短編小説  猫つむり | 妄想小説日記 わしの作文

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猫は長くいき続けると尻尾がふたつ或いはみっつに分かれ
妖怪猫又になると言われている。
また7回死んでは生き返ると噂もある神秘的な生き物である。
しかし言い伝えには記されていないもうひとつの姿が存在した。
猫がカタツムリを背負いカタツムリを住居とする猫、それを猫つむりと言うのである。

ある家では長年飼っていた黒猫が死に悲しみに包まれていた。
10年生きてきたので老衰により死んだ。
家族同然だった猫、食事のときは一緒に食べて寝るときは布団の上で寝ていたので単なるペットではなく家族の一員であった。
だがその猫も もういない。
食事のときに来ることも布団の上で寝ることもないのだ。
黒猫のヤマトが他界した日の夕食、誰も口を開くものはいない
両親と25歳になる長男そして18歳の長女は黙々と食事をし
テーブルには猫ヤマトの額が置かれ時折その写真を見る。
「ヤマトはアジが好物でアジの開きがあると大騒ぎしたっけ」
ぽつりと父親が寂しそうに言った。
「アジのにおいがするだけでまとわりついていたからね」
長女はそれだけ言うと目頭を押さえた。
猫ヤマトの写真立ての前には皿にのったアジの開きが。
誰も食べるものがいないアジの開き。

流し台の扉の奥には食べるものがいなくなったキャットフードと猫の缶詰が。猫がいなくなったからといって捨てる事はできない猫の食べ物。
25歳の長男がいつも買ってきていた猫のご飯だった。
長男は残っている缶詰などを考えるとご飯がのどを通ることはなかった。食欲がでない長男は自分の部屋に戻る。
「ごちそうさま。」
夕食はまだたくさん残っていたが家族はそのことに触れない。
部屋に戻ってベッドに腰掛けると勝手に目から涙が流れる
家族で一番猫ヤマトをかわいがっていたのが長男だった。

猫ヤマトも長男が一番好きで長男が帰宅すると出迎え帰りが遅いときは「にゃぁお」と文句を言った。
長男が風呂へ入れば脱衣所で座り込みひたすら待っていた
寝るときも常にヤマトが長男のベッドに丸くなって眠る。

ヤマトは長男にとってペットというより掛け替えのない友であり弟でもあったのだ。
デジカメで撮影したヤマトの動画をパソコンで見てひとり笑い
画像を見て撮影した当時を懐かしみ回想していると涙が止まることはない。それほどヤマトは特別な存在だった

朝目覚めても活力が出ない、食欲もでない長男。仕事をしていてもやる気が湧いてこない。帰宅しても軽く食事し風呂に入ると
テレビも見ずベッドで眠るそんな毎日が続いた。

熱帯夜が続く夜、眠ることができない。ろくに食事をとっていない長男はやせ細り病人のような表情になっていった。
猫がいたときは猫のためにエアコンを効かせて寝ていたが
今はエアコンの電源はオフにしたまま。
暑い夜眠ることはできない筈なのに長男は夢をみた
それは黒い猫が長男に向かって走ってくる夢で黒い猫は死んだ筈のヤマトであり”兄貴、必ず戻るから”
声を聞いたわけではない。だがそう言っていたのが理解できた
翌朝目覚めた長男は
ヤマトが自分のことで悲しんでいる兄貴のために夢に出てきてくれたとひとり喜ぶのであった。どんなシチュエーションであったとしても猫ヤマトが夢に現れてくれたのが嬉しかった長男。

朝、出勤するために洗顔と歯磨きしていると妙な泣き声が聞こえたまるで子猫の鳴き声のようにも聞こえたので小走りで部屋に戻るとベッドの上のものを見て驚いてしまう。
ベッドの上にはほら貝のような大きな貝が置いてあり形容するとまるで巨大なかたつむりとしかいい表せない。
子猫のような声はその巨大なかたつむりから聞こえていた。
「にゃぁーー、にゃぁーー」と

洗顔に行く前ベッド上にはなかった巨大なかたつむり。
声がきになっていたので貝の穴に覗き込むと
「ふぎゃぁーー。ハぁーーー」といって威嚇してくる。
カタツムリから出てきたもの、猫の足であり毛並みは黒。
なぜこんなところに子猫がと疑問に。
「ヤマト~~おいで」
ヤマトの生まれ変わりとも生き返ったとも考えた訳でないが
黒い猫だったのでそう呼んでみただけ。

だがかたつむりからゆっくりと小さな顔、小さく丸い瞳
小さな耳には産毛が生えた子猫が現れた。
長男の手を確認するように小さな舌でなめて見る猫は安心したのかカタツムリから出てきて長男の腕に頭をこすり付ける仕草をする。
子猫の体を手で掴み胡坐をかいた足の上に乗せてみると
”ゴロゴロ”と喉を鳴らし喜ぶ猫。
この時点で子猫の名前は決まった!
”ヤマト” この名前しか思い浮かばなかったのだ。

「あ、、、いけない!会社が」
そう長男は出勤の支度途中だったのでこんな事をしてる場合ではなかった。焦った長男は急に立ち上がると子猫は転げ落ちる
突然衝撃を受けて子猫は驚き再びカタツムリの中へ。
中で猫は「はぁぁーーー、はぁあーー」と
怖かったのだろう貝の中で威嚇する声をあげていた。

「あ、ごめんなぁ。怖くないから!!ヤマト」
「会社に行くから これでも食べるかい?」
他界した猫ヤマトのために買っておいた缶詰のひとつを与え
長男は仕事のために部屋から出て行った。

長男にとってこの猫はヤマトではなく突然現れた不思議な猫
だがこの猫こそ他界した猫ヤマトの転生した姿だったのだ。
すでにヤマトは2回生まれ変わっていた。
無論長男や家族の知るところではない。
3回目でかたつむりの殻を持つことができるのだ
この姿こそ猫つむりと呼ばれる猫であり寿命は30年。

生まれ変わり子猫になったヤマト。
こうして再びヤマトと長男の生活が始まったのである。

この物語はフィクションです