短編小説 介護のための見合い 第6編 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

見合いのための登録を断られた修一郎の弟夫婦は何事も
なかったように普段の生活に戻っていた。
夕方6時、詩織はシチューの入った土鍋をオタマでかき回し
ながら居間でくつろぐ夫 光男に愚痴る。

「おにぃさんって自分で料理作るから凄いよね、あなたも
 少しは出来るといいのに・・」
「兄貴はね料理作る時間があるの!俺だってやれば出来るの」
「だけどおまえのほうがうまいし早いからやらないだけ」

確かに光男は料理を作ることができる夫であったが以前
料理を作っていたら電子レンジを壊した事があった。
使ったことがなかったので知らないでアルミ箔で包んだ
生卵を入れて加熱したのだ。
それ以来一切料理を作ることは無くなった光男。

二人で話してるとインターフォンが鳴り出てみると若い女性
がモニターに映し出された。
「どちらさまですか?」
「わたくし、見合いの友 紹介課の松宮祥子と申します。」
「先日私どもの不適切な対応で不快な思いをされた事の  お詫びに参りました次第です」
「少々おまちください」
光男はそう相手に告げると料理中の詩織に来客の訪問を告げた

「詩織、先日断られた見合いの会社から謝罪に女性が来たけど
 どうするか?おれはもう話したくないけどおまえは?」
「わたしの事だけならもう会わないけど義兄さんの事だからねぇ
 とりあえず話を聞くだけ聞いてみようよ」
「そうだな。」

「お待たせ致しました、今開錠しますのでどうぞ部屋まで」
光男は玄関先にあるモニター兼インターフォン機器を操作し
エレベーターの扉を開けた。

ほとんど出来上がっていたシチュー、火を止め土鍋に蓋をし
二人は獲物を待つ獣のように手薬煉引いて待っていた。
”見合いの友”と名前を聞いただけで夫妻は先日の忌わしい
出来事を思い出すと怒りがこみ上げてきた。
だがどんなに怒っても仕事柄それを表に出すことは無い
国税局の夫と検察官の妻であるからだ

エレベーターを降りると通路を左に曲がり歩いていくとコンクリート
の柱の間からは下の中庭が見え寂しそうに外灯が点灯している
女性はそれを見て、まるで自分の心境と似ている気がした。
一人で寂しく心が重い闇の中を彷徨う自分
足取りもおもく心臓の鼓動は早くなる、それでも行かねばならない
”306”そして”305”を通り過ぎ目指す”302”までもう少し。
まるでカウントダウンを数えてるように数字が減る度、胸の鼓動
も高まっていく女性。”304”・・・・”303”遂に”302”、今眼前に
見える青いドアそれが女性には地獄門のように思えていた。

勇気を出して女性はドアを叩く。
”トン トン トン”
非礼な言葉を発したのが自分ではない、だが同じ会社。
相手にとって同じ会社の社員ということは自分も同等なのだ
大抵こういう役目というものは当事者の上司がするものだが
まだ登録もしていない相手であるから上司が来てしまうと変に
思われてしまう、そう配慮したからに他ならない。
そして鎖を外す音がしてドアは開いた。

”どんな面下げて会いに来た”そう言われると覚悟して訪れた
女性 松宮祥子であったのだが・・・・・・
目の前にいた夫妻は感情を表にだしておらずあくまで冷静
だったのを見て内心ホッとしていた。
「どうぞお上がりください」
詩織にそういわれた松宮はパンプスを脱ぐと靴の向きを変えて置く
「失礼致します」
夫妻の後をついていくと居間に通された。

大理石調の長方形テーブルそしてレースの半カバーが掛けられた
白い本皮ソファーが部屋の中央には置かれ40インチのTVが目をひく
ソファーに腰掛ける前に松宮は謝罪のため用意してきた贈答品を手に
「つまらない物ですが先日のお詫びにと用意してきた物ですので
 どうかお納めください」
と松宮は言ったが夫妻は手を差し出すことはなくテーブルに置いた。
夫妻にとって贈答品にあまり関心はなかった、それは仕事柄よく
貰うのでまた不用品が増えた程度にしか考えられなかったのである

紹介担当の松宮はスカートを伸ばすように手で後ろを押さえながら
ソファーに腰掛けるとまず謝罪の言葉を述べた。
「先日はご多忙にも関わらずお越し頂いたというのにうちの者が
 大変失礼な対応しまして申し訳ありませんでした。」
「いや貴方に謝られるのは筋が違うと思いますが、担当された男性
 はこられないのですか?」

光男が疑問に思うのも無理は無い、先日担当した男性はどう見ても
今目の前にいる若い女性より先輩もしくは上司であるからだ。

「担当した者は現在自宅謹慎中ですのでわたくしが代理に来させて
 頂きました。わたくしでは納得できないと存知ますがご理解して
 頂きたく思います」
深々と頭を下げる女性 松宮。
「そういうことなら仕方ないですね」
妻詩織がそう言うと協調するかのように頷いてみせる光男
謝罪されて納得はしたが夫妻に疑問は残っていた。
”なぜまだ登録してないのにわざわざ訪問してきたのか”

「ひとつ伺ってもいいでしょうか?」
「はい、何でしょうか」
「謝罪するだけなら訪問する必要はないと思いますが
 まだ貴社の客にもなってない私たちなので電話や手紙
 でも十分だったのではないですか?」
と詩織は松宮に尋ねてみる。

「実は私どもからお願いがあって伺いました、おっしゃる
 通り謝罪だけなら書面で済ますことが出来ます、ここから
 ゼロスタートだと思ってもう一度わが社にお義兄さまの
  登録をお願いできないかと思いまして」
松宮の思ってなかった発言に驚きを隠せない夫妻、そして
勇気をだして話した松宮祥子の間には沈黙が流れた。

夫妻はソファーから同時に立ち上がると光男は言った。
「お帰りください」
すんなり登録して頂けるとは思っていなかった。
名刺をテーブルに置き立ちがるとお辞儀をし
「どうぞご検討してみてくださりませ、失礼致します」
そう告げると夫妻の家のドアをあけ出て行った。

一回断られ遺憾に思っていた夫妻だったが丁寧に謝罪
され冷静になって考えてみると自分たちの判断だけで決め
られない事だと気がついた。
両親はもとより今度は兄 修一郎にも一度聞く必要がある
何よりこれが兄に結婚して貰う最後のチャンスかもしれない
そう思った光男は携帯電話のボタンを押していた。

つづく