誰もが羨む結婚とわたしは周囲から言われ祝福され佐知子と今、
秦野市戸川の丹沢に近い郊外の1軒屋に20歳の若妻と結婚生
活を送っている。世間でいうところの大手家電メーカーCEO息女
だった佐知子は”わたしはお嬢様じゃないよ”と自分では言うが
そんな事はない、上品な着こなしと薄めのメイクに小顔に美しい
髪、スラリとしたスタイルなどまるで電車男のエルメスを思わせる
ような容姿。見た目は十分過ぎる容姿に一流大学卒業が妥当と
思えるキレル頭脳など結婚相手としては申し分ない女性だと外部
の人は言うが人間としては必要なものがまるで備わっていない。
料理を作れないのは結婚前から知っていたから新婚生活を送る
のに何も不便は感じていない、自分が作ればいいと思っていた。
「佐知子、悪いんだけど三角コーナー用のネット買ってきてくれな
いかな」
「一袋あればいいよね」
「何枚入りでもいいよ、今度買いに行くから」
本心としてはまとめて買ってきて貰いたかったが以前それで失敗
したことがある。わたしがパンツがないからと佐知子が買いに行っ
てくれた訳だが買ってきたのはブリーフ30枚、わたしはトランクス
しか穿かないのにブリーフ、それも常識知らずの30枚。適度、適
切というものがまるで理解していないのだ。以後わたしは彼女に
余分に買わなくていいからと言ったのである。
「まとめて買った方が交通費の節約になるじゃない」とは彼女の弁
”あんたいつも自転車で行っているじゃないか”
とは思ったがここは反論せずに家は狭いから余分なものを収納す
るスペースがないと彼女を諭したら意外と簡単に理解してくれた。
ガソリンなどの燃料こそ自転車では使わないものの、佐知子の体
力即ちエネルギーは確かに消費するとわたしは考えた。
「ただいま」
「お疲れさん」
佐知子がレジ袋から取り出した生ごみ用のネットを見てわたしは
不安を覚えた、それは白いネットでストッキングタイプというもの。
わたしがいつも使っているのは青い網のタイプだった。
さて三角コーナーに装着してみようとするとどうやってもつかない、
包装の袋を見てみると”排水口用”と表記がしてある。
生ごみ用のネット、実は種類が意外と多く排水口用と三角コーナー
用そして兼用タイプさらに素材で数種類あるのだ。世間知らずの佐
知子には厳しい買い物だったのかもしれない。
「あの佐知子さん、つかないんだけど。それにいつも使っているの
と色が違うよね」
「たまには違ったものを使うのもいいかもしれないと考えたけど、そ
れじゃ3角ちゃんの体形に合わなかったのね」
「今日はこれで代用するからいいよ」
「優しい旦那様で良かった、わたしは幸せ者だわ」
妻の佐知子に褒められても喜ぶ気分ではなかった、切れそうにな
る自分を抑え込むのにわたしは必死で堪えていたのだ。
キッチンの隅には不必要に多いキッチンハイターと洗濯用ハイター
の段ボールが置かれている。佐知子の仕業である。
佐知子は記憶力がいい、2度同じ過ちをしない。
と結婚前は理想に燃えていたわたしはそう思っていたが現実は違
っていた。どんなに性能が良い記憶領域であっても入力しなければ
データに残らない、いかに頭脳明晰だとしても覚えるというやる気が
佐知子にはないのだ。だがわたしとしては同じ間違いをしてほしくは
ない、そこで考えたのが張り紙で商品名と用途を書き込んでいる。
すでに張り紙は至る所に貼りつけられた。
午後9時のこと、わたしは今パソコンデスクでオフィスソフトWORDを
遣い日記をつけている。元来日記をつけるような人間ではなく日記
を書くようになったのは結婚してから事。覚える気力がない佐知子
対策なのだ。日記を書きながら”幸せな結婚生活”とは自問自答を
わたしはしている。
そういえば佐知子のご両親に初めて会った時に義父から言われた
「娘を変えてくれると期待している」
そういわれた事に当時は疑問を感じたが今ならわかる気がした。
おわり
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません