秀一郎が自宅へ戻ってくると母裕子は珍しく出迎えてくれた。
「ただいま」
「あれどうしたのさ、珍しく出迎えて」
「ちょっと話があるんだよ」
「おまえと幸子さんの結婚式のことで」
母の言葉を聞いて今まで忘れていたものが今脳裏に
”そういえば婚約してたっけ”
忙しさにかまけて婚約したのさえ秀一郎は忘れていた。
会社での待遇は契約社員である秀一郎は仕事が
それほど忙しいわけではない。
会社の仕事以外に秀一郎はある仕事をしていたのだ。
幸子はおろか兄弟の光男そして両親さえも知らない。
裏稼業とでもいうべき仕事、世間ではその仕事を
知る人は僅かしかいない。
”破邪の者”と心霊関係者は呼んでいた。
それが秀一郎のもうひとつの顔でもあった。
居間に座らせられた秀一郎は母に問われる。
「秀一郎おまえ結婚する気あるんだろうねぇ」
「も、もちろんだよ。かぁさんの病気が完治してから
式場の予約や式の準備を進めようと幸子にも
話してあるから」
まさか婚約を忘れていたとは母に言えない秀一郎
は焦ってしまった。
「それならいいんだけど、わたしはお前たちに
申し訳なくて、わたしが倒れたせいで結婚が
延期してしまったようなもんだしね」
「そんなわたしが言うのもなんだけどさ、わたし
は病気が完治するとは思えない、だから
たとえ一日でもいや1時間でもいいから
お嫁さんとこの家で過ごしたい それが
わたしの夢だからわかって貰いたいの」
「かぁさんの言いたいことはわかるけど結婚
しても幸子が一緒に住んでくれるかわからないよ」
「幸子だって仕事を持ってるし自分の家もあるんだし」
と秀一郎は母に言う。
秀一郎の言葉をきき落胆したような表情になる母
それは母自身でもわかっていた事であったが
息子の秀一郎から直接聞くとショックは大きい。
「とりあえず幸子と一度、結婚式のことそれから
結婚した後の住まいのことなど相談してみる」
「それでいいかな?」
「そうしてくれるかい、ありがとう」
感謝の気持ちを秀一郎に伝えた母 裕子。
母の隣でただ聞いている父は無言で母の
肩を軽く叩いて慰めた。
この日の相談はこれで幕を閉じたのである。
さてここで秀一郎がやっている仕事のことであるが
”破邪の者”とは一体なんなのか?
除霊というと霊能者が留まっている場所から退去
させる行為を呼ぶものであるが秀一郎は霊能者
とは一線を画す。
最悪な心霊スポットへ再度いって見ると以前のような
邪悪な雰囲気がまるでない、そんな経験はないだろうか
まるで悪霊が消えたように静まりかえる心霊スポット。
それこそ”破邪の者”が訪れた証拠なのである。
破邪の者とは除霊など必要はない、除くのでなければ
天国へあげる事でもない。
抹殺いや幽霊なので抹消という言葉のほうが適切だろうか
輪廻転生など霊にさせずその場で永遠に消してしまう
それが”破邪の者”の特異な才能なのだ。
そんな人がいるのならば霊章で工事に支障をきたした現場
あるいは一族にかかる呪いなど解消させてあげられると
思われるだろうが悪霊だからと言って無暗やたらと消して
しまえば世界のバランスは崩れてしまう。
故に霊を抹消するには十分な調査と検討が必要なのだ。
それが秀一郎の仕事でもある。
翌日、秀一郎は久しぶりに幸子の住むマンションを訪ねる
事にした。
昨晩電話すると幸子は明日、家にいると言っていた。
ただ心無しか声に元気が感じられなかったような気もしたが
仕事で悩むこともあるだろう、経営者だから
その程度にしか秀一郎は考えなかったのであるが・・・・
チャイムを押しても返答はない、何度繰り返し押しても同じ
だが駐車スペースには幸子の車が停めてあったので留守とは
思えない。
そこでドアノブに手をかけて回してみるとドアは開いた。
ゆっくりとドアを開けるとすぐさま嫌な気配を感じることが出来た。
まるで殺人があった廃墟へ行った時のようにおもおもしい空気
まさしくこれは悪霊がここにいるという証拠でもある。
太陽があがってる朝だというのにやけに暗い部屋の通路を歩く度
胸が締め付けられる感覚に囚われていた秀一郎。
凶悪な心霊スポットを何度も訪ね修羅場を経験したので恐怖心は
ない、あるとすれば愛する彼女を失うかもしれないという恐怖だろうか
とりあえずキッチンへ行くと流しの混合栓からは”ぽたっぽたっ”と
水滴の落ちる音、流しの中は洗われていない茶碗の山。
テーブル上には食い散らかしたカップラーメンが多数、そして
開封し散乱したお菓子やドライフードが目についた。
キッチンを一旦出ると秀一郎は寝具のある部屋へ足を向ける。
ドアを開くとそこには背中を丸めた幸子の姿があった。
「幸子!」
秀一郎が声をかけると幸子はゆっくりと首をまわし、幸子の顔
を見た秀一郎はそこで固まってしまった。
なんと幸子の顔は・・・・・・・
つづく
この物語はフィクションです。