短編小説 タンデムで連れてって 最終話 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

夢香と喧嘩別れするような形で別れた慎二は
あの日以来、ブログの更新もしなくなり何をやっても
やる気が出ない。週一回の休みには必ずと言って
良いほどバイクのシートをはずしてどこかへ
出かけていたのだが夢香とバイクに乗った日以降
今日まで1年の月日が流れたがバイクのエンジンを
掛けることさえしない、部屋にはヘルメットが埃を
被ったまま放置され主を失った道具のようだ。

”このままじゃいけない”
自分でも今のままではいけない、それはわかっていた
トップスターである夢香としがないサラリーマンである
自分では釣り合わない、諦めるのが正しい答えであると
わかっていた。けれども忘れようと考えても夢香を考え
ないようにしていても
一旦寝てしまうと夢の中で微笑む夢香が現れてくる

夢香と音信不通になって一年弱経ったというのに
慎二の頭の中では今も彼女への想いが断ち切れない
タンデムする以前よりも彼女に対する想いは増していた。
たまにテレビで夢香のことを見るが悩みなど持ってない
ように明るく活発で綺麗なので彼女は既に自分の
ことなどすっかり忘れ仕事に打ち込んでいる。
慎二はそう考えると苦悩は続いていった

慎二は知らない
夢香もまた慎二の事で苦悩していたことを
女優である彼女はプロ、仕事に私情を出してはいけない
仕事では元気そうに見えていても一人になると涙が溢れ
生きる活力も失せていた。

人は言う
「縁があればいつかは再び会える、それが運命」だと
言った当人に悪気はなく軽い気持ちで落ち込んだ人
を慰めるアドバイスかもしれない、ただそれを本気で
信じこの恋は成就しないと諦める人もいた。
慎二と夢香の二人がまさに諦めようと考えはじめ
一年の歳月は諦めようと思うには十分長かった。

「いつかはまた会うことが出来る筈」
だが裏を返せばもし会うことがなかったらそれは
想う相手が運命の相手ではないということである。

人間は叩かれても傷ついてもそのまま人生を全う
することはない、いつかは動き出す時がくるものだ

きっかけは他人からみればくだらない、どうでもいい
些細な事かもしれない。だが当人にとって始まりは
とても小さな事かもしれないが人生という山の登頂
に於いて重大な決断をする大事なサダメに結びつく

フェイスブックというSNSというコミュニケーションサイト
を久しぶりに見ると女性の友人が大型2輪取得の為
教習所へ通いだしたと聞いた慎二。

”まだまだ俺も練習しなくては”
夢香と実際に会うまでは常々考えていたことだった。
教習所と聞いて忘れていた講習会を思い出す事と
なった。明日の休日は作業ズボンを購入するために
作業服センターへ行こうと前日から考えていたのだ。

「あ、そうだ!明日はバイクに乗って行こう、ついでに
卒業した教習所で見学でもしてみるか」

”ガチャッ”

慎二には聞こえはしない
今まで空転を続けていた運命の歯車が再び正しい
運命へ導く為に噛み合って動き始めた。

日付は変わり休日となった朝の7時、慎二は目覚める

休日でも目的がなかった時は10時過ぎても寝ていた
起きて食べるのは朝食兼昼食で食べ終わると今度は
昼寝をし目覚めると既に夕方となったダラシナイ生活。

ヘルメットの掃除をしバイクのシートを1年ぶりに剥がす
キーを差し込んで見るとタコメーターの針は元気よく
動きだしてキルスイッチをオンに入れたが不安はあった
1年も放っておいたバイク、エンジンは目覚めるのか?
半ば諦め気分でセルスタートをさせてみると信じられない
事が起こった。

”キュるる、ヴォン”
エンジンは一発で火が入ったのである。
1年放置してあるバイク、通常バッテリー上がりになるもの
奇跡としか慎二には思えなかった。

「今日は最高についてるぞ」

心良くして出かけて見たものの教習所へ行ったら
大型2輪は駐車スペースに置かれたまま走ってるのは
普通2輪のCB400SFばかり、波状路付近の路上から
バイクに乗って見学していた慎二はがっかり。
なぜなら普通2輪に波状路という項目はないのだから
教習受けてる生徒は多いのにみな普通2輪。

バイクの時計を見るとすでに11時半を示していた
週一回の休日なので帰宅してから家でやることは
たくさんある。のんびり夕方まで見学する暇はなく
ヘルメットを被ると慎二は教習所を後にした

帰宅し昼食を食べ終わって寛いでる慎二に母親が
声をかけてきた。

「シチュー作りたいから肉買ってきてくれるかい」

「あるもので作れるだろう、冷蔵庫にスモークベーコン
 のブロックあったろう。あれ入れれば」

「そうしようか・・・」

残念そうに答えた母親は庭仕事のために外へ
一度は出かけるのを拒否する発言をした慎二だったが
よく考えてみると今晩だけじゃなく明日もシチューを食べ
る事になるのが予想されそうなるとやはり牛肉のブロック
が食べたくなる。
ただ一度仕舞ったバイクで再び買い物へ行くには
気が引けた慎二は自転車で行くことを思いつく

”なまった体を鍛えるためにも自転車だ”

単純な男である、片道15分程度の自転車走行では
体を鍛えることは出来ない。典型的なバイク乗り故か

スーパーに到着すると肉売り場まで一直線に進む
このまま肉だけを買って帰れば問題はないのだが
スーパーやデパートは誘惑の塊であっちこっちの
売り場から商品が慎二の腕を捕まえようと手薬煉
引いて待っていた。

「そうだ、冷蔵庫に魚がなかったんだ」
「そういえば振りかけはなくなっていた」

慎二もほかの客同様に商品の魔の手から逃れられない
予想外にいろいろと買ってレジに進むと前で支払いを
済ませている女性、振り返って慎二と目が合うと
恥ずかしそうにしながら女性は逃げるように出て行った。
見覚えがある女性だと思ったが思い出すことが出来ない
スーパーの駐車場へ出ると先程の女性は立っていた
こちらを見て何かを言ってる様だが聞き取れはしない。

”俺にいってるんじゃないだろう”
慎二はそう思いながら気にせず自転車で帰路についた

こうして貴重な休日は去り月曜の朝がやってくる
天気予報をみると低気圧が停滞し朝から雨は降り
今日一日は雨。予報ではしばらく雨が続くらしい
火曜日、水曜日、木曜日と雨の中外回りをして
金曜日、やっぱり朝から雨は降る。

明日は久しぶりの土曜休みなので雨は止んで欲しい
土曜と日曜の連休だとバイクで出かけられる距離も
長くとれ遠くに行くことができるのだ。
既に頭の中で見たことのない景色の中に自分とバイク
が想像できていた慎二だった

金曜日の夕方になると雨はやみ空模様は灰色の雲
が一面を覆っていた、天気予報では一日雨となって
いたが予報はいい方向に外れてくれたらしい
土曜日の朝になると雲の間から太陽が現れ青空を
垣間みることが出来た。久しぶりに見る朝の光は
眩しいくらいにギラギラして、例えれば長い洞窟から
やっと抜け出た時の喜びに近いかもしれない。

バイクにツーリングバッグを固定し暖機運転
「目指すは未知の遠い故郷(くに)」
皮のジャケット、皮パンツ、ブーツと完全武装し
意気揚々として目的地に向けて旅立つ慎二

ではあったがとある山道に差し掛かった時に事態は
一変してしまう。渋滞などありえないほど交通量は
少ない山道の筈が車の列を作り赤い灯火(ともしび)
を後方に照らし出していた。最後部で止まっていた
車のドライバーに聞いて見ても知らないという。
こちらの車線が渋滞してるにもかかわらず対向車
は15分経過しても1台もこない

「事故か」
片側通行にしてはまったくこっち方面に車がこない
ので事故としか考えられないのだ。
意を決して対向車線に躍り出てバイクを走らせる
途中進行を諦めた車が何台もUターンしてきた
50メートルは走っただろうか、前方には開けた空間
が見えてきたが赤灯をまわした車はいない

「なんか変だ」

通行止めになるくらいならば激しくへこんだ車が停まって
いなければならないのが通例であるがそのような車は
どこにも停まっていない、ただ空間だけが広がってる。
さらに前へ進んでいくとやっと原因が理解できた
ハーレーのダイナが上下線を跨いで転がっていた
すぐそばにはオーナーらしき女性が座り込んでいる
のも見える。

「ちょっと あんた、さっさと起こしなよ」

「こんなに重いの一人じゃ起こせる訳ないよ」

慎二の怒鳴り声に女性は逆切れしたように答えた
ただ慎二にはその声に聞き覚えがあると感じて
「もしかして夢香ちゃん」と聞いてみる

「ああ」
一番見られたくなかった相手というものがある
失敗して恥ずかしい思いをしている自分、あの人
だけには見られたくない。夢香にとってあの人は
慎二だったのである

「まぁとにかくハーレーを起こそうか」
慎二が起こそうとしたとき一番前のドライバーは
無理ですよと慎二を制止してきた。
どうやら男2人で起こそうとしたがハーレーを起こ
せなかったようで専門家が来るのを待っている
のだと彼らは慎二に話した。

「放っておいて、先日無視したくせに」
夢香が何のことを言ってるのか慎二にはわからない
「一体それは何の事を言ってるんだよ」

スーパーで逃げるようにした女性は夢香だった
突然の再会に驚いて一度は逃げるようにした
彼女だったが駐車場で慎二に勇気をだして声を
掛けてみたが慎二は反応してくれず無視されたと
勝手に思い込んで腹を立てていたのだ。

だが夢香はふと慎二の来ているジャケットに気がつく
忘れもしない二人でバイク洋品店で夢香が慎二に
プレゼントしたレザーのジャケット。

「慎二くんなんでそのジャケット着てるの?てっきり
 もう捨てたのだとばかり・・・」

「捨てる訳ないじゃないか、夢香を忘れる事など俺には
 出来はしない」

慎二の言葉にはじめて夢香は自分に対する想いを知る
1年あまり片思いで報われない恋だと悩んできたが
実は慎二も同じように悩んでいた事を。夢香は泣けた

「ちょっと待ってて」
夢香にそう告げるといとも簡単にハーレーを引き起こす
以前、慎二はハーレーの起こし方という動画を見ていた
ので引き起こすコツを知っていたからだ。

慎二が夢香の元に戻ってくると彼女は彼のジャケット
内側に彫刻された文字を潤んだ瞳で確認する
”I Love Yumeka"
そして彼女は彼の唇を奪った。

”パチ パチ パチ”と拍手が?
いやいや現実はドラマのように甘くはなかった

走り去っていく車はみなクラクションを鳴らし
怒鳴り怒るドライバー達、ふたりはひたすら謝るだけ

車が走り去った後、道路に佇む二人がいた。

「今度の休みでもツーリングに行こうか」

「だったらタンデムがいいわ」

そして2週間が経ったある休日の朝、慎二の携帯は
着信音を奏でていた。

「夢香からだ、今日いけなくなったのかな」
そう思いながらも携帯に出てみると

「おはよう、起きてる?今ね慎二くんの家の前だよ」

「おはよう、もうきたのか」
「今行くからちょっと待ってて」

慎二が身だしなみを整え玄関を開けるとそこには
ピカピカに輝くハーレーに乗る夢香がいた。
慎二が鍵を持って自分のバイクを出そうとすると
夢香は手を上げて制止をしてみる

「慎二くんのバイクはいらないわ、今日はわたしが
 運転手だから、君は後ろだよ」

「夢香が運転するバイクに俺が乗れと?大丈夫かぁ」

「文句言わないの、ささ早く乗って」

こうして二人を乗せてハーレーは走り去る
二人にとって長い道のりになっても先には
悪路が待ち構えていたとしても二人は
いつまでもどこまでも走って行く事だろう。

Fin

この物語はフィクションであり実在の人物団体
とは一切関係ありません