[短編小説][創作] 新妻の愛車 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

仕事中に妹千尋が鬼気迫る声で電話をしてきた。

「お兄ちゃん、大変だよ松子さんの車が大きすぎて買い物に行け

 ないの。」

「何を大袈裟に言ってるんだよ、フェラーリかランボルギーニだろ」

「・・・そういう感じではないと思うよ」

 

松子とは僕がお見合いして結婚した奧さんである。見合いの席で

大きな車だから駐車できるかなとご両親は心配していたので僕は

農家だから駐車スペースは一杯あるからと答えた訳だ。まぁ欧州

の高級スポーツカーであっても4tトラック程大きくはないからと思

ったのだ。

 

「兎に角、なるべく早く帰ってきた方がいいと思うよ、黒くてデカい

 から近所の人も集まって来ちゃっている」

「田舎者ばかりなんで高級車なんか初めて見るから物珍しさに来

 ただけだろ」

「そうじゃないと思うんだけどな」

「心配なら仕事を早く切り上げて帰るからあんまり心配するな」

 

僕は上司に早退の許可を貰い帰宅、家を目指し車の中で妹の外

車じゃなくて国産と云われ欧州車ではないのかと考えていた。

まぁ国産でも米国生産のダコマというピックアップもある、また妹は

あまり車に詳しくはないので国産と勘違いしている可能性もある。

そう言えば見合いの席で義母は家元をしており娘にも家芸を習わ

せていると言ってたのを思い出した。僕はてっきり生け花、日本舞

踊の類だと勝手に想像したがその習い事を当人達から聞いてい

ない。

 

帰宅してみると家の門を破壊し黒い塊が挟まっているのが見えた。

トラクターでも門から出入りできるというのにその塊は遥かに大きく

流線形の上部には長くそそり立つ巨昆を有していた。

「なんじゃこりゃ・・・」

僕の考えはとてつもなく甘かった、エンジンの音は低周波のディー

ゼルでもなくガソリンのものでもない、高周波のジェットエンジンみ

たいな耳に響く音をだしている。タイヤはなく鉄のベルトコンベアに

見えるものが回転していた、まさにキャタピラであった。松子は車内

から僕が見えたのか黒く角ばった車体から頭を出し泣きそうな顔で

わたしを見つめる。

 

「松子、それが君の愛車なのか」

「せっかくトラックで運んで貰ったのに家に入る事が出来ないんです」

狭い裏道に重機運搬用のトレーラーが入ったというのかと驚いた。

「どこの世界に戦車で嫁ぐ嫁がいるんだ」

「だって大きくても問題ないって言ったじゃない」

「・・・」

そこに妹の千尋が小走りでやってきて自慢気に言った。

「お兄ちゃんだから言ったでしょ大変だって、国産だよねそれ」

「あ・ああ一応国産、100式戦車じゃねえか」

「近所の人になんて言うの?これ」

「まさか花嫁道具に戦車を持ってきたとは言えないだろ?もうじき

 稲刈りだからイセキ農機具から新発売されたコンバインとでも

 言っておくか」

自分でも無理な話というのは理解していた、ガスタービンのコンバ

インなど信じる人がいる筈がない。でも僕はそう説明した。

 

泣きべそをかいている嫁の松子に僕は聞きたい事があり松子に

訊ねてみた。

「松子、君の家の家業って何」

「・・・戦車道という花嫁修業の一環です」

「花嫁修業ねえ・・・」

 

おわり

 

この物語はフィクションであり実在の

人物団体には一切関係ありません