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「人生って、素晴らしい/Viva La Vida」

 “我們一起揺太陽/VIVA LA VIDA”

  (2024/中国/面白映画=Open Culture Entertainment)

 

 監督:ハン・イエン(韓延)

 原作:フー・ミン シュウ・ジンピン

 脚本:ハン・イエン リー・リャンウェン

    ワン・シャオアイ ヤン・フージー

 

 ポン・ユーチャン(彭昱暢) リー・ゲンシー(李庚希)

 シュイ・ファン ガオ・ヤーリン リウ・タン ワン・シュン

 

 おすすめ度…★★★★☆ 満足度…★★★★☆

 

 

 
劇中で何度も発せられる「奥利给!」を『ファイト!』と訳した字幕の見事さ。
 
一般的なイメージとして中国で『頑張れ!』というと「加油」だと思う。
 
この「奥利给!」は、自分自身を「頑張れ」と鼓舞するときにも使用するらしい。
 
重度の腎臓病で生きるために人工透析を続けるリン・ミンと4年前に脳腫瘍の手術をしたものの再発の不安を抱えている青年リュト。
 
リンが一度は動画サイトに上げてすぐに消去した腎臓移植を願う動画を見てしまったリュトは、自らの死後の腎臓移植と引き換えに残される母親の面倒をみて欲しいと熱望する。
 
リュトは自らの腎臓がリンの移植に適合することまで調べたうえで、リンに対してストーカー紛いの執着を続ける。
 
前半はそんなリュトの行動に振り回されるリンの困惑がコメディタッチで展開する。
 
そう、このコメディ寄りの台詞のテンポが妙に心地いい。
自分たちの世代だと中国圏のコメディ映画というとジャッキー・チェンの香港映画というイメージが強かった。
 
1997年に英国領から香港が返還されて以降一国二制度の形骸化が加速し、いわゆる「雨傘運動」を経て、映画産業の面でも様々な検閲や法規制が進んだ。
 
中でもジャッキー・チェンは香港の民主化運動と対極にある大陸寄りの発言やスタンスが報じられるようになり、日本で公開される映画もあまり話題にならないようになった気がする。
 
政治的な話題はさておいて、旧来から中国映画というといい意味で大陸的というか、壮大な家族の一大叙事詩であったり、歴史的な大河ドラマの名作がすぐに思い出される。
 
香港でジャッキーがアクション作品を撮っていた時代には「紅いコーリャン」(1987)のチャン・イーモウ(張詒謀)や「さらば、わが愛/覇王別姫」(1993)のチェン・カイコー(陳懐皚)といった映像作家が日本でも注目され、ミニシアターブームも相まってそれぞれの作品もヒットした。
 
この時期、台湾には「恋恋風塵」(1987)などで知られるホウ・シャオシェン(侯孝賢)がいて、中国圏の良質な作品が多数公開されていた。
 
いつの間にかアジア圏の公開作品では韓国映画が圧倒的な本数となり、台湾映画の話題作もあるものの上映規模はやはり小規模で、中国映画に至ってはハリウッドが中国資本と組んだ作品を除くとほぼ目にしなくなったように思う。
 
そんな中でひっそりと公開された本作の上映館は、自分が鑑賞した時点で全国でわずか4館ということで、ちょっとびっくりするくらい小規模だ。
 
ストーリーそのものは難病ものにありていな展開なのだが、そのどのシーンを切り取っても何ともいえない至福感があって、もちろん喜怒哀楽の表情はあるのだけれど、きっとこの二人なら大丈夫と思わせる雰囲気が満ちていて最後まで心地よかった。
 
たまたま事前に最後はハッピーエンドであるという情報を見てしまったせいもあるかもしれないけれど、あえて感動への伏線を張っておくとかそういう演出があるわけでもないのに、キャストたちの魅力だけで安心感を得られるのはなかなか貴重な時間だった。
 
こうした難病ものだと、ともすれば共依存とかになりがちなテーマだけれど、互いを尊重する中で今とり得る最善な道を選んでいくことの大切さを若い二人が教えてくれた。
 
この感動の押しつけにならない一歩引いた目線というか、きっと同じストーリーを日本で映像化すると無駄に説明的になったり、あとづけのエピソードで語りすぎてしまうだろう。
 
例えば直近で観た「映画 からかい上手の高木さん」などもラストでありきたりのエピローグを映像化してしまったことに、原作やアニメファンからは否定的な意見が出ていた。
 
本作も最後のエピローグがあるけれど、観客はまだ先が見えないリンとリュトの病のその後に思いを馳せることが余韻として残る。
 
本作は中国映画ではあるけれど、あくまでも現代劇という設定なので、リンの動画サイトへの投稿という各国共通のSNS文化を象徴するシーンで始まるのも面白かった。
 
こういう映画に出会うとまた改めて作品を通して様々な人生を体験するという映画本来の楽しみ方を実感すると同時に、何でもかんでもスクリーンにかければ「映画」だというシネコンシステムの弊害も再考する機会にもなる。
 
映画ってさ、せっかく高い料金払って、鑑賞前後含めて半日近い時間を費やすわけだし、それがそのまま単なるレジャーみたいになってしまっている現状もわかるけれどもったいないよね。
 
最初から観たい作品だけを選ぶのではなく、昔の同時上映スタイルみたいに、ついでにもう一本観させられる…そのまんまのこともあるけどね…ことで新しい出会いがあったり、その先の映画についての自身のアプローチも変わったり、そういう楽しみ方はもうできないだろうね。
 
特に地方在住だとなかなかミニシアターまで手が回らないのも事実で、この作品も地元では二週間の上映期間だけれど、上映館によっては一週間のみとかもあったようで、エンタメ系も含めて楽しみたい者にとっては悩ましい日々が続くのか。
 
個人的にはこの映画のタイトルもツボでした。
 
♪…人生って素晴らしい…

 

 

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