わたしの家はトイレに行く際、風呂場の脇を通らねばならない
カーテンで仕切っているのではなく刷ガラスのサッシが嵌めら
れているので誰かが風呂に入ってるとわかるのだ。
雨がトタン屋根を叩く音がする深夜、部屋のタイマーを見ると
午前2時08分を表示している。4月に入ったというのに今晩は
寒く布団から出るのが辛い、我慢に我慢を重ねもうわたしのダ
ムは決壊寸前にまで陥っている。このままではシーツに太陽系
の星座を描き兼ねないと思ったわたしは清水の舞台から飛び
降りる決意を持ってベッドの布団から抜け出てトイレに向かう。
トイレに近づくと雨水の垂れる音がしている。トイレの外には雨
水を溜め農業用水に使う100リッターのタンクがあり例え屋根
に雨水が叩く音がしなくても雨が落ちる音がし雨が降っている
か判断できるのだ。
”ピトン、ピトン”
雨が降っている、先程より雨足は弱まったようで屋根から音は
消えた。しかし夜の静寂に包まれた家の中で異なる水の音がし
ていることに気が付いた”ピチャ、ピチャっ”
チラリと風呂の刷ガラスを見ると照明が消えた暗い浴室、浴槽に
は黒い影が動いている気がした。両親はずっと前に風呂へ入り
今は寝ている筈だしわたしの他には雌猫がいるだけなので誰も
入っている筈がない。一旦部屋の方へ戻ってみるが我慢は限界
に達していた、いますぐトイレに駆け込まないと便器に達する前
に放尿してしまう事に成りかねない。わたしの鼓動は小刻みに
早く鳴っているようで耳には心臓の音が聞こえている。完全に
無視すればいい、自分にそう言い聞かせてみたが誰が風呂に
入っているか気になるもの。わたしは震える手で風呂場のサッシ
をゆっくりと動かしてみるとまずどかされた樹脂製の風呂ブタが見
える、もうすこし動かしてみると浴槽に浸かっている女の顔、その
血走った瞳がこちらを見ているのに驚いて叫んだ。
「うわぁあ~」
「ひゃあ~~」
わたしが叫び声をあげると風呂場の霊体も同じように叫んでいる
これは予想外だった。
「早く閉めて」
「なんだ口裂けちゃんだったのか、ごめん今すぐ閉めるよ」
わたしの家には口裂け女が居候しておりたまに実体化するのだ
普段は霊体なので見えないが実体化すると隅々まで見えてしま
う。実体化するのは無意識のようなので自分の想い通りにはな
らないそうだ。
おわり
この物語はフィクションであり実在する人物団体
には一切関係ありません