秀一郎と幸子は六本木のおしゃれなカフェで結婚式
について打ち合わせをしていた。
母の言いなりで結婚式を進めることに不満を持つ
娘の幸子は結婚式にあまり気が乗らない。
しかし今ここで結婚式をキャンセルしてしまうと
結婚できるのはいつになるか、そう考えると不安
が脳裏をよぎる。
幸子にもこれは良いきっかけになる、それは
自身にもわかってはいた、わかってはいたが・・・・
二人の間には沈黙が続いた。
秀一郎はふと視線をずらし窓際のほうを見ると
そこには老夫婦らしき男女が談笑をするのを
見つける。
シルバーグレーの頭髪にブレザーを着込む男性と
銀縁のめがねをかけた品の良い女性がそこには
いた。
「幸っちゃん、見てごらん。あの夫婦」
「え?何」
秀一郎の指差す方向に視線を移す幸子。
「なんかいいよねぇ~」
「だろ?俺たちもあんな風に一緒に年を重ねて
いきたいよなぁ」
ただ男性は屋内にもかかわらず薄い色のサングラス
をかけている事に秀一郎は疑問を感じていた。
しばらくその老夫婦を二人は見続けていると
女性はフォークで男性の口元へケーキを運んで
食べさせている、男性は素直に口に運ばれたケーキを
食べ、女性はといえば自分は食べずひたすらに
男性にケーキを食べさせているだけだった。
人差し指と親指で直角を作り両手でファインダーを見る
ように老夫婦のほうを見ている幸子は
「う~~ん、絵になるね」
「撮らしてもらおうかしら」
そういうとかばんの中からコンパクトデジカメを取り出し
撮影しようとするが秀一郎はそれを止めた。
「ちょっと待って」
「え、なんで?」
幸子のカメラに自分の手をかざし制止する秀一郎。
秀一郎は二人が何か特別な訳があるように見えて
仕方なかったのである。
さらに老夫婦を見続けていると
食べ終えた男性は片手を伸ばしテーブルに置いてある
ものを指で確認するかのように触りながら女性に
手を伸ばしていき女性の指に触れると一気に手を掴み
さらにもう一方の手で女性の手を挟むように握り
しめた。
遠めで見ても男性が目の見えない盲人であると
秀一郎と幸子の二人は認識する。
サングラスをかけている理由が今、はっきりした。
男性の目が見えない為に女性はケーキを食べさせて
いたのである。自分は後回しにして。
その後、男性は左手を女性の手から離し自分の
サングラスを下から上げる仕草を見せそのまま
指を目に当て、なにかを女性に呟いた。
感謝の気持ちで男性が泣いていたのを幸子と
秀一郎は理解出来、男性が何を呟いたのか
二人の考えた言葉は一緒であった。
「ありがとう」
その言葉しか思いつく言葉は見つけられない。
老夫婦は苦難を強いられながらもいき続けている
二人の苦労に比べれば秀一郎と幸子の悩みなど
つまらないものに思え、夫を思いやる女性に
幸子は心を打たれ目に熱いものが込み上げて来る
のを感じていた。
「つまらない事に拘るのはやめよう。結婚しよう」
秀一郎の言葉から強い言霊を感じた幸子。
「はい!おばぁさんになっても面倒みてね」
「そうくるか・・・・・」
”あっはははは”
と二人は大きく声を出し笑い続ける。
今まで親のことで悩んでいた自分たちを
愚かだったと思うように。
つづく
この物語はフィクションであり
実在の人物とは一切関係ありません