短編小説 転職先は雪工場 後編1 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

市街地にあるハローワークから大雪の降りしきる中
短時間で山奥深い中腹まで来てしまった事に疑問を
抱いていた不毛作だったが目前に現れた神殿のような
工場を見てそんな思いも消し飛んでしまった。

ふと振り返り乗ってきた伯爵の車を見て愕然とした
雪が積もってるはずの車にはまったく雪がなく洗いたて
 の車のように煌いていた。
エンブレムには”パンサー”の文字が見える
60年代の車であるとわかったがそれにしては綺麗過ぎる

「それじゃいきましょうか」
車から降り工場の中へ入ろうとする伯爵

伯爵からは未だ工場で何を生産してるかの説明はない
就業の条件も知らないままとりあえず仕事内容を見る
ことにしたけれどやはり不安は募っていた。
だが今の不毛作にえり好みを出来る身の程ではなく
黙ってついていくしか道はなかったのである

「はぁ~い、皆さん集まってください」

伯爵が工場内で声を張り上げて従業員を呼ぶと
不毛作は今の世界が現実か夢か判断できなく
なってしまった。
不毛作の前に現れた従業員は人とは思えなかった
容姿をしていたのだ。

「う、うさぎ?狼?白熊?・・・イエティ」

人だと思っていた従業員は人間ではなかった。
かといって動物でもない、みな2足歩行していた
それなのに伯爵はというとそれが当たり前で
 あるかのようにごく自然に紹介しようとする。

「右から資財担当のうさちゃんと設備担当の
 ラビさん、ごついのがエディ係長で隣が
 ウル虎課長で工場長のク丸さんです」

てっきり不毛作は一番でかいイエティが部長
だと思っていたが係長ということで意外に思えた

「今日は見学をさせてもらう不毛作です、どうぞ
 よろしくお願いします」

 と不毛作が挨拶をすると従業員のみなさんは
 不思議そうな顔をしてみせた、そこで課長の
 うる虎が声をあげる。

「見学?うちにはそういう制度はないんですよ
 あなたは今からここで働くことになります」

「そんな馬鹿な・・・」

確かに伯爵は見学とは言わず一度来てみれば
 と言ったが通常そういうニュアンスは見学と解釈
 するものなので不毛作も今日は見学して業務内容
 を聞くだけのつもりだったのだ。

「あそうだ、詳しいことはク丸工場長から聞いてくだ
 さい。わたしは新人歓迎会の準備しなければ」

それだけ言うと伯爵はそそくさと工場の奥へ行って
 しまった。白い毛で覆われた巨体に小さなヘルメット
 を被るク丸工場長は不毛作に近寄っていく。
 ”ドーーン”と威圧的なク丸に不毛作はビビッた

「不毛作くん、あなた転勤は大丈夫ですよね」

「ええ独身ですから」

転勤といたってせいぜい中部か遠くても大阪くらい
 だと思って承諾した不毛作であったがそこに大きな
 落とし穴があった、そもそも人間の会社ではないの
 だから人間の常識など通用しない
”もっと慎重に返答すべきだった”とあとで後悔する事
 となる。

「じゃぁみんな、新人歓迎会だ。行こう」

先頭に立って奥の部屋に進むク丸工場長の後を
 追うように”ワイワイガヤガヤ”と付き従う皆の衆

「工場長説明はそれだけですか?ね、ちょっと」
「仕事しないでいいんですか皆さん」

一人ぽつんと取り残された不毛作、そこに
 白いスレンダーなうさちゃんが胸を揺らしながら
 走り寄ってきた。肉球を装備した足なので足音
 はしなかったが

「おじちゃぁ~~ん、行こっ。ね」

長い2本の耳、片方の耳は折れそれだけでも
 愛らしいのに潤んだ大きな瞳と薄紅色した
 小さな口、決定打は頬ずりだった。

「はい」

不毛作の口は自分の意思とは関係なく
 条件反射したかのように即答である。

薄明かりの照明が暗い廊下を幻想的に照らす
城のような巨大な建築物であるから長い廊下も
 別段変ではない、しかしだ。
いくら長い廊下といえども先は暗くても見えるもの
それがいくら先を見てもまったくわからない
まるで永遠に続くように先には暗闇しか見えない

二毛作はこの廊下があるトンネルに似ていると
 感じていた。そのトンネルは心霊スポットとも
 言われている山の中腹に作られたトンネルで
 昼間でも電灯を持っていないと真っ暗で何も
 見えない、ただ天井から落ちる雫の音と冷たく
 響き渡る足音だけ。

”コツーーン”
”カツーン”
 と歩くたびに響き渡る足音はあのトンネルと
 同じだと感じていたのである。

前方には暗闇しかないと思っていた廊下であった
 が突然暗闇からドアが現れた。なんの予兆もなく
 突然タイムスリップしてかのようにドアは出現した

「うさちゃんさん、突如としてドアが。」

「何言ってるのさっきから見えていたよぉ、あとね
 うさちゃんさんってやめて頂戴ね」
「うさでいいから」

両開きの観音ドアを開けてみるとさっきまでの
 暗い廊下とは打って変わり眩しいまでの光が
 飛び交う広い部屋が姿を現した。
30畳はありそうな広い部屋はまるで結婚式場
 の大広間やホールかと思えるくらいの部屋

「ほらぁうさ、あなたも早く着替えておいでよ」

そう言ったのはさっきの人型うさぎではなく
 どこから見ても普通の人間の若い女性。
網タイツに黒のハイヒールをはいたバニーガール
ただ妙にリアルな長い耳だけが違和感を醸し出す
そして他の従業員も顔は人の顔になっていた。

”やはり人間なのだろうか”

不毛作は何がなんだかわからなくなっていた
彼は先刻毛皮と皮膚が一体化した風貌のウサギ
 を自分の目で見ておりどう見ても被りものには
 見えなかったしそもそも被り物でリアルに動く事
 はあり得ない。だが今目で見ている人達は紛れ
 もない人間としか思えない。

”カッツコツン”
 とハイヒール独特の足音をさせてうさちゃんが
 戻ってきた。

彼女もまた女性の姿、それも丸い尻をプリプリ
 させたモデルのような肢体で登場。

「さっきねうる虎課長から”君を食べたい”って
 飲みに誘われたんだけど二毛作さんはどう
 思う!?」

「・・・・・・やめといたほうがいいと思いますよ」

「キャ、嬉しい~妬いてくれるのね」

確かに二毛作の好みであったうさちゃんだが
それで恋心を抱くほど彼も若くはなかった
ただ単にその場合の食うは人間同士とは
 意味合いが異なり喰うのほうではないかと
 考えうさちゃんの危険を感じたからであった
なぜ二毛作はそう考えたのだろうか。

それはラビのおしりに付いた丸い尻尾、それが
 動くのを見た。ただ動くだけではなく緊張した
 喜んだ時その動きは大きくなる、まるで自分
 の体の一部であるかのように。

まさにウサギだと二毛作は思った。

つづく