短編小説 介護のための見合い 第32編 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

滅多に電話がかかってこない桐生家だがここ数日は
電話が鳴り続く日が続いている。
それはすべて息子 秀一郎と幸子の結婚を祝う祝辞の
電話である。そんな中、息子の嫁になる幸子の母
広瀬芳江から電話が掛かってきた。

「もしもし広瀬ですがおかぁさま、この度は本当に
 おめでとうございます。わたくし強引に挙式を決め
 たのですが内心冷や冷やでしたの。」

「あら広瀬さん、わたしもですよぉ。キャンセルされや
 しないかと毎日、毎日ドキドキでしたよ」

「あの子達に任せていたらいつになるかわかりませんから」

「本当~、結婚する前にお迎えが来ちゃいますものね」

とお互いの母親は電話口で談笑をしていた。

「今日も娘の幸子がお邪魔してるようでご迷惑おかけ
 してます」

「いえいえ幸子さんはよく手伝ってくれていますから
 大助かりなんですよ。こちらからお礼を言いたいくらいで」

「とんでもございません、何もできない娘で」
「ところで今幸子は何をしておりますか?」

「先ほど秀一郎のバイクで二人で買い物へ行きましたが?」

「そうなんですか、きっと新婚旅行で着るバイク用品を
 買いに行ったんですね」

「何も新婚旅行でバイクに乗らなくてもいいと思います
 のにねぇ。まぁその気になっただけでもいいとしますか」

「これからも何かとご面倒をお掛けすると思いますが
 何卒これからも幸子をよろしくお願い致します」
「では失礼致します」

その頃、秀一郎と幸子はハワイでツーリングをする為
バイク用品店でバイクウェアを品定めしていた。

二人ともにライダーではあるのでバイク用のウェアは
持っていたのではあるがそれはスポーツバイク用の
レーシングウェアである皮ツナギやレザーパンツであり
とてもではないがハーレーダビッドソンのスポーツスター
 などには到底似合うウェアではなかった。
現地でハーレーをレンタルする予定だったのだ。

「さっちゃん、俺ブーツ持ってるんだけどさぁ」

不満げに言う秀一郎を叱咤するように幸子は答えた。
「だめだめ、業に入れば業に従えという諺があるでしょ」
「あんな赤白のブーツでハーレーなんて笑われちゃうわ」

「この場合、その諺は少し違うとおもうのだが・・・・」

秀一郎が反論しても幸子に聞く耳は持っていなかった。
それより幸子は秀一郎と二人で服を選ぶことが嬉しい
まして新婚旅行のための服選びだったから嬉しさは
倍増というところだろうか。

バイク用のウェアといってもいろいろでレーサーが
着るカラフルな皮ツナギからツーリングで着るジャケット
カジュアルなジャケットもそしてオフローダーが着る
ジャージもある。
しかし幸子は目もくれずまるで求めるものを探すように
ほかのウェアには興味がないようだった。

「あったぁあ~~~これこれ」
多くのジャケットが吊るされた中からひとつのハンガーを
取り出して秀一郎に見せてみる。

それはデニム製で袖はカットされ背中にはハーレーの
マークである大鷲が刺繍されたジャケットであった。
アメリカ映画でヘルスエンジェルスやイージーライダー
のピーターフォンダが着ていたハーレー乗りのステータス
みたいなジャケットである。

「え、それ?新婚旅行でしか着れないから勿体無いよ」

「いやいやいや、ハーレーはやっぱりこれしかない!」
「それに帰ってきたらハーレーを買えばいいじゃない」

確かに映画を見たときから秀一郎もハーレーの
ジャケットは憧れであり何度買おうとしたことか
だがハーレーに乗ってないのに着ることは出来ない。
秀一郎は帰国してからも使えるジャケットを買う
つもりであったから幸子の選んだ服に意表をつかれた。

帰国したらハーレーを購入するなど毛頭も考えていない
それに引き換え幸子は新婚旅行でハーレーに乗る
事を思いついた時点で既に買う決心をしていたのだ。

一度決めたら考えを変えない頑固な女、幸子。
幸子を見て秀一郎は思った。

”おかぁさん、そっくりじゃん”

「何か言った!?」
と振り返る幸子に秀一郎はといえば

「いや・・・・別に」

刺繍されたデニムのジャケット、それを着た二人の
姿を想像してみると、ハーレーと共に撮影された写真は
まるで映画のワンシーンのように絵になる。
ただ二人で観光スポットで撮った写真よりも生涯に残る
思い出の1枚となることは考えるまでもない。

バイク用品店を出た二人が持つ手には紙袋があった。
そして紙袋の中に見えたものは鷲が翼を広げたマーク
が見え隠れしていた。

つづく

この物語はフィクションであり実在の
人物、団体には一切関係ありません。