ここはとある中学校の教室である。
「みなさん、今週の土曜日は授業参加を開催しますので
その旨ご両親に伝えてください。どうしても都合がつかない
ご両親がおられると思いますので今から授業参観の案内を
配布しますので明後日までに書いてもらってください。」
担任教師は人数分をたばにして各列最前席の生徒にまとめて
渡し後ろに配ってという。
授業参観、生徒にとってうれしいものではない。授業参観とは
両親のお披露目の舞台でもあるのでほとんどの生徒は
両親にきてもらいたくはないものである。
だが親の前でいいところを見せたいとも思ってしまう。
しかし明らかに授業参観が苦痛で頭を抱え込んでいる
女子生徒が一人。若槻沙織と言う名前の女の子なのだが
来れないならばそれに越したことがない、でも万が一にも
参加されたら恥ずかしい思いをするに決まってると考えた。
沙織の両親実はイベント大好きなので見せたら絶対参加と
いうに決まっていたので参観案内を見せないほうがとも。
親が来るのをそこまで嫌がるのには理由があった。
沙織の父は画家若槻謙二郎誰もが知るほどの画家であるが
名前は知っていても顔はあまり知られていない。
母親は若槻佳織、ミリオンセラーを出した小説家で問題は
この母親のほうである。単行本によせばいいのに自分の
顔写真を載せているのでバレルのは確実だった。
両親が有名人だとクラスメイトに知られたくはない沙織。
だがそれだけが来て貰いたくない理由ではなく料理も掃除
洗濯もできない女で小説を書くだけの母親と地味でオタクな
趣味を持つ父親、一体誰がこんな両親を披露したいと
考えるだろうか。
家へ帰ると憂鬱になる。案内用紙を見ながら見せようか
見せるまいかとまだ悩んでいた。
「沙織ちゃん~~今度授業参観なんだってね」
「なんで知ってるの・・・・・・」
帰ってくるなり母親の佳織から知らない筈の授業参観の事
を言われ驚いてしまう。悩んでいたのが無駄だった。
「さっきね美智子から電話で聞いたんだよ」
美智子とは佳織の学生時代から親友なぜかクラスの
男子境秀雄の母親だった。
そうクラス内には母親のスパイがいたことを忘れていたのだ。
「もちろんわたしが行くからね」笑顔でいう母親。
知られてしまった以上来るなと言う事もできずに教室で恥
をかくことが決定してしまった。”ああ~~”
「さて仕事しごと、締め切り間に合わなくなるから
がんばらないと授業参観出れなくなるう」
そういう母親に沙織は思った。
”出れなくなっていいのに。”
帰宅して顔を見ない父親を疑問に思った沙織は
「ねぇねぇおとうさんはどうしたの?」と尋ねると
「おとうさんはねしばらくフランスで絵を描いてくるんだって」
「そういうことだから晩御飯はよろしくね」
父親が家にいるとき料理は父がつくるのだがいないときは
当然の如く娘の沙織が作っていた。
どうやって料理を覚えたのかというと無論父親伝授である。
二人とも1流芸術家なので家はどちらかといえば裕福
で冷蔵庫はドイツ製400リッターの観音開き、シンクは
これまたドイツ製のホーロー加工されたステンレス製。
4口インバーターコンロとガスオーブンが収まる木目調
システムキッチン。食器洗い機、ジューサーも備える
フル装備のキッチンである。
だというのに料理が作れない母親にとって豚に真珠で
仕方なく娘の沙織が料理を作り始めたのである。
まぁ料理を作るのは沙織にとって苦痛ではなかったから
夕食をよろしくと言われても特別嫌ではない。
そんなことよりも父親がフランスに行きしばらく帰ってこない
母からそれを聞き沙織の口元は緩んだ。
”フ・フ・フこれで父が授業参観に来ることはない”
と一人ほくそ笑んでいた。
沙織の人生で二人と一緒に行動して常に恥をかいてきた。
かかなかった日はないのである。
いわば沙織の人生教訓とでもいうべきか
母と沙織の二人で父の噂を話してるとき突然、鳴る電話。
「もしもし若槻でございますが、ああ あなた!」
噂をしてたらなんとやら・・・である。電話の相手は父であった
フランスから国際電話をしてきたのは娘と話したかったに他ならない
「はいはい、沙織ね今変わりますって」
「沙織~お父さんが電話変わってって」
「もしもし、お父さん?こんな時間になによ」
「今ちょうどご飯食べ終わったところなのに」
これから食器を洗って片付けようとしていたので
そんなときに電話があったものだから沙織は不機嫌。
「悪かったねぇ急な仕事でさぁ。サオりんに食事作らせて」
”サオりん・・・・・キモっ”
あまり言いたくはなかったがこれる筈がないと思った沙織は
授業参観のことを一応言っておくことにした。
「お父さん今度の土曜日に授業参観あるんだよね、これないよね」
母からしばらくフランスだと聞いていたのでこれないと知っていながら
まるで来てほしいような言い方をする沙織に対し父はといえば
「う~~ん残念だなぁ。授業参観に出たいけど無理だよなぁ」
「でもできる限りがんばってみるよ」
”がんばんなくていいから。頼むからこないで”
父親の無念さとは裏腹に娘は非情であった。
電話は再び母と替わり会話をする父。
運命の授業参観が行われる土曜日がやってきた。
娘が出かける時間だというのにまだ眠り続ける母佳織。
夜遅くまで執筆していたので仕方ないといえばそうなのだが
母親としてそんなんでいいのか・・・・・
母親とは違ってしっかり者の娘沙織は健気にも朝食を用意して
学校へ登校していった。
いつもいい加減で時間もルーズさらに寝坊な母親の佳織が不安
で仕方なかった。それというのも普段あまり化粧もせずに清楚な
服装をしてる姿を沙織は見たことがなかったからである。
”大丈夫かなぁ、おかぁさん。頼むから恥ずかしくない格好で”と
中学校は授業開始から数時間後グランドには父兄の姿が見え
はじめ一部の生徒は父兄たちを教室から眺めていた。
父兄の服装、基本は男女ともスーツであるがカジュアルな服を
着てくる親たちの姿もある。まぁスーツにもいろいろあるのだが
「おお~誰だあれ?芸能人みたい・・・」
スーツ姿の父兄に混じってひときわ際立った夫婦の姿があり
見ただけでも他の父兄たちが着ているスーツと違い高そうな
服を着こなす夫婦があった。
クラスメイトのそんな声を聞いたが沙織はそれどころではない
不安で不安で仕方なかった。
だがクラスメイトから褒められている親たちが羨ましいと
思ったことは確かである。
授業参観の時間がはじまり教室には親たちがぞろぞろと入り始め
「誰の親だろう?すげぇ」
と声をあげる生徒。そう先ほどの夫婦が教室に入ってきたのだ
イタリア製のダブルスーツを着る夫とフランス製ブランドスーツの妻
それを見たほかの父兄達もざわめく”あの人見覚えがある”と
「サオ リィ~ン!!おとうさんがんばってきたぞぉ」
着ていた服にまったく似合わない言葉を発した男に驚きを
隠せない生徒と父兄たち。
だが名前を呼んだおかげで誰の両親だろうかという謎は解ける
「若槻の親だったんだ・・・・」
自分の父親の声だとすぐに感づいた沙織ではあるがまだ父兄達を
振り返り一度も見てないので親がどんな服装なのかは知らない。
ただ”あああ~~おとうさん来ちゃったよ”としか思えなかったのだ
沙織の頭の中にあったのは恥ずかしいという気持ちで一杯
「さおりぃ~~~おかぁさんもいるからねぇ」
と母親の佳織は大きく腕を振って叫んだ。
あまりにも恥ずかしかった沙織はここではじめて後ろを振り返ると
そこにいた両親の姿はまるで芸能人のようで輝いていた。
「うそ・・・・・・・」沙織は驚いてしまう。
だが二人の両親にとってはがんばった服装という訳ではなく
これが二人の仕事着だっただけ。
「あら、珍しくきちんとした服着てるじゃない佳織」
声をかけてきたのは親友の美智子である。
「一度くらい仕事用のきっちりした姿を娘に見せないとね」
「やるときはやるんだってところを」
この物語はフィクションであり登場人物は事実と一切関係ありません