目指し坂を登っていくと分岐が現れた。
案内版で乾徳山の示す方向へ歩いていくとアスファルト
からコンクリート道路に変わり路面もヒビが入っていたりと
荒れてきた。太陽はまだ完全には昇っていないので
薄暗い、道路が大きく急角度で左に曲がる場所に
乾徳山の案内図を見つけた。
ヘッドランプで見ると現在地は林道に入ったところで
登山道入り口にはまだ達していないことを知った。
「なんだ、銀水晶まで結構あるじゃないか」
銀水晶とは水場で天然の沸き水が出ている場所
水は2リッター分のペットボトルを持ってきているので
特に必要ではなかったがわたしは飲んでみたかった。
湧き水といっても山系でそれぞれ味が異なるのだ。
携帯電話を取り出し時間を見ると5時であった
道路はコンクリートから砂利道となり林道らしくなる。
道の傾斜も徐々に上がってきているがまだ足には
余裕があった。
しばらく林道を歩き目の前に現れたのは
登山道入り口を示す案内板、指す方向を
見ると丸太を使った階段となっている。
一歩一歩階段を踏みしめふと後方を見るが
まだ誰も登ってくるものはいない。薄暗い
山の中に自分ひとりである。
そんな時、携帯のアラームが鳴り出した
わたしは5時15分に設定し目覚まし代わりに
していたのである。アラームは15分おきに
音楽が流れるようにセットしていた。
熊除けに調度いいとは思いながらも山の中で
動物一匹も見ることがないのは寂しいもの。
心の中では熊を見たい!そんな想いも生まれた
”ある~ひ、森のなか 熊さんにぃ でああった♪”
”花咲くぅも・り・の なかぁ~熊さんにぃ出会った♪”
一人山の中で歌いながら登っていくも熊が現れて
くれる筈もない。
登山道は大きめの岩が混じりだし歩きにくくなる
額から汗も流れだし大きく上が平らの岩で一旦
休憩をとることにした。ザックを岩の上へおろし
上蓋をあけて中に入れてあったタオルを取り汗を
拭うとザックのサイドポケットに突っ込んでおいた
ペットボトルの栓を開け口の中で流し込む。
生き返った気分とまではいかないが気分は上々
ただあまり長い時間休むと今度は歩けなくなる
5分程度岩に座っただろうかザックを背負い一人
山道を登り始めた。
一人黙々と登山道を歩いていく
ほかの人はわからないが私の場合は登る道の
先をあまり見ることをしない、見える範囲の先は
再び急な登りであるということが登山ではままある
あまりに先読みしてしまうと意気消沈してしまう
”なんだ・・・また登りなのか”と
いつのまにか周囲は日の出を迎えたようで明るい
再び目の前には分岐が現れた、案内には
銀水晶の文字も見えた。
平らな道は水でぬかるんでいた、水の流れる音も
聞こえている。土で汚れた靴も洗いたいし手や腕も
洗いたいと思っていたわたしは迷わず銀水晶へ
しかし銀水晶を見てがっかりしてしまった。
塩ビのパイプから流れ落ちる湧き水は
まるで公園の”しょんべん小僧”から流れ出る水
くらいのしょぼい勢いしか流れていなかったのだ。
手のひらを使ってもあまり飲むことはできない
仕方なくまだ残っていたペットボトルのジュースを
捨て去りペットボトルを湧き水で軽くすすぐ事にした
そしていらつくが時間をかけて湧き水をペットボトル
一杯まで注水していく。
いっぱいになったところで飲んでみるとまぁ悪くはない
冷たいというほどではないけれど”ぬるくはない”
飲んだ分を再び注水し先を目指して歩き出した。
登山道は再び姿を変え割と平坦になりはじめた
そばには枯れた沢と表現するような大きな溝も
ある。木々も変わり白樺のような細長く白い樹木
が見受けられるようになってきた
耳を澄ますと再び水の流れる音が聞こえ出し
流れる先を見るとそこには錦水晶があった。
水場であり塩ビのパイプから湧き水が流れる
ただし銀水晶よりこちらのほうが勢いがあり
水量も多い。水の出ているパイプの下には
小さなコップも置いてあったので飲んでみる。
”うまい”
わたしはこちらのほうがうまいと感じた。
両親の為にこの水を持って帰ろうと思い
空になったペットボトルに注水した。
ザックに注水したペットボトルをいれ歩いて
いくと周囲の景色は高原のような草が茂り
広い風景に様変わりしていく。
「国師ヶ原だ」
前方の道はまたもや分岐しており交差する道
は歩道のようにコンクリートが敷き詰められていた
案内板には高原ヒュッテの文字も見える。
ネットで下調べしたわたしはそれが避難小屋だと
すぐにわかった。管理人がいない無人の小屋
外観は白く綺麗で中に入ってみると板の間が
美しく腰掛けるのに調度いい床板の高さ。
ザックをおろし暫しの間、ここで風景を撮影する
時刻は7時15分だった。
つづく