてめ

 えも生徒会長さんに連絡しな」

「え?いいの」

「てめえとの所用が終わってから仕事に行くとしようじゃねえか」

「あ、あり・がとう親父」

電話を切ったロマンの目前にはシラス定食から湯気が消滅して

いる。

「ちくしょう、冷えちまったじゃねえか」

戸川は仕方なく冷めたシラス丼を口に押し込んだ。

 

帰宅したロマンと歩美の親子は家じゅうの家具を引掻きまわして

いた。正式なディナーの誘いに対し着ていく服が見当たらない。

「親父まさかその格好で行くの」

「当たり前じゃねえか、これがおれの正装だしな」

薄い空色した前開きの作業服、しかも社名の刺繍入り、洗濯した

てというのが救いではあったが作業服は作業服でしかない。

「つうかてめえこそまさか学校の制服で行くんじゃねぇよな」

「だってわたしあまり服を買ったことがないもの」

”かぁさんが生きていたら泣くよ”

”詩織ちゃんがいたら哀しむな”

はじめて意見が合った二人が次にしたのは衣類の探索、それが

今の状況である。突然思い立ったように走りだした浪漫、持って

きたのは亡き妻の形見である緑いろした着物。しかし相手の家

に合う合わない以前に着つけなどしたことがない歩美そして父

浪漫だった。

「今から店に買いにいくか」

「店ってファッションセンター○○じゃ売ってないよ、せめてモール

 まで行かないダメだよ」

諦め半分で浪漫が歩美に見せたのは黒い礼服のドレスだった。

「まだ2,3回しか着てないらしいけど詩織ちゃんの服だ」

背中のタグを見て歩美は驚いてみせた。

「うわっ、これシャネルのドレスじゃない」

「わたしこれにする」

「親父も礼服じゃ葬儀に行くように見えるから礼服はだめ」

「う~ん、だったらこれはどうだ」

持ってきたのはどこでも売っているようなベージュのジャケット。

勿論スラックスなど持っていない浪漫はズボンにジーンズを選ぶ

「まぁいいか、それしかないんじゃ仕方ない」

運転席に座るプジョーのバンへ近づくと話し声が聞こえた歩美は

物陰に隠れしばらく傍観してみることにした。

「Dah,・・・・・・・・・・Lieh・・・・」

どうやらドイツ語のようだが何を話しているかはわからない、けれ

ど歩美は電話越しに謝っているのだけはわかる。今まで約束を破

った事がなく誰を相手にしても謝った姿など見た事がない父親。

そんな父親が目の前で謝っている、原因を作ったのはわたしだと

歩美は感じた。

「どうした?早く乗れ」

「ううん、なんでもない」

「親父、この車って軽自動車っていうんだよね」

「ああ憩自動車だ、それがどうした?」

「友達にいったら卑下するように馬鹿にしたんだよね」

「なんだと?休憩できる便利な車が憩自動車だというのにか」

歩美は友人から軽自動車は安くて小さいと聞き今目の前に見る

親父の車とズレがあるように思っている。小さいというよりどちら

といえば大きい部類にはいると思えた。

 

歩美は鉄筋コンクリートの大きな家を想像していたが住所から

調べてみるがそのような外観の家は無く閑静な住宅街を何回も

回ってみるが見当たらない、車を停車させた前には瓦屋根の大

きな純和風の家があるだけだ。

「でかい家だなまるで寺院仏閣みたいな家だな」

「この家じゃないだろうな」

「絶対違う、和洋兼ね揃えた現代風の豪邸だよ」

「ほうそうなんだ」

浪漫はてっきり娘歩美が前田家を知っていると考えている。

「おまえ前田さんの携帯番号知らないのか」

「あそういえば聞きそびれた」

「仕方ねぇから帰るか」

「ちょっと待ってよ、わからなかったから帰ったなんて言える訳

 ないでしょ」

「じゃどうするんだ、ここで野宿でもしろってのか」

家の塀に背を持たれ考え込んでいる歩美の頭を叩いた人物が

いる、瞳を開けて確認すると父浪漫が何度も歩美の頭を叩いて

いた。

 

「おいクソガキ、この家も前田っていうらしいぞ。ちょっと表札見

 て来たんだが前田って書いてあったがここじゃないのか」

「何言ってるんだ親父、違う前田さんだろうよ」

前田家といえば加賀100万石、であるならば分家が多くても当然

あくまで歩美は目的の家がここではないと言い張った。

すると騒がしかったのか門が突然開き中年の女性が姿を見せた

「前田家に何か御用でしょうか」

「すみません、ぼくら戸川と申しますがどうやら迷ったみたいで」

「戸川様ですかもしかして本日来られる約束の戸川様ですか

 少々お待ち頂けますかお嬢様をお呼び致します」

そう言い残して家の中へ戻る女性、納得出来ないのは浪漫だ。

「おい!これは一体どういう事だ」

「ハイお父様、これはとはなんの事でしょうか」

「おまえ前田家を知っているんじゃなかったのか?だったら来た事

 あるんだよな」

「あはは何を寝ぼけた事を言いなさる、前田生徒会長の邸宅にわ

 たしのような卑しい身分のものが来た事ある筈ない、ちょっと考

 えてみればわかるではありませんか」

「おまえって娘は・・・そういうのを思い込みって言うんだ、わかる

 か、クソガキ」

「あ=~うっさい、うっさい、ウザいんだよ親父」

先刻から一生懸命呼びかけている先程の女性、二人の諍いを目

にやめて貰おうとするが声が小さく二人には聞こえていない。ど

うにもならない親子喧嘩に女性は困り果て松代に視線を送ると

業を煮やした前田松代は家のセキュリティを使用しサイレン

を鳴らすと同時にサーチライトを点灯させた。すぐそばで大音量の

サイレンが響き驚いたのは戸川父娘だ。

「あら御済みになられましたか、仲がよろしいのですね」

「申訳ございません」

「今門を開けますので車を中までお入れください」

今まで暗くて気づかなかったが女性はメイド服を着ておりメイドと

思われる。

 

邸宅の明るい照明が照らし出した浪漫の車に松代が歩み寄ると

口元を緩ませ車を査定するかのように見つめている。

「生徒会長、この軽自動車がどうかされました」

「歩美さんこの車は軽自動車ではございませんよ、プジョーという

 フランスの名車ですのよ」

”騙したなくそ親父”

というか軽自動車以前に古い国産車だと思っていた歩美だった。

歩美が父浪漫を睨むと視線を合わせないようにしている。

母が他界するまで山梨県で暮らしていたがなぜうちの車と同じ車

種がいないのか疑問に思っていたがフランス車ならばと納得した

外国製の商用車を好き好んで購入する変わりものは少ないのだ。

「さぁ父が待っているので家へお入りくださいませ」

”親父、こういう場合招待されたからって手ぶらはまずいんじゃな

 いの?”

”しまったすっかり買うのを忘れていた”

「お二人が来て頂けるだけで他には何もいりませんわ」

広い玄関で靴を脱ぎ低く広い上り段を3段上れば廊下、高い天井

は太い角材が張り巡る純然たる和式建築、武家屋敷の様相を見

せる。質の良い板材、角材が高い技術力によって組み合わされ

一見の価値がある家となっている。奥の居間まで案内される。

畳12畳の広い居間の奥には厚い座布団に座る当主夫妻から

含みない笑顔で歓迎を受けその後浪漫は夫妻と書斎へ歩美は

松代に同行し応接室へ通された。

「ますは一献、これは加賀舞と申しまして他では手に入らない

 逸品、お気に召すと思います」

装飾が施された透明のガラス製酒器で注がれた熱燗を味わい

ながら飲むとの喉に吸い込まれるような飲みごたえに感嘆。

「うまい、これほどの酒が北陸にあるとは知りませんでした」

酒の肴をつまみながら当主は要件を話しだした。

「本日招いたのは御掃除屋である戸川さんに是非お願いしたい

 案件がありまして引き受けて頂きたい」

「どのような案件ですかな」

当主が言うにはグループ傘下の従業員が自殺し特殊清掃を依頼

したいとのことだった。だが戸川は当主の言葉に疑問を感じた。

前田家当主、グループ企業の総裁その彼が傘下従業員に関する

事を総裁自ら依頼すること自体変な話で本来ならグループ傘下の

自殺した従業員の上司が依頼するべき事象である。

「前田さん、遠まわしに言うのはやめて貰えませんか、あなたは

 わたしがCLEANERと呼ばれているのをご存知な筈だ」

「申訳ない、確かに戸川さんがCLEANERと呼ばれているのを知人

 を通し知っております。ですが直接交渉は受けないとのこと」

「確かにその通りでいくら積まれても受けておりません」

「受ける受けないは別にして状況だけをお聞かせください、お聞き

 して自分が納得できれば引き受ける場合もあります」

「引き受けてくださらない場合もあるということですね」

夫妻は互いに目くばせし意見が纏まったように語りだした。

心無い者達が自分達の名声を欲しあろうことか織田信長の妹の

娘茶々姫を降臨させるという愚行をし豊臣秀吉に恨みを持った姫

は豊臣の家臣である前田一門に呪いを掛けた。そして前田家長

女が成人を迎える日命を断つというものだった。前田家長女とは

即ち先程の生徒会長松代の事である。

「お話はわかりました、ですが今晩ドイツへ立たねばならず帰国

 してからの返答でよろしいか?」

「それでも構いません、よろしくお願いします」

気品漂う奥方は戸川にそう答える。娘歩美はどうしているかとい

えば当初フランス料理が食べられると期待していたが出された

日本料理に落胆した、が一旦口に運ぶと美味な料理に感激して

現在は食後の英国製紅茶に陶酔していた。こうして父と娘それ

ぞれ違った晩餐を過ごした夜であった。

 

この物語はフィクションであり実在の

人物団体には一切関係ありません