「市子」 | MCNP-media cross network premium/RENSA

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「市子」(2023/ハピネットファントム・スタジオ)

 

 監督:戸田彬弘

 原作戯曲:戸田彬弘

 脚本:上村奈帆 戸田彬弘

 

 杉咲花 若葉竜也 森永悠希 倉悠貴 中田青渚

 石川瑠華 大浦千佳 渡辺大知 宇野祥平 中村ゆり

 

 おすすめ度…★★★★☆ 満足度…★★★★☆

 

 
 
ずっと気になっていた作品が地元のミニシアターにラインナップされたので楽しみにしていた。
 
冒頭、黒いワンピースを着た市子が、真夏の日差しの中で汗だくで歩くシーン、あー杉咲花っぽいなと思った。
さらに白い夏服の彼女が土砂降りの雨の中で天を見上げて「全部流れてしまえ!」と叫ぶシーンもいい。
杉咲花というとなぜかずぶ濡れの映像が思い出される。
 
女優杉咲花を認知したのはTBSの金曜ドラマ「夜行観覧車」(2013)の頃だったかなと思う。
もちろんそれ以前にも杉咲花という存在は知ってはいたけれど、その存在感というか一人の女優としての佇まいに魅了された最初はあのドラマだったはず。
 
映画では「トイレのピエタ」(2015)の女子高生役かな、“前前前世”が大ヒットしたRADWIMPSの野田洋次郎が役者デビューで主演した作品。
確かあの作品でも制服のままプールに飛び込むシーンがあったはず。
 
この映画を理解するためには「離婚後300日問題」による無戸籍児のことを知っておくべきだと思った。
そういう意味ではなかなかメジャー作品として一般層に薦めるのも難しい作品ではある。
 
実は事前情報をあまり入れないでスクリーンと対峙するようにしていることもあって、この作品における市子と月子の関係性についてずっと「??」状態にあって、実際には劇中でも説明されるのだけれど、その部分で自分自身の理解不足があったのは事実。
 
市子にはもともと戸籍がない。
だから亡くなった妹の月子として生きることもできた。
 
劇作家でもある戸田彬弘監督が主催する劇団チーズtheaterの舞台「川辺市子のために」を原作に映像化された作品。
 
とても重いテーマではあるけれど、市子と月子の関係性を含めたストーリーを過去と現在を行き来する中で、彼女と関わった人たちの証言を交えて描いていくのでわかりやすい。
 
脇を固める役者たちもいい味を出している。
現在の市子を愛する長谷川を演じる若葉竜也の誠実。
高校時代に市子の秘密を知る同級生役の森永悠希の逡巡。
行方不明の市子を探す刑事役の宇野祥平の戸惑い。
そして市子の母親なつみを演じる中村ゆりの覚悟。
 
作品全体の派手さはないものの、一人一人のキャラクターがしっかり映像の中で生きているのが感じられる。
舞台出身の監督ならでは生の人間を描こうという意思が見てとれるからだろう。
 
ただ市子の自己肯定感はやはり理解が難しい。
そういう生き方しかできない彼女のこれまでの思いは伝わるけれど、それがそのまま彼女の「生」を突き動かすエネルギーとなっているのが凄い。
 
まさに壮絶な人生とはそういうものなのだろう。
 
翻って自分自身の生きてきたこれまでの時間を振り返るとけして誰にも胸を張れるものではないし、それが正しいかったのかどうかも分からない。
 
そういう意味ではやはり市子のこの先の生き方を知りたいと思ってしまうし、彼女の壮絶な人生にどこか憧れのようなものを抱いてしまう自分に気づいて驚かされた。
 
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